毎週木曜日配信 さんきゅう倉田「そのニュースに課税します!」

不動産や住宅と深い関係がある税金。
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属、元国税局職員のさんきゅう倉田さんが、税金に係わるニュースについて解説します。

今回は、伊丹十三監督・映画「マルサ女」の脱税方法に関する解説です。(リビンマガジンBiz編集部)

元 国税局職員さんきゅう倉田です。
枕の下に本を入れるとその夢を見られると聞いて、寝るときは枕の下に『総勘定元帳※』を入れています。

※勘定科目ごとに全ての取引を記載する勘定口座を集めた会計帳簿

東京国税局で働く職員のうち、売店のおばちゃん以外おそらく全員が見ている映画が『マルサの女』。故・伊丹十三さんが監督、宮本信子さん主演で1987年に公開されました。劇中で、主人公の板倉亮子は、数件の税務調査に臨場します。

もう一人の主人公であり、巨額の脱税を犯す権藤社長(山崎努)の「へっ なにが税務署だ、来るなら来てみやがれ」という盗人猛々しい発言ののちに、映画のタイトルが現れ、始まる、税務調査。

1件目は、板倉と後輩の女性調査官がオープンテラスのカフェで内観調査を行うところから始まります。
このカフェ、全くレジを打ちません。レジのお札が入っているところは開きっぱなし、カフェのテラスよりオープンです。アルバイトの源泉所得税も納めておらず、売り上げの根拠となる伝票の一部を破棄して、売上を除外していました。

このことから、給料から天引きした源泉所得税は留保、あるいは、その金銭は代表者が個人的に費消していると考えられます。また、伝票を破棄し、レジも打たないのであれば、日々の売上は概算でつけているのでしょう。

こういった方法は、内観調査がなくとも仕入れの金額との開きから、不正はかんたんに発覚します。このレジを打たずに伝票を破棄する方法や、預かった源泉所得税を収めないのは30年経った現在でも横行する不正です


(画像=写真AC)

次に行った総菜屋では、「これだけ揃ってると、ほとんど買い物必要ないでしょ」という板倉の問いに、店主が「外で買うのは米と野菜、それに魚くらいのもんかね」と迂闊な回答から始まります。この質問は、「これだけ(商品が)揃ってると、(お店のものを食べればいいから)ほとんど買い物必要ないでしょ」という意味です。会社の商品は、代表者であろうとも理由なく食べてはいけません。

おお、店主よ、誘導されてしまうとはなにごとじゃ。


さらに板倉は質問を続けます。「お店のものを月に10万くらいは食べてますか?」に対し「10万てことはないけど、8万は食べてるんじゃないですか」と、具体的な金額まで述べる始末。致命的な勉強不足です。この回答で、この法人の『売上計上もれ』が確定します。

実際の調査では、この自家消費が売上計上もれに該当するかは、判断の分かれるところですが、こちらも現在でも気軽に行われている経営者の過ちです。重加算税の対象となるかは、このあとの調査次第ですが、少額なら指導に留めて見逃してもらえることもあるでしょう。

『マルサの女』における不正は、パチンコ編ラブホテル編がありますので、それはまた別の機会に。

 
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