賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。

今回は、賃貸仲介営業スタッフのキャリアについて考えます。

画像=写真AC

最近、同じ質問をされる機会があった。それは、「賃貸仲介の営業スタッフは、歳をとったらどのようなキャリアを歩んでいるでしょうか?」という質問だ。

質問主は、不動産テック系の事業責任者のかたや、採用支援をしているコンサルタントなど、様々だ。たしかに、疑問に思うのは当然だろう。世間一般のイメージとして、賃貸仲介のスタッフの年齢はとても若い。仲介店舗を覗いてみれば、20代〜30代前半がほとんどだし、各不動産会社のホームページに掲載されているスタッフ写真などを見ても、若いかたがとても多い。

しかし、当たり前だが、こうしたスタッフも10年も経過すれば、10歳年をとる。10年後も同じスタッフがそのまま賃貸仲介のスタッフとして勤務していることは稀で、そのほとんどが、入れ替わっていることが圧倒的に多い。ある種の都市伝説のようだ。

今回は、そんな「賃貸仲介のスタッフのその後のキャリア」について少し紹介してみようと思う。

まずひとつめのケースは、大手不動産会社や管理業や開発業も兼ねている不動産会社で賃貸仲介部門に勤めているかたのキャリアだ。この場合は、単純に「配置転換」を伝えられ、そのまま賃貸仲介の営業から卒業するケースが大半である。年齢の若い間は賃貸仲介でエンドユーザーと接し、接客のノウハウと仲介業の基本を学んでもらう。そして数年経過後、社内の賃貸管理業や開発業に異動する。多くの大手不動産や、総合不動産業(賃貸管理も売買も行っている会社)は、こうしたケースが圧倒的に多いだろう。

では、こうした規模が大きい、もしくは事業領域の広い不動産会社ではなく、ほぼ賃貸仲介業のみの会社ではどうだろうか。

こうした会社の場合、社内の賃貸仲介部門で出世していくケースが考えられる。店長になり、ブロック長になり、部長になっていく。店舗のカウンターで営業をすることはないが、全体のマネジメントを行う。こうしたキャリアは、複数店舗を経営している不動産会社でよく見られる。

また、このように社内の同事業部で出世していく人は、マネジメント能力がかなり高いかたが多いように感じる。実際に仲介店舗の数字の多くの部分は、マネジメントに起因しているのも事実である。

こうした社内でのジョブローテーション、もしくは賃貸仲介部門内での出世が、同じ社内でキャリアを続けていくケースだと思うが、「転職」の際はどのようなキャリアになっていくだろう。異業種への転職ではなく、不動産業界内の転職について考えてみる。

ひとつめは、賃貸管理会社への転職である。賃貸仲介業で毎月数字に追われる生活よりも、どっしりと腰を据えてキャリアを歩んでいきたい。こうした希望を持つ賃貸仲介スタッフも多くいるように感じる。実際に管理会社のかたと会話をすると、「元々賃貸仲介をやってました」という人はかなり多い。

ふたつめは、売買仲介会社・再販会社への転職である。当然のことながら、一件あたりの報酬は、賃貸仲介業より売買仲介業のほうが多い。「より規模の大きな仕事をしてみたい」という気持ちで、売買仲介業にチャレンジしていくかたも多いように感じる(ちなみに、私の以前の同僚は、現在ほとんどが売買仲介、買取業を行っている)。

最後は、「独立」というキャリアだろう。自分自身で会社を立ち上げ、頑張っていきたいというかたも一定数いる。しかし、昔ほど簡単に賃貸仲介業で独立できるわけではなくなった。成約単価の減少や、ポータルサイト内での顧客獲得の競争など、かなり知恵を絞らないと、なかなか独立して成功するのは、容易ではない。しかし、それでも一定数は、現在でも独立している。

こうして考えてみると、賃貸仲介で「営業一筋」で数十年キャリアを歩んでいく人が、かなり少ないのは間違いない。

賃貸仲介の店舗で若い方しかいないのは、それなりの理由があるのである。
ひとつは、業務が雑然としており、煩雑で忙しく、休みも不定期であることが理由のひとつだろう。年齢を重ねると、落ち着いてじっくりと仕事をしたいし、家庭とのバランスも考えていきたいのが本音だ。

また、給与面の部分も影響があるようだ。歩合給は、魅力的に見えるが、売買仲介のように大きな歩合給を手にする機会は、そう多くはないだろう。取引単価の低いこともネックになっているのかもしれない。

こうして考えると、賃貸仲介の営業スタッフが若い方しかいないのも、なんとなく納得がいく。

しかし、エンドユーザーと接して、客付を行う賃貸仲介業務は、この不動産業界においては、何よりも重要な業務であることも忘れてはいけない。いくら何棟も物件を購入しても、そこにテナント、入居者がいなければ収益を生み出すことは、できない。その入居者をアテンドするのは、賃貸仲介のスタッフである。また、数万室を管理したとしても、その部屋が空室だと、全く収益が上がらない。その空室を埋めていくのも賃貸仲介のスタッフによるものである。

今後は、賃貸仲介の業務の刷新と同時に、「キャリアの考え方」も業界で重要な課題になっていくだろう。

 
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