豊洲市場への移転の価値
豊洲市場への移転がしばらく延期になりましたが、
そもそもこの移転にはどのような効果を狙って計画したのでしょうか?
築地、豊洲両方の土地の価値を比較することで考えてみることにします。
<豊洲の土地の価値>
土地の価値は地価公示の価格が有力な手掛かりとなります。
まず、公示ポイントを見てみます。
豊洲には公示ポイントがありませんので、晴海にある「中央3」で950千円/㎡
有明にある「江東6」で550千円/㎡であることに着目します。
豊洲はこの中間にありますが、容積率が200%しかないので、
700千円/㎡(坪2300千円)くらいでしょうか。
(出所:東京都不動産鑑定士協会「東京の地価Googleマップ」より一部編集)
これに面積12万坪を乗じると総額で2829億円ということになります。
この数字は土地の取得費と土壌汚染対策費を加えた現在の簿価2710億円をかろうじて上回っています。
しかし、土壌汚染対策費は更に追加でかかるようですから、開業時には土地の含み損失を抱えた状態
になることはほぼ間違いありません。
<築地の土地の価値>
一方、築地ではどうでしょうか?
写真(2017年2月筆者撮影)で見る通り、現在鉄筋2階建ての建物で利用度は低いのですが、
道路の向かい側の街区は高度利用が進んでおり、景観の違いは一目瞭然です。
(築地市場の道路向かい側の状況)
(築地市場の利用の現況)
現状の土地価格は公示ポイント「中央5-10」が道路の向かい側にあり、
その公示価格は1680千円/㎡⇒坪当り5500千円ですが、築地の容積率が500%なので、
やや落として坪5000千円とします。
そうすると、総額では5000千円×7万坪で3500億円となります。
しかし、これは現況を前提とした計算であり、再開発をして高度利用を進めた場合はどうなるのでしょうか?
シミュレーションしてみました。
築地市場の用途地域は商業地域で建ぺい・容積率は80%/500%ですが、これだけ広い土地ですか
ら建ぺい率を目一杯使うことは考えられません。
また、この敷地の南側には豊洲と直結する地下道路が計画されており、
かつ、敷地の中央部には大江戸線の地下線路が走っていることもあり、敷地全体は使えませんので、
使用建蔽率を20%程度にとどめて余裕を持たせた配棟にします。
それでも東京ミッドタウンタワー4棟分のビルが出来上がりますが、
隣接する汐留貨物駅跡地の再開発と同様の光景になると想像すればよいでしょう。
なお、川沿いは事務所ではなく、一部は高層マンションに置き換えることも考えられます。
概算ですが、シミュレーションの結果は上記の通りで、土地価格は約9200億円と計算できますから、
現状価値の3500億円よりもはるかに大きな価値を有する可能性を秘めていることになります。
そして、その差額の5700億円が豊洲移転の結果生じる、土地利用の効率化による
経済効果ということになります。
30年近く前のウォーターフロント活性化計画はこのような土地利用の効率化による
価値増殖をもくろんだもので、決してバブルの産物ということではなかったはずです。
この果実を失うのはいかにも勿体ないことですので、今回の移転問題については
土壌汚染対策さえ甘く考えなければと悔やまれます。
なお、以上は机上のあくまで概算であり、鑑定評価の場合にははるかに厳密な前提条件と
複雑な計算を行いますので誤解のないようにお願いします。