申込キャンセルと掲載物件の終了済が多い賃貸業界の構造上の問題

賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。(リビンマガジンBiz編集部)

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なぜ入居申し込み後のキャンセルが増えているのか

先日とある管理会社のかたが、こうおっしゃられていた。「とにかく申し込みのキャンセルが多いんです…」確かに、キャンセルは年々増えてきている印象がある。また仲介会社のかたは、こうもおっしゃられていた。「とにかく空室がすぐ埋まってしまって、物件の申込ができない」この傾向も年々増加している。

また不動産業界とは全く関係のない知人は、こうも言っていた。「賃貸物件を問い合わせしても、内見日までに終わってしまっているケースが多いんだよね」

では、こうしたキャンセルの増加や、仲介会社同士の空室物件の「取り合い」、さらには「終了済物件の掲載の多さ」のような事態が発生する根本的な原因はなんだろうか。突き詰めて考えると、賃貸業界の本質的な問題に近づくことができるような気がする。

一般的に、仲介会社が他社の管理会社の物件を内見し、申込をする際、申込情報をユーザーから取得し、管理会社に提出(もしくは送信)する。管理会社は、ある程度のユーザーの情報が揃った段階で、部屋どめをする。この時点で、基本的には管理会社が募集をストップする。 (なかには二番手の受付を継続して行う管理会社もある)

たとえば、9月5日に仲介会社からの申込が管理会社に入った場合、元付の管理会社は当然募集をストップする。物件データをAPIで連携している場合は、連携しているポータルサイトの掲載も同時にストップさせることができる。

しかし、データ連携をしていない場合は、厄介なことになる。この物件を掲載している他の仲介会社の電話等での空室確認が9月5日に行われず、2日後の9月7日だった場合、2日間程度、該当物件は、サイト上では「申し込み済だが募集中かつ掲載中」という状況になる。ユーザーからすると、こうした事情は当然わからない。しかし、現在の仕組み上、上記のようになってしまうことがかなり多いのではないだろうか。

ちなみに、管理会社側の視点として、仲介会社からの申込物件のキャンセルに関しては、当然そこにメリットと言われるものはない。申込が来た段階で、管理会社のスタッフは、審査業務を開始する。なかにはオーナーに申込が入った旨を伝える管理会社も存在する。

しかしながら、審査業務をしているうちに、仲介会社との連絡のなかで、雲行きが怪しくなるケースが出てくる。たとえば、仲介会社から「申し込み者の方と連絡が取れなくなってきた」という一報を受ける。そうして、申込から1週間経過した段階で、「キャンセルの連絡」が仲介会社から来る。

この1週間のタイムロスは、オーナーにとってもかなり痛い。特に3月下旬の繁忙期などは、この一週間程度の部屋確保ののちのキャンセルは、忸怩たる思いになるだろう。

仲介目線での「物件をおさえませんか?」と言いたくなる事情

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いっぽうで、仲介会社としても、やりきれないケースがある。たとえば、ユーザーから火曜日に物件の問い合わせを受け、土曜日に内見の予約が入った場合、金曜日に前日の空室確認を管理会社に行う。その際に、部屋の申込が入ったとの回答を受ける。当然のことながら、その旨を、問い合わせをしたユーザーに知らせる。仲介会社は、急いで代替の内見物件の提案をその連絡の際に同時に行う。ユーザーからすれば、前日にいきなり「問い合わせのあった物件がなくなったので、別の物件を見に行きませんか?」と言われると、予定は狂うし、不信感にも繋がりやすいだろう。

仲介会社のなかには、内見前に物件をおさえるために申込を事前に行うことを誘導するケースもある。「週末までになくなってしまうので、物件をおさえませんか?」というトークである。

当然、物件をおさえることはできるが、いっぽうで管理会社は、前述したように審査業務を開始してしまう。

これは、個々の管理会社や仲介会社の問題ではなく、やはり構造上の問題が要因のような気がする。業界内の問題点としても、よく上がっている議題でもある。

話は変わるが、新幹線の予約システムや、コンサートなどの講演会、カーシェアの予約などは、この数年でかなり仕組み化が進んでいる。オンラインで現在の空き状況をリアルタイムで認識でき、その場で予約が取れるようになる。確定をすると、クレジットカードなどで自動で決済が完了する。個人的にも、さまざまなサービスを使っているが、多くの「予約システム」の進化に対して、感心することが多い。

たとえば、賃貸物件のリアルタイムの空室状況が誰でもわかるような仕組みはできないだろうか。クレジットカード登録をし、内見前に予約できる仕組みを構築する。勿論、内見の日程も同時に確保し、内見後6時間以内に確定ボタンを押すと、そのまま審査が開始されるような仕組みなどは生まれないだろうか。

現在、賃貸契約において、預かり金などを受領することは、推奨されていない。制度上、手付金も受領できないようになっている。しかしながら、こうした予約システムの仕組みが導入できれば、内見後の確定などの際は、手付金受領ができるようになっていても、違和感はなさそうだ。

ちなみに、不動産業界で、こうした仕組み化がなかなか進まない原因は、長らくこの業界にいるので、個人的にもよくわかっているつもりだ。とにかくプレイヤーが多く、こうした情報の統一化が難しい。また業務フローにも影響を与えるので、小さな不動産会社のDX化も進めていかないといけない。また利害関係などもあり、これもなかなかハードルが高い。

しかし、現在、ポータルサイトのかたや、各団体のかた、有識者のかたなどが、この問題に真剣に取り組み始めている。賃貸業界の大変革は、この申込フローの改善点であることは、間違いない。いろいろな障壁があると思うが、是非進んでいってもらいたい。

変革の先には、新しい部屋探しのスタイルが生まれていくだろう。

 
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