こんにちは。弁護士の大西敦です。

 不動産を購入する際に、その物件からの眺望を重視する方は多いと思います。

 法的に問題になるのは、購入後、認識していなかったような眺望であった場合、購入後、しばらくして近隣にマンションが建設され、眺望が阻害されてしまうような場合です。

 このような場合には、業者の説明義務が問題になるわけですが、ここでは、裁判例を紹介しながら、ご説明したいと思います。

1 福岡地方裁判所平成18年2月2日判決


 「全戸オーシャンビューのリビングが自慢です。」として、眺望をセールスポイントとして販売されたマンションを購入した買主が、ベランダのすぐ外に電柱と送電線が見えたことから、売買契約を解除したところ、売主である販売業者が、買主に対し、違約金を請求し、反対に、買主は、手付金の返還等を求めたという事案です。

 判決は、「売主は、購入希望者に対し、販売物件に関する重要な事項について可能な限り正確な情報を提供して説明する義務があり、とりわけ、居室からの眺望をセールスポイントとしているマンションにおいては、眺望に関係する情報は重要な事項ということができるから、可能な限り正確な情報を提供して説明する義務がある」、「説明義務が履行されなかった場合に、説明義務が履行されていれば買主において契約を締結しなかったであろうと認められるときには、買主は売主の説明義務違反(債務不履行)を理由に当該売買契約を解除することができる」として、買主による契約解除を認め、売主である販売業者の請求を退けました。

 判決は、買主による手付金の請求、すでに支払ったオプション工事代金の請求は認めましたが、慰謝料の請求は認めませんでした。


2 大阪高等裁判所平成11年9月17日判決


 「上階からは二条城の眺望が広がります」、「二条城の景観が広がる住宅も6戸を御用意」として、京都市の二条城東側に建設されたマンションを購入した買主が、居室の西側は、隣接ビルによって、大部分の眺望が遮られているとして、契約を解除し、手付金の返還等を求めたというものです。

  一審は、買主側の請求を認めませんでしたが、控訴審である大阪高裁判決は、「未だ完成前のマンションの販売においては、購入希望者は現物を見ることができないから、売主は購入希望者に対し、その売買予定物の状況について、その実物を見聞できたのと同程度にまで説明する義務があるというべきである。そして、売主が説明したところが、その後に完成したマンションの状況と一致せず、かつそのような状況があったとすれば、買主において契約を締結しなかったと認められる場合には、買主はマンションの売買契約を解除することもでき、この場合には売主において、買主が契約が有効であると信頼したことによる損害の賠償をすべき義務があると解すべきである。」として、契約解除を認めました。

 1と2の判決は、いずれも完成前に売買契約が締結された事案で、単に眺めがいいといったものではなく、二条城、オーシャンビューとして、具体的な眺望をセールスポイントとして、マンションを販売したというものです。

 両判決は、眺望に関する正しい説明を受けていれば購入しなかったという場合には、解除を認めるという考え方に立っており、眺望がよいことを理由に購入したという動機を重視していると言います。

3 大阪地方裁判所平成5年12月9日判決


 「バルコニー越しに望む遥か大阪湾の素晴らしい眺望が優雅な暮らしを演出します。」等と眺望がよいことをセールスポイントとしてマンションを販売した業者が、その隣地を別の業者に販売、別の業者がマンションを建設したことにより、眺望が阻害されたとして、購入者が販売業者に対し、損害賠償を求めた事案です。

 判決は、「被告は、本件マンションを販売するに際し、本件マンションからの眺望をセールスポイントの中心に置き、本件南側土地については、種々の理由を挙げて、本件マンションの眺望を阻害する建物が建築される可能性がないと説明しており、本件マンションを購入した原告らは、右説明によって、本件南側土地に本件マンションの眺望を阻害する建物が建築される可能性がないと信じて、本件マンションからの眺望の良さを動機の第一として本件マンションの購入を決意したものである。」、「このような経緯からすると、原告らの右信頼は、法的に保護されるべきものであり、被告には、原告らに対し、本件南側土地に本件マンションの眺望を阻害する建物を建築しないという信義則上の義務があると解すべきである。」、「従って、被告が本件南側土地に本件マンションからの眺望を阻害する建物を建築することは、右信義則上の義務に反するので、原告らに対して違法な行為になると解され、また、被告が本件南側土地に本件マンションからの眺望を阻害する建物を建築することと同視される行為をすることも、同様に、原告らに対して違法な行為になるというべきである。」として、損害賠償を認めました。

 この判決は、マンションを建設したことではなく、隣地を売った販売業者に対する損害賠償請求を認めたものです。

 眺望がよいとしてマンションを販売した業者が、その後にマンションを建設し、眺望を阻害する結果になったことを理由として損害賠償を認めた事案は多く存在します。

 このような判決の考え方を前提とした場合、眺望がよいことをセールスポイントとしてマンションを販売してしまった業者は、その後の経済活動が大きく制限されることになります。

 
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