賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。

会社との相性

画像=PIXTA

この人と話すと何故か落ち着く。この人とは何故か縁があり、長くお付き合いしている。そうした経験は誰しもあるのではないだろうか。また、仲の良い夫婦を見ていると、「ああ、この二人はお似合いだな」と感じることがある。根本的に、この二人は相性が良いのだろう。いっぽうで、どうにも仲良くできない人もいる。相手の性格が意地悪だとか、約束を破るなどの理由ではなく、相手には特に問題がないのに、「どこか合わない」、「何故か仲良くなれない」そんな経験をされたかたも多いだろう。ちなみに、こうした「相性」みたいなものは、人と人ではなく、人と会社にもあるように感じる。それは会社の働く場所や待遇、業務内容などとは、また別の問題のようだ。

自分自身も数十年の間に、いくつかの会社でお世話になってきたが、こうした相性のようなものがあった。有難いことに、気持ちよく働くことができ、自分自身の力を大いに試すことができた会社もあれば、なかなか自分の力を発揮できずに、しょっちゅうトラブルに見舞われ、全く評価されずに後にした会社もあった。不思議なことに、それぞれの会社が与えてくれた環境に大きな違いがないのにも関わらず、だ。

環境や待遇が悪くても何故か乗り越えることができ、精神的にも楽に生きることができる会社もあれば、満足な環境や待遇を受けていたのにも関わらず、どうにも自分の力を発揮できず、周囲とも違和感があり、毎日気が重く出社する会社もある。なかなか不思議なものである。

また、不動産会社の従業員と接するなかで、自分と同じようなケースをたくさん見てきた。成績優秀で輝けるキャリアを築き、さらなるステップアップを図り転職したが、次の会社では、全くその輝きがなくなってしまうケース。逆に、前職では鳴かず飛ばずで仕事の成果が上がらず、表情も暗いかたが、転職して別の会社で働き始めた途端に一気に才能が開花し、自分の力を発揮することができたりもする。

ちなみに、ごくたまに取引先や友人から、あくまで秘密裡に個人的に退職の相談をされることがある。私はこうした方に必ず伝えることがある。「会社との相性みたいなものがあると思います。今は自分が働く会社との相性は悪く感じているかもしれません。しかし冷静に考えてみましょう。相性が良い部分があれば残ったほうが良いですし、そうでない場合は退職しても良いかもしれません」また、追加してこうも伝える。「もし転職してもその転職先との相性が良い場合とそうではない場合があります。入社して心を押し殺して頑張ることも重要かもしれませんが、会社との相性を冷静に見て、もし本当につらければ逃げても良いと思います

こうした「会社との相性」とはなんだろうか。冒頭で述べたように特に業務内容というわけではないようだ。同じ業務内容を違う会社で与えても、輝くケースとそうではないケースがある。とはいえ、勿論、自社内で部署異動を命じられ、その後、その人と会社との良い相性を取り戻すケースも多々ある。しかし、そうした場合でもやはり相性が悪ければ、業務内容に問題は無くても長期的に見れば、結局は転職してしまう。

また上司との縁というだけでもない。良い上司に巡り合えても、輝けないこともあるし、逆にマネジメントの能力が著しく低い上司と働いている人でも、時間が経過すれば、それが糧となり、社内で成果を残すことができる人もいる。

それでは会社の文化の問題はどうだろうか?これも全く当てはまらない。いくら自由な社風で働く従業員がすべて善良な人だけでも、会社との相性は変わらない。

ちなみに本当に稀だが、会社との相性を変えていく人もいる。明らかにツイていない、どう頑張っても成果が出ない、いわゆる会社との相性が悪い人が、自力で奮起し、一気に会社との相性を良くするケースもあった。しかし、残念なことだが、本当にそうした人は、数人だ。90%以上の人は、謎の「会社の相性」という渦の中で働いていく。

あくまで感覚的な部分だが、こうした会社との相性がわかるのは、早くて1年、長くて5年程度だろうか。正直言って、5年以上、自分自身との相性が悪い会社にいると、その人の人生自体が勿体ないと感じてしまう。いっぽうで残念なことは、その会社との相性を見極めず、足元の状況だけですぐに会社を転職してしまうケースだ。第三者の立場である私が見ても、「時期尚早では」と感じてしまうそうした方々の転職は、正直言ってかなりの高確率で上手くいかない。

もしこれを読んでいる方のなかに転職を考えている方は、少しだけでも「自分と会社との相性」を考えてみてほしい。入社して時間が経過して、社内の環境、業務が何度か変わってもずっと心に大きな雲が圧し掛かっているような精神状態の場合は、相性は「良くない」。逆に、そうした心が重たい時期はありながらも、なんだかんだで困難を乗り越えたり、仕事に行く足取りが軽い時期がある場合は、会社との相性は根本的には「良い」はずだ。人と人との関係が長期的な縁があるように、会社と人でもそれはある。是非、頭の片隅にでも置いて頂ければ幸いだ。

 
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