「花束みたいな恋をした」を観て考えた、東京に住むということと、居住地その後の人生に与える影響について

 

画像=写真AC

 

先日、かなり遅ればせながら「花束みたいな恋をした」を配信で鑑賞した。大変素晴らしい映画で、とても感動した。ここまでリアリティのある恋愛映画は、そうそうないのではないだろうか。

この映画では、男女の恋愛の細かい会話内容や、2010年代後半のサブカルチャーの描写などが、映画に膨らみを持たせている。こうしたところは、坂元裕二の真骨頂だ。

また、こうした細かい内容の演出のなかで、住んでいる「場所」にも相当リアリティがあった。主人公の男性が最初に住んでいる場所は、明大前が最寄駅のアパートだ。そして同棲を始めた2人は、調布駅徒歩30分の2DK物件(たぶん)。不動産関係で長く働いていると、この演出に猛烈にリアリティを感じる。

※今回は東京の不動産関係者しか楽しめない内容になっているかもしれないが、映画の素晴らしさに免じて、ご容赦いただきたい。

同棲するカップルは、だいたい男女のどちらかが元々住んでいる沿線に引っ越す。そして1人で住んでいた駅に比べて、都心より「離れて」引っ越す傾向がとても強い。この映画では、男の子が「明大前」に住んでいるが、同棲するということになると「調布」に引っ越す。他の事例で言うと、たとえば中央線で、男女のどちらかが「阿佐ヶ谷」に住んでいたが、同棲となった場合は、「国分寺」に部屋を借りるイメージだ。

こうしたことが起こるのは、物件とライフスタイルの事情がある。上記の映画の例で言えば、単身用で明大前のアパートを借りることはできても、同棲用の物件を借りることは難しいことなどがそうだ。理由として、単純にこうしたファミリー賃貸の供給が少ないのと、家賃がとても高いことがあげられる。しかし、都心から離れると、割安なファミリー賃貸物件の数が増え始める。また、団地の賃貸貸しなども目立ってくる。

また、一旦その沿線に住むと、その沿線やエリアにユーザーは定着しがちだ。エリアに愛着が湧いてくるのと、その地域の知識が増えるので、他のエリアにはあまり移動しない。勿論、住んでいる沿線に良いイメージが最後まで湧かなく、その沿線、エリアから離れることもあるが、そうしたケースは、あまり多くはない印象だ。そう考えると、やはり日本の東京というエリアは、総体的に魅力的な場所なのだろう。

また今回の「花束のような恋をした」は、「東京都心の中央西側文化」を上手く描き出していると感じた。東京に長く住み、不動産の仕事をしていると、とても強く感じるのだが、東京には東側と西側では、微妙に異なる空気が流れている。勿論、どちらが良いとか悪いということではない。西側は、新宿より西側の中央線、小田急線、京王線の文化圏がそうだ。また渋谷から西側の城南エリア文化圏。そして高田馬場、池袋を起点とする西武線、城北エリアなどがある。

東側は、人形町、水天宮界隈のエリア。そして秋葉原を起点とする総武線(都営新宿線)、浅草界隈のエリア、北千住、上野を起点とする伊勢崎方面エリア、西日暮里からの千代田線エリアなどがある。

繰り返すが、特にこれらの文化圏に優劣があるわけではない。ただ、各エリアには、それぞれのエリアで、なんとも言えない「独特の文化的な匂い」が、漂っている。そしてその匂いは、決して断絶するわけでなく、絶妙に混在していることが、東京という街の面白さなのだろう。

 

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東京の西側にだけある文化

「花束のような恋をした」では、繰り返し京王線(中央西側の文化)をこれでもかと描写している。

明け方まで営業している居酒屋で合流する学生たちの描写、甲州街道沿いの無機質感などは、まさに中央西側の文化だろう。

本来は、こうしたことが言語化できれば良いのだろうが、なかなか現在、この「東京文化」というものは、言語化されていない。一度、こうしたことをまとめてみたいものだ。

このように「東京に住む」、ということは、目に見えない文化圏に無自覚に入っていく、ということだ。住みやすい場所や通勤に便利な場所、それだけではないのだ。そこには、言葉にできないエリアの魅力がそれぞれある。また興味深いのは、こうしたエリアの魅力は、かなり強力で、なかなか離れ難いものがあるということだ。そう考えると、「最初の部屋探しの場所」は、ある意味、その後のライフスタイルを決定する一大イベントなのかもしれない。たまたま不動産屋に紹介された場所、物件で、新しい東京の人生が始まっていく。それは、さまざまな偶然が重なり合った運命みたいなものかもしれない。
  
ポータルサイトなどでは、「通勤〇〇分以内」などのような検索機能がある。これは、大変便利なものだ。しかしながら、街によって生まれる独自のライフスタイルを加味しながら、物件を提案する方法が、もう少し不動産業界の中でもスタンダード化しても良いかもしれない。

土地がもたらす文化や空気感などは、大きく若者のアイデンティティに影響を与える。そう考えると、ユーザーにとって最初の部屋探しは、人生のとても重大なイベントなのだ。改めて仲介会社の意義を考えてみたい。 

 
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