「積み上げる日々の尊さ──ある格闘家と歩む自分の仕事論」

賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。

画像=PIXTA
不動産業界に身を置いてはや25年以上が過ぎ去った。振り返ればあっという間のようでもあり、その一つひとつの経験が濃密で、積み重ねてきた日々が自分の血肉になっていることを思うと、決して短い時間ではなかったと実感する。この年月の中で、仕事というものの本質について幾度となく自問自答してきた。華やかな言葉を飾るよりも、一歩ずつ足場を固めるように日々の業務を愚直に積み上げることの重みを思い知らされたからだ。お客様との信頼関係は一朝一夕に築けるものではなく、毎日の積み重ねこそが揺るぎない信用の土台になる。だからこそ、自らの専門領域について誇りを持ち、自信を胸に抱きながら向き合う姿勢の大切さをあらためて噛みしめている。
そんな折、自分の中で強く響く存在として意識に刻まれているのが、格闘家の青木真也選手だ。格闘技を愛する者なら誰もがその名を耳にしたことがあるだろう名選手である。リング上、もしくはケージ内で幾多の修羅場をくぐり抜け、そのたびに観客を魅了してきた戦いのプロであると同時に、自らの足で立ち続ける気概を示し続ける姿に、人としての矜持を強く感じさせられる。青木選手は試合だけではなく、日々の思考や哲学をブログサービスのnoteやYoutube(最近始められた)という場に継続的に投稿し、その考えを発信し続けている。そのコンテンツには、単なる技術論では語り尽くせない、人間としての芯や覚悟が滲んでいる。
彼の発する言葉には一貫性がある。どの投稿にも共通して流れているのは「自分の仕事に誇りを持つこと」、さらに「プロとしての矜持を失わないこと」、そして「日々の鍛錬を怠らず、自分にできることを徹底し続けること」だ。どんな舞台であっても、青木選手の中で揺らがない強い信念がそこにはある。格闘技の世界で命を賭けるような戦いに挑む彼だからこそ、その言葉には重みがあり、心を突き動かされる。彼のストイックなまでの姿勢に触れるたびに、自分の背筋も自然と伸びるような思いがする。
振り返れば、私自身も独立してからもう8年近くが経つ。独立開業をしたその日から、私は自分の不動産業務に関する知見や情報を発信し続けている。世の中でしばしば見かけるようなSNSの投稿のように、一度で大きな注目を集める「バズり」を狙ったことはない。むしろ、派手さを追い求めるよりも、自分なりの言葉で、地道に情報を伝え続けることを大事にしてきた。もちろん青木選手のように、名声を一身に集めるほどの存在ではないし、その足元にすら及ばないことも分かっている。けれど、それでも自分なりに仕事にプライドを持ち続け、信念を捨てずに進んできたという確かな思いはある。
不動産の世界で生き抜くためには、何よりも人からの信頼を得ることが欠かせない。専門知識を備えることも大事だが、その知識を支えるのは信頼感であり、信頼を軽んじる者にはいずれ道が閉ざされる。どれほど才能があり能力に恵まれていても、自分の立ち位置や役割をわきまえずに暴走した者が失敗していく姿を、何度も目の当たりにしてきた。あるいは、一度築いた信頼を自ら壊してしまい、あっという間に退場を余儀なくされた人もいた。能力の有無ではなく、その能力をどう支え、どう使っていくかという人間性がすべてを決めるのだとつくづく痛感してきた。
青木選手の言葉に触れると、自分自身の足元をもう一度確かめる気持ちになる。プロとして立ち続けるとは、ひたすらに自分のやるべきことを繰り返し、怠らずに積み上げることだ。青木選手は格闘家という極限の舞台で生きながら、私たちに「自分の道を疑わずに歩み続けろ」と教えてくれる。たとえ孤独であっても、自分の納得する形で戦い続けるその姿勢には強い感銘を受ける。
自分の仕事に誇りを持つというのは、単なる自負心ではない。そこには、自分を律する覚悟がある。だからこそ、怠けを許さず、学びを止めない。お客様や取引先に対しても甘えは生まれない。青木選手の覚悟と誇りに重ね合わせながら、自分もまた不動産という世界で生きる者として、変わらずプロ意識を持ち続けたいと願う。
結局のところ、どんなに時代が変わっても、人としてやるべきことは変わらない。日々を淡々と、しかし確かに生きること。地道であっても、自分の足で積み上げていくことの価値は永遠に失われない。SNSで一瞬のきらめきを競うよりも、その裏に隠れた地道な努力こそが人を支える。青木選手の生き様を通して、私はそれを学んだ。だからこれからも、不動産という自分のフィールドで、一人でも多くの人に信頼される存在であり続けるために、日々をコツコツと生き抜きたい。ただひたむきに、自分にできることを積み上げ、何年先も自分の信念に胸を張れるように歩み続けるしかないのだ。
実際、今後の不動産業界は、海外資本の流入や外国人の居住者の増加、そして空き家問題など変革を余儀なくされることが多いだろう。しかしながら、そこで戦うプレイヤーの本質は変わらない。それぞれの持ち場で頑張るしかないのだ。