昔の不動産業界はエグかった、初受注を妨害してきた大手仲介の社員

売買仲介営業をやっていると、様々な問題にぶつかります。営業、キャリア、社内の人間関係…

誰にも聞けない悩みは売買仲介営業専門のコンサルタント・梶本幸治さんに聞いてみましょう。

今週は、少し昔の不動産業界の話です。(リビンマガジンBiz編集部)(毎週水曜日更新)

動画は下から

問 いつも楽しく拝見しています。以前、ご自宅の売却をお手伝いさせていだいたお客さまが入居されていた老人ホームで亡くなったとのご連絡を頂きました。当時を思い出して、しみじみしてしまいました。梶本さんにとって記憶に残るお客様のお話があれば教えてください。

答 話しきれないくらい、たくさんいらっしゃいます。お客様の一生に一回の節目に立ち会えることが、売買仲介の醍醐味ですが、思い出に浸るのはほどほどにしましょう。

動画はこちらから↑

心が温まる、ある家族との出会い

私がまだ若い時、それこそ平成も一桁の時の話です。耳が不自由なお客様が、ご自宅を購入する目的で来店されました。ご主人様、奥様ともに耳が不自由でした。私が話すことは、小学校上がるか上がらないかくらいの年齢のお嬢様が全部手話でご両親様にお伝えしていただき、物件をご案内しました。

幸いにも、ご紹介したマンションをすごく気に入ってくださいました。
お客様はご夫婦で、専門性の高い仕事をやっておられました。手に職があって、耳が不自由であることは、全くお仕事に影響していなくて、十分な年収がありました。

私は完全に安心しきっていて、銀行に住宅ローンの事前審査を出したのですが、銀行からはまさかのローン不可との回答がきました。
なぜ、不可なんですか?と尋ねると、「お客様は耳が不自由なので債権管理ができない」という理由でした。

私はなめてんのか!と口に出すのを必死にこらえました。

しかし、上司は怒り心頭で、年収は十分なのにローン不可というならば「書面で回答せい!耳が不自由な方には債権管理ができないので、今後も絶対に貸し出しできませんと支店長名で回答してもらえ!」と私に指示しました。そのまま言ったら、その日の夕方には「やっぱり、あのローンOKなりました」となったので、なんじゃそりゃっ?と思いましたが、とにかく安心しました。

その後は、お客様も喜んでくださり、ご夫婦のご両親様もご来店されて、いろんなお話を聞いていただきました。本当にすごく喜んで、ご自宅を買っていただき、忘れられないお客様で、すごく心に残っています。

お客さんを「抜いた」大手仲介の記憶と上司の背中

忘れられないといえば、感動的な話ばかりではありません。
私の初契約になるお客様もいろいろな意味で忘れられませんね。

私がこの業界に足を踏み入れてすぐの時です。

ご自宅を探されているお客様がいらっしゃり、程よく良いお家がみつかりました。ただ、わずかにお客様のご予算に合わなかったため、買い付けを申し出てから価格交渉がありました。
その家は某大手不動産流通会社の扱っているものでしたが、そこの担当者が連絡あり「梶本くん、ごめんな」「ちょっと今回の値段は売主様に通らんかったわ」と言われました。

私はすぐにお客様に電話して、「すいません。値段通りませんでした。これからも頑張って探しますんでまた頑張ります!」と報告して、しばらく経った時です。

いつものように担当エリアを車でぐるぐる回って営業していて、初契約になるはずだった家の前を通ったら、その買い付け通らなかったお客様の名前の表札が上がっていたんです。

同じ苗字です。

何やこれ、と思わずピンポン押すと、お客さんが出てこられて「あ!梶本さん!」みたいに「来てもうた!」というような顔をしておられました笑

「え!この家買われたんですか?どういう経緯でそうなったんですか?」と聞きました。
私からは買い付けの報告を受けた、その後になって、物件の売主側の大手不動産流通会社の営業から電話がかかってきて「うちを通してくれたら。この値段で買えますよ」という風に説明されたそうなんです。

つまり、私は外されちゃったんですよ。

その後、事務所に帰って上司に報告したら
「そんなん!許されるか!お前、いくぞー!」取るものも取らずに、飛び出していき、私も後に続きました。
道中、「お前、こういう話は冷静さを失った方が負けやから冷静にいくぞ」って言っていた上司が、相手方の店舗につくなり

「もう、お前んとことは付きあいせーへん!」みたいになってブチギレていました笑

その勢いで、「梶本!お前からも何か言うたれ!」とくるので、

「私はまだ新人ですけど、あなたみたいな営業にだけは絶対になりたくないです!」と、調子に乗って言っていました。
それを聞いて、さすがに僕の客を抜いた営業社員も激怒していましたね。

今から振り返れば、やっぱり私の縛りが甘いということになると思います。

もちろん、お客様の抜き行為はご法度です。

しかし、営業担当を評価するならば、縛りが甘かったということに尽きると思います。

ただ、当時の私は上司がすごく怒ってくれたこと。僕側に立って、味方してくれたのが、やっぱり何か嬉しかったですね。
新卒で配属になったばかりだったんで、こういう人の下で働けるのは嬉しいなと、その後のモチベーションには繋がりました。

これが僕の初契約になるはずだったお客様のお話です。

実は、あと18組ぐらいは、お話できますが、今日はこの辺にしておきます笑

質問者の方は、多くは書かれていませんが、おそらくは亡くなったお客様とたくさんの思い出、エピソードがあるのだと思います。

住宅はお客様の一生に一回の買い物です。買主さんであれば、その家で人生を歩んでいかれます。

きっとお客様も営業社員のことを忘れないと思います。これは、この仕事の醍醐味だと思います。

ただね、醍醐味ではあるけれど、それは諸刃の剣でもあると思います。

お客様の一生に一度の買い物のお手伝いをする。お客様第一主義を掲げていると、自分からライフスタイルの押しつけというか、自己満足にしかならないこともあると思います。自分の世界のお客様第一主義は、押し付けでしかありません。

やっぱり、プロの売買仲介であれば、お客様のニーズを冷静に把握した上で色々とご提案をすることに、徹することは大事だと思います。

「ああ、ええ仕事したな」と振り返るのもほどほどにしながら、毎月の業績を積み重ねて いくべきではないでしょうか。

 
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