もはや「売買か賃貸か」の議論ではなくなってきたユーザーの住まいの選択肢

 

賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。(リビンマガジンBiz編集部)

画像=写真AC

議論が盛り上がる「持ち家」「賃貸」論争

少し前に、とある不動産会社の社長と会話で、究極の選択として「売買がおススメか、賃貸がおススメか」という議論になった

ひととおりの意見交換をした後、その社長はボソっとこう呟いた。「まぁ、どちらもメリット、デメリットがあるよね」

たしかにこの議論は、数十年前からある。4、5年に1度、メディアでも取り上げられ、それなりに話題にっているようだ。実際のところ、この社長の発言通り、それぞれにメリット、デメリットがあるだろう。ユーザーの資産状況や、将来設計、考え方、居住エリアの想定まで細かくヒアリングできれば、「買ったほうが良いのか、借りたほうが良いのか」は、なんとなくは、判断できる。しかし、なかなか悩ましいのは、こうしたユーザー自身の状況も時期によって変わってくるということだ。特にユーザーの考え方や価値基準などは、時代によって変容してい印象がある

ちなみに最近、賃貸ユーザーでも「新築で駅近の都心の物件を通常の賃貸契約で借りたい」といういわゆる大多数のが思うであろうユーザー層の割合が減少しているような印象を受ける。昨今、ユーザーの趣味思考は、ますます個別化されていると言われている。好きなミュージシャンやアイドル、映画などのサブカル的な要素がある嗜好性の個別化のみならず、趣味やライフスタイルなど全般に渡り、かなり個人の嗜好性が細分化されているようだ。

物件選びもまさにそうなっている。コロナ渦でそれに拍車がかかったのではないか。「売買か、賃貸か」だけでは、もう片付けられないほどに、ユーザーのライフスタイルは細分化されている気がするのだ

最近は、上記のように賃貸ユーザーの嗜好もひとくくりにはできなくなっている。そう、現場で感じる。通常の賃貸借契約で借りるユーザーには、「都心」か「郊外」かという選択にプラスして、「田舎でリモートワーク」という選択肢も与えられたし、「新築」か「築古」かという選択肢には、「リノベ」物件などの選択肢も加えられている。

また、ただ通常の賃貸物件を選ぶだけではなく、それ以前に「マンスリー」や「ホテル住まい」、「シェアハウス」みたいな選択肢もある。今までよりも明らかにユーザーの選択肢は増え、そして提供するサービスも増加しているのは間違いない

また、特にここ最近は、反響物件の「散り」が目立つ。コロナ前までは、特定の人気物件に反響が集中する傾向があったのだが、最近は、以前は全く反響がなかった物件に問い合わせが入るようになった。しかも興味深いのは、こうした物件には傾向がなく、特徴が捉えにくいことにある。

 

20年で激変した不動産の選び方

売買においても同様に選択肢が「新築戸建」だけではなくなった。当然「新築分譲マンション」もあれば、「中古戸建」、「中古マンション」もある。さらにそのなかで、ユーザーの「ライフスタイル」や「嗜好性」を加えると、選択肢は非常に多岐に渡るだろう。

また「資産性」を考えたときに、投資のポートフォリオとして、こうした購入物件を組み込んでいくか否かでも個人によって、考え方は異なってしまう。 

考えてみれば、こうした不動産の選び方は、この20年程で大きく変わった。1990年代頃までは、「賃貸で暮らして、結婚して家を買って、その家に老後に住む」という選択をするユーザーが大半だった。しかし、こうした常識は、現場のユーザーの声を聞くと、かなり減少傾向にある。そう考えると、「賃貸か、売買か」という二元論では、なかなか片づけることは、難しくなっているかもしれない。「借りる」という選択肢にしろ、「買う」という選択肢にしろ、多岐に渡っていることは間違いない。

では、こうした時代に対して、不動産会社のメンバーは、どのようなスキルを身に付けていけばよいのか。これまでは、「宅建」などの資格を取得し、地域の不動産情報や相場を頭に叩き込み、そして営業スキルを身につければ事足りていたのだ

しかし、今はそれだけでは足りないのかもしれない。なにせユーザーは、これまでにはない「多くの選択肢のカード」を手にしている。最適な提案ができるようになるには、「その他の選択肢のカード」を理解していかなければいけないだろう。

まずは、自分自身が従事している事業以外の業務内容もある程度、理解しておいたほうが良い。「賃貸仲介業」が業務のメインでも、「賃貸管理業」、「売買仲介業」の業務内容あたりはカバーしておいたほうが良さそうだ「新築戸建販売業」がメインであれば、「中古戸建、マンション仲介業」や「買取、再販業」、さらには「賃貸業」などもカバーしておいたほうが良いかもしれない。

また不動産業のトレンドニュースも、チェックしておくこともおススメだ。法改正などのチェックのみならず、新しい不動産サービスのリリースを確認しておく。こうしたサービスなどの情報取得も主体的に取りにいかなければ、あっという間に時流に乗り遅れてしまうかもしれない。

こうした「他の業務内容」を理解したり、「最新情報」を確認したりすることは、前述したように細分化されたユーザーに対応するためだ。ユーザーの希望するライフスタイルを理解したうえで、改めて自分の土俵となるところで営業をしていかなければならない。

 今後は、宅建を取得して、営業スキルを伸ばせば、ひと安心というわけではなさそうだ。人々のライフスタイルはこれまでの速度とは比べられないくらい細分化されている。その傾向は、今後もより加速していくだろう。

 
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