巷で審査落ちが増加している賃貸業界

賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。(リビンマガジンBiz編集部)

画像=写真AC

最近、かなりの頻度で耳にするようになったことがある。それは、「審査落ちが、ここ数年でかなり増えている」というものである。

賃貸仲介の店舗でも、管理会社でも本当にこうした声が最近は特に多い。仕事柄、複数の不動産会社からの声を聞くことになるが、大半の不動産会社から同時に聞かれるこの声には、なんらかの原因があるかもしれない。

たとえば、とある賃貸仲介店舗の責任者は、こう呟いていた。

「申込の数は昨年より多いのですが、とにかく審査が通らなくなっていて、そのせいでキャンセルが増加し、昨年よりも成約数字が悪いんですよね」

またとある都心の管理会社様は、こう言っていた。

「保証会社の審査の段階で審査落ちになってしまうので、なかなか空室率も改善しません。明らかに去年と比べて審査落ちが増加しています」

増えた審査落ちの理由とは

一言で、賃貸物件の「審査落ち」といっても、いろいろな種類の「審査落ち」がある。

まず1つ目の理由は、反社の項目に触れてしまった場合である。これは一発でアウトだ。反論の余地もない。また金融系の事故などもNGだ。

このあたりの審査基準は従来通りであるし、こうした理由で審査落ちが増加している印象はあまりない。

他の「審査落ち」の理由としては、年収や勤め先、勤続年数によるものである。あくまで現場の感覚ではあるが、このあたりの理由が原因で審査が通らない案件が増加している印象がある。

今回、とある仲介会社様に協力頂き、審査落ちの理由(推測されるもの)をヒアリングしてみた(ちなみに一般的に、保証会社や管理会社は、仲介会社に対して審査落ちの理由を教えない。あくまで推測や傾向の検証になる)。

ヒアリングをしてみたところ、審査落ちをした7割強のユーザーが、非正規社員の方、そして2割の方が希望物件に対しての低収入が原因のようだ(残り1割はおそらく反社か金融事故)。

同様に管理会社にヒアリングしてみたところ、具体的な割合は教えてくれなかったが、この割合に対してそこまで大きな乖離はないとのことだった。

昨今、「一生のうちで転職をせずひとつの会社で働き抜く」、という選択肢を取る人は、本当に少なくなった。転職は、かなりの高確率で人生に訪れるもののひとつだろう。しかしながら、今までは退職後「別の企業に転職する」という選択肢が大半だったが、今は「独立してフリーランス」で仕事をする、「起業をして自分で会社を経営する」という選択肢を選ぶ人も圧倒的に増えてきている。このあたりの社会の構造の変化が少しこの「賃貸物件の審査」というところにも影響を与えているのかもしれない。

勿論、それなりのスキルと人脈を持って独立する方は、初年度でも充分な年収を獲得できるかもしれない。しかしながら、そのような方でも独立して数カ月後に入居審査を受けると、かなりの高確率で審査落ちしてしまう。

また表現が難しいが、「それなりのスキル」のない方でも、今は気軽にクラウドワークスなどで、フリーターに近いようなかたちで仕事をすることもできる。こうした方も、かなり入居審査のハードルは高くなるだろう。

また法人を設立し、代表者として企業経営をしても、最初の2~3年までは、賃貸審査のハードルが高い。さらに節税対策で、利益調整をしてしまうと、より入居審査は厳しくなる。けっして現金を持っていないわけではないが、なかなか審査が通りにくいことは、間違いない。

柔軟な審査が求められる賃貸市場

では、いっぽうで保証会社や管理会社が、画一的に入居審査を断っているかといえば、これもけっしてそんなことはないようだ。数年前までは、上記の条件のような、フリーランスや創業して間もない代表者などは、問答無用でNGを出していたが、現在は、保証会社としてもかなり審査に対して柔軟に対応しているような印象を受ける。たとえば、仕事の実績などがわかるものをユーザーから提出してもらったり、預金残高証明を提出してもらったりなど、いろいろと工夫しているようだ。

しかし、それでもやはり入居審査落ちは、近年増加している。時代的な背景として、物件を詐欺のような犯罪行為に使われていないためのリスクヘッジ対策の増加も理由のひとつでもある。また、何と言っても非正規で働く若者の総体数が増えたことが一因のような気もする。

入居者自身の入居審査通過が難しい場合は、親などを契約者に立てることが多いのだが、その親自体も高齢化し年金受給者になってしまい契約者を立てられないという実情もある。

今後も、この「入居審査」の問題は、賃貸住宅市場に重くのしかかってくることだろう。現場で起きている些細な変化が、実を言うと社会構造の変化の始まりだったりもする。

引き続き注視していきたいものだ。

 
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