賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。

繁忙期まっただ中の今回は、繁忙期特有の問題について紹介します。

画像=PIXTA

毎年のことだが、1〜3月の繁忙期のこの時期は、都心部の多くの仲介会社は、業務が「パンクする」。反響数も大幅に増加し、それに併せて来店数、そして申し込み数も増加する。当然のことながら、申し込み数が増加すると、契約業務も増加する。営業活動も事務作業もいずれもこの時期は、かなり忙しくなることは間違いない。

ユーザーからたくさん問い合わせがあり、ユーザーの希望の物件にどんどんと申し込んでいけば良いのだが、それが容易ではない現実もあることを忘れてはならない。それは、私がまだ営業メンバーだった10年程前から、現在に至るまで脈々と続いているのである。

以下のような事例だ。

とある物件にユーザーから問い合わせが火曜日にあった。ユーザーと連絡を取り合い、土曜日に内見できるようスケジュールをおさえた。念のため、問い合わせ物件以外も同時に紹介しようと、2件追加で内見できるように準備をした。

内見日前日の金曜日に、念のため空室の確認と内見の確認を行ったところ、既に別のユーザーの申し込みで募集が止まっていた。さらに追加した2件の物件のうち、1件も同様に募集が終了していた・・・。

ユーザーに状況を連絡すると、残りの1件だけでも内見したいという要望を受け、当日残った1件の内見を行った結果は好感触。しかし、最終判断である申し込みの手続きは、当日の夜に行うとのことだった。当日の夜、無事に、申し込みする旨の連絡がユーザーから届いた。営業メンバーが申し込み手続きをしようとしたところ、その物件も終了してしまっていた・・・。

おそらくこうした事例は、賃貸仲介の現場の至るところで見られる光景なのだろう。実際に、私も数えきれないほど経験してきたし、現在、支援させて頂いている仲介会社様の現場でも散見されている。「物件の申し込みは、先着順」これは動かしようもない業界の常識でもある。しかしながら、よくよく考えると、このような事例は、不動産業界特有のものであることも事実なのである。

物件の内見までにかなりの時間を要してユーザーとやり取りし、内見の手配準備を行った時間が、ほぼ無駄になってしまう。不動産会社のみならず、ユーザーからしてもやり切れない思いだろう。予定の変更などの手間もあり、それなりに大変だ。週末の内見のためにユーザーは、休日に時間を作る。そして不動産会社も、週末の貴重な時間にアポを入れる。しかし、募集が終了した時点で、その予定は白紙になる。

ちなみに、物件が終了するタイミングとしては、

  • 問い合わせの段階で既に申し込み済み
    (これは、おとり物件になります)
  • 問い合わせしてから、内見するまでのあいだに申し込みが入ってしまう
  • 内見中に申し込みが入ってしまう
  • 内見後、検討中に申し込みが入ってしまう

この4つのタイミングになるだろう。

現在ではなるべく即時に申し込みができるようにオンライン申し込みなどが一般的になっているし、内見前に先行で申し込みを入れることを了承する管理会社もある。しかしながら、全体のルールが統一していないため、仲介会社の対応は、それぞれ個別対応になり、対応が難しいようだ。

現在、こうした状況で仲介会社として対応できることは、問い合わせを行ったユーザーに対して、「物件が終了してしまう可能性がある」旨をしっかりと伝えるか、もしくは、先行申込(可能な管理会社による)を促すかしか方法はなさそうである。

全体としての理想像は、空室物件のリアルタイムでの更新が全物件でできるようになることと、事前の予約や仮止めのようなシステムが全体で浸透することが、理想ではないだろうか。

仮止めをする際は、身分証を添えて個人情報を入力する(1人1件まで)。仮止めの期間は、現空であれば3日間。空き予定の物件は、内覧可能になり5日〜1週間程度が妥当だろう。ただ、こうしたことが実現するためには、業界全体で取り組む必要があるので、かなり実現は難しいかもしれない。それでもこの「募集が終わってしまった」ことに対する労力や時間は、かなり莫大になるので、それが無くなると確実に仲介業務のスタンダードは、変化するだろう。

現在、新幹線や飛行機の予約をする際は、リアルタイムで空き状況を確認できる。また、ホテルや祝初施設などもそうだ。世の中からすると、一般的ではあるが、不動産に関しては、プレイヤー(業者数)が多く、1物1商品であることが大きなネックになっている。

もしかしたら数年、もしくは数十年後に、こうした申し込みの問題は解決できるかもしれない。その時が来ることを、個人的には楽しみにしたいと思う。

 
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