賃貸仲介業と離職率についての相関性

賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。今回は、賃貸業界の離職率にフォーカスします。(リビンマガジンBiz編集部)

画像=写真AC

賃貸仲介業を営んでいる不動産会社の幹部の方と話をしていると、こうした声がよく聞かれる。「最近、〇〇店のメンバーが抜けて、売上が減ったんだよ」。またこのような声も聞かれる「最近、離職率が上がっていて、なかなか売上が安定しないんだよ」

当然のことながら、賃貸仲介業で様々な戦略、戦術を立てたとしても、結局のところ、それを実行するのは人である。離職率が高ければ、経営陣の思うような事業計画を実行することは難しい。

また、賃貸仲介業の全体売上は、一人当たりの売上が合計されて売上が成り立つ。人数が減れば減るほど、売上も比例して減少していく。

いっぽうで、売上が安定している会社、または売上が伸びている会社は、離職率がかなり低い印象だ。実際のところ、こうした不動産会社は、メンバー育成にもかなり力を入れている。しっかりと人材を育てていくことは、賃貸仲介業においては、「わかりやすく」売上に直結するのだ。

そう考えると、不動産仲介業の事業運営において、キモとなるところは「人材の定着率」が大部分を占めているのかもしれない。多くの仲介会社の売上が失速してしまう原因は、ほとんどの場合「メンバーが辞めてしまった」というところも頷ける要因になるだろう。

私自身もさまざまな不動産仲介会社の売上向上施策をお手伝いしてきたが、突き詰めて考えると、それを実行できる人が「いる、いない」のところがまず重要なところだ。

よく賃貸仲介会社の方との飲み会で話題になる大部分が、社内の人材についての話だ。多くの賃貸仲介会社の責任者が、「人」の問題で頭を抱えている。

では、離職率を減らし、人材を上手く育成している企業とそうではない企業との違いはどのような違いがあるだろう。これまでの離職率が低い会社とそうではない会社の違いをまとめてみた。

・最適な反響数の提供ができているか

営業メンバーに渡す反響数が圧倒的に少ない会社は、なかなか定着率が悪い。延々と物件を入力をしたり、写真を撮影したりしていても、やはりユーザーと商談をしなければ、どうしてもメンバーのモチベーションは上がってこない。

そう考えると、ある程度、運営側で反響獲得ができる仕組みを構築しなければいけないだろう。

しかし、いっぽうで「反響提供数が多すぎる」のも問題だ。嬉しい悲鳴なのは、間違いないが、ひとりあたりの反響対応数がキャパを超えてしまい、激務にさらされ、モチベーションが下がってしまうケースも多くある。

重要なことは、メンバーにとっての最適な反響数を事業責任者が理解したうえで、組織全体で、その反響目標を達成するように動き、そしてコントロールすることだ。

勿論、状況によっては、メンバー自身が反響獲得のために、掲載業務をする必要がある。しかし、「目標の反響数」(最適な反響数)をメンバー自身が理解しているかどうかで、こうしたルーティン業務に向かう姿勢も変わるだろう。

・少し先の会社の方向性を会社側が伝えているか

賃貸仲介業務をしばらく行っていくと、やはり業務に「飽き」が出てしまう。これは仕方ない問題かもしれないが、問題はこのルーティンの仕事自体を行うことにメンバー自身に納得感があるかどうかだ。

「3年後にこうした新規事業を行う」、または「2年後に〇〇店舗にする」など、中期的な方針が組織に浸透しているか否かで業務の納得感が変わってくる。

「この仲介業務の仕事が永遠に続くのではないか」と心のなかで考えながら業務に従事するメンバーは、実際かなり多い。しかし「数年後に〇〇の方向へ向かう」と会社自身が方向性を示すことでこうした不安は多少は軽減される。

・定期的な幹部陣とのコミュニケーション

定期的に直属の上司と面談などを実施することは多いかもしれないが、離職率が低い仲介会社は、それと同時に「幹部陣」が定期的にメンバーとランチや面談を実施している。

直接の上司では、どうしてもいろいろな感情が湧いてしまうが、幹部陣だと逆に気楽にコミュニケーションができるメンバーもいるようだ。

幹部もあまりそうした面談の場では、数字的な話をせず、あくまで雑談や将来の方向性などをヒアリングするに留まったほうが良い。

実際に、退職を検討していたメンバーに早い段階で幹部が面談を行い、離職を回避したケースを何度も見てきた。

・明るい職場の雰囲気を現場のリーダーが作り出せるかどうか

厳しい数字目標や、ハードルの高い業務指示など、仲介現場では、メンバーに様々な要求を行なう。さらにそこにユーザーのクレーム対応なども絡んでくると、職場の雰囲気はより重苦しくなるだろう。しかしそれでも、「明るい職場」であればあるほど、離職率は当然のことながら低くなる。

実際のところ、目標数字がとんでもなく高い会社でも職場の雰囲気が明るければ、離職率は高くはないし、逆にあまり高い要求を企業側からされていない職場でも、職場の雰囲気が暗いとやはり離職率は高くなる。

私自身、クライアントの職場で「こんなに目標が高いのに、明るくて活気のある職場だな」と感じたこともあれば、「そんなに目標が高くないのに、重い空気の会社だな」と感じたこともある。

優秀な店長の素質は、もしかしたら明るい雰囲気を作り出せる能力があるかどうかなのかもしれない。

・育成制度の充実と透明度の高い評価制度

これは言わずもがなだが、社内の育成制度がきちんと整備されているか否か、また評価が公平に、かつ透明度が高く実施されているか否か、で離職率は大きく変わる。

仲介事業はどうしても社員の流動性が高い事業だ。しかし、それを踏まえたうえで、あえてしっかりとした育成制度、評価制度を策定することで、メンバーの会社に対する貢献度は大きく変わっていく。

以上のような項目が、仲介メンバーの離職率を左右している要因だ(勿論、他にもたくさんあるだろう)。

しっかりとした育成制度と評価制度を作り、明るい職場のなかで、定期的に幹部がメンバーをフォローし、少し先の方向性を伝える。

そして最適な業務量を与えて、正当に評価していけば、離職率は大きく下がるだろう。ただ、実際のところこれを実行し、浸透することはかなり難しい。しかしながら、賃貸仲介事業で成功している会社は、ほぼ100%の確率でこうした人事の取り組みを実行している。

賃貸仲介事業を大きく伸ばすうえで、人材の定着率は最重要課題なのである。

 
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