賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。

今回は、ユーザーのニーズも変化する賃貸業界において、今後の物件内見について考えます。

画像=PIXTA

最近、出張が多く、地方のホテルに泊まることがある。宿泊したホテルの居心地がとても良かった場合は、繰り返しそのホテルを使うことがある。一方で、初めてのホテルは、当然のことながら、実際に現地に行ってみて、そのホテルを確認しなければならない。なかには、想像以上に居心地が良いホテルがあり、自分の「お気に入りリスト」に入れることもある。その反対に、想像よりも酷く「二度と使わないな」と思うこともある。

当たり前だが、旅行や仕事などで使うホテルを、事前に現地で確認することはしない。言い換えれば、「内見を行い」判断することはしない。あくまで、旅行サイトやそのホテルサイトの写真や金額、スペックなどで、判断するしかない。また、キャンプなどで、大きな車を使うために、レンタカーを借りることもある。実際に、車に乗ってみて、乗り心地が良いものもあれば、そうではないものもある。こちらも、当然だが試乗などをして判断をするわけではない。ぶっつけ本番である。

コロナ禍の際、一時的にだがオンライン内見が流行った。現地に、不動産会社の営業メンバーが赴き、zoomなどでユーザーと繋がり、動画で物件を撮影しながら接客する。もう2~3年経つが、当時はこれが一般化するのではないか、と話題になっていた。

また、オンラインの申込手続きも一気に浸透した。不動産店舗で物件の申込を行うのではなく、ユーザーはスマホに必要事項を入力し、身分証をアップロードすることで、部屋をおさえることができるサービスだ。

さらに、コロナ禍では、オンライン重説もかなり一般化した。それ以前から法律上、解禁されていたものの、コロナ禍で急激に広まった印象だ。

コロナ禍からもうすぐ、3年程経過する。現在、賃貸仲介の現場では、オンラインの申込は、より拡大しユーザーにオンライン重説を提案すると、ユーザーは、当たり前のように了承するようになっている。

しかし、物件を自らの目で見ずに申込を行う、つまり内見を行わず手続きを進めることについては、あまり広がりを見せてはいない。

先述した、ホテルの予約でも、レンタカーの試乗でも、下見的なことは必要としないのに、どうしても自分が住む住宅は、自分の目で確かめておきたいユーザーが、圧倒的に多数なのだ。さらに言えば、今後もこの傾向はしばらく続きそうだ。

現在、賃貸物件の情報を得るためには、不動産会社の自社サイト、ポータルサイトがメインになる。

さらに一部物件では、YouTubeなどのSNS動画サービスで室内の確認もできるし、さらにGoogleマップ内のストリートビューなどで、立地や外観の確認などができる。これだけ見ると、相当数の情報量を手にすることができそうだが、それでもユーザーは、内見を強く希望する。

長く、仲介業務を支援していると、「内見でしかわからないこと」が多くあることに気付いてくる。まず、物件周辺の雰囲気がそうだ。Googleマップなどでは、そのエリアの雰囲気は、把握できない。実際に、現地に行ってみると、思いのほか周辺の雰囲気が暗かったりすることは多々ある。

また、エントランスの雰囲気、建物全体の雰囲気も現地で見てみなければわからない。エントランスの清掃が行き届いてなかったり、全体的にエントランスの印象が暗かったりする物件は、実際に成約率が低い。

部屋の中に入っても、現地で確認しなければいけないことが多々ある。部屋内の匂い、そして雰囲気。また、壁の厚み、騒音などがそうだ。いくら動画を撮っても、完全に補完することはできないだろう。

人間の目は、圧倒的な情報量を仕入れることができると言われている。そして、視覚だけではなく、嗅覚や聴覚などで、さらに多くの情報を仕入れる。そう考えると、現在の物件情報だけでは、まだまだユーザーは、内見をせず部屋を申込みすることに不安を感じるのかもしれない。

また、冒頭に話したホテルの宿泊についても、泊まる期間は、せいぜい2~3日である。1カ月程、滞在することもあるかもしれないが、もしあまりにも快適ではなかった場合は、ホテル側に部屋を変えてもらうようにお願いすれば良い。ちなみに、レンタカーもせいぜい1日、2日しか借りない。

そう考えると、賃貸仲介は、長い場合は、4年以上、通常でも2年程度は、住むことになる。そして、ほぼ毎日その部屋を使うことになる。慎重になるのは当然なのだ。諸般の事情で、内見できず部屋を申し込む以外は、実際に自分の目で確かめたい、というユーザーの心理はごく真っ当な意見なのかもしれない。

今後、ユーザーの部屋探しの利便性は、ますます向上していくだろう。問い合わせから、不動産会社のやり取りは、よりライトになるだろうし、空室の確認などもよりリアルタイムで把握することができるようになる可能性が高い。

しかし、「ユーザーが内見し、自分の目で確認する」という行為は、最後の最後まで残りそうだ。そう考えると、仲介業としての仕事は、まだしばらくはありそうだ。

 
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