こんにちは。弁護士の大西敦です。
以前、「財産分与における住宅ローン付き不動産の取り扱い」と題するコラムを公開しました。
ここでは、合意内容を、離婚協議書の条項を交えつつ、ご説明したいと思います。
1 自宅の所有権、登記名義、住宅ローンの名義も妻に移転する場合
これは自宅の所有権及び住宅ローンの名義人が夫で、財産分与によって、所有権は妻に移転、住宅ローンを妻が支払っていくというものです。ここでは、甲は夫、乙は妻になります。
1 甲は、乙に対し、別紙物件目録記載の不動産を財産分与する。
2 甲は、乙に対し、別紙物件目録記載の不動産について、財産分与を原因として、所有権移転登記手続をする。
3 乙は、甲に対し、○○銀行との平成○年○月○日付け金銭消費貸借契約に基づく債務について、乙が債務の本旨に従って支払うことを約束する。
4 乙は、甲が前項の債務を負担したときは、甲に対し、その負担額を支払う。
1と2は、夫名義の不動産を妻に財産分与し、登記を移すという内容です。
3は、離婚後は住宅ローンを妻が支払っていくという内容ですが、これはあくまで夫婦間での合意に過ぎないことから、金融機関に対しては効力はありません。このような場合、住宅ローンの引き落とし口座(夫名義)を妻が管理し、入金していくのが一般的ではないかと思います。
4は、夫が住宅ローンの支払いを余儀なくされた場合の条項になります。
2 自宅の所有権は妻に移転、妻が住宅ローンを一括で支払う場合
これは、妻が住宅ローンをその約定に従って支払っていくのではなく、一括で支払うというものです。
前記の条項の場合、夫側は自宅の所有権を失うにもかかわらず、金融機関に対するローンの支払義務は追い続けるということになります。
この条項の内容が実現できれば夫が債務から解放されるというメリットがあります。
ただ、これは妻が一括弁済をできるほどの資力があるか、あるいはローンの借り換えができる場合に限られます。
1 甲は、乙に対し、別紙物件目録記載の不動産を財産分与する。
2 甲は、乙に対し、別紙物件目録記載の不動産について、財産分与を原因として、所有権移転登記手続をする。
3 乙は、甲に対し、○○銀行との平成○年○月○日付け金銭消費貸借契約に基づく債務について、一括で支払うことを約束する。
3は一括で支払うことを約束するものです。
所有権移転登記と一括弁済を同時に行うことも考えられます。
その場合には、3に「前項に移転登記手続と引き換えに」といった文言を入れることが考えられます。
3 自宅の所有権、登記名義、住宅ローンが夫が支払っていく場合
これは自宅の所有権及び住宅ローンの名義人が夫で、財産分与によって、所有権は妻に移転、住宅ローンは引き続き夫が支払っていくというものです。
1 甲は、乙に対し、別紙物件目録記載の不動産を財産分与する。
2 甲は、乙に対し、別紙物件目録記載の不動産について、財産分与を原因として、所有権移転登記手続をする。
3 甲は、乙に対し、○○銀行との平成○年○月○日付け金銭消費貸借契約に基づく債務について、甲が債務の本旨に従って支払うことを約束する。
この条項の問題としては、夫が住宅ローンの支払いを怠った場合、妻は、その不動産を失う危険があるということです。
このような場合に備えて、上記1の4のような条項を加えておくことが考えられます。