内見時における「事件」、「事故」について、改めて考えてみた

画像=Pixabay

この時期、いわゆる繁忙期になると、年に一度はほぼ必ず報道される「事件」がある。事件とは、内見時に不動産会社が犯してしまう、もしくは不動産会社が被害を受けてしまう事件のことだ。たとえば、内見中に、不動産会社社員が女性のお客様に猥褻な行為をしてしまう。また、女性の不動産会社社員が、内見中の密室で性的な強要をされてしまう。悲しいことに、こうした事件は、後を絶たない。

また、最近では、空室の物件で卑猥な写真を撮影したことに協力したと噂された不動産会社が炎上した。(後日、炎上した不動産会社は撮影に協力したわけではなく、全くの誤解だったと言われている)

いずれにしても、こうした「物件内見中」は、少なくとも事件に「なりやすい」状況であることは、間違いない。なにせ前述したように年に一度は、ほぼ確実に報道されるのである。「こういう事件を起こすから、不動産業界のイメージがもっと悪くなる!」などの危惧する意見が頻繁にあがるのも、ごもっともだ。ただ、なぜこうした事件が頻繁に起こるのだろうか?

今回は、不動産業界の構造的な問題から、このことについて考えてみたいと思う。

賃貸業界の構造に弱点

そもそもの話から始める。賃貸物件には、当然のことながらオーナー(所有者)がいる。そしてオーナーは、入居者募集や日常的な物件管理を不動産会社に任せる。この任せられた不動産会社は、一般的に「管理会社」と呼ばれる。

この管理会社が空室の部屋に対して新規の入居者を獲得しようとする時、自分たちで入居者を見つけてくることができれば良いが、それができないことがある。

理由としては、その管理会社に「募集力」がないからだ。そうした場合、管理会社は、他社の「募集力」が強い会社(仲介会社)に募集を依頼する。

管理会社としては、オーナーと揉めたくもないし、物件でトラブルなどを起こしたくはない。また、物件管理をするにあたり、管理会社は、それなりに該当物件の知識を持っておく必要がある。しかし、いっぽうで、仲介会社にとってみれば、「紹介ができる数多い物件のなかのひとつの物件」としてしか、こうした物件は認知されない。

都心部でよくある話だが、物件紹介はするものの、実際に部屋を見たことのない物件を紹介する仲介会社のスタッフがとても多いという事実は、こうしたことから派生していっているのだ。

離職率が高い仲介会社

上記のような管理会社に所属している社員の平均年齢に比べると、仲介会社に勤めるスタッフの平均年齢は、とても低い。これは、仲介会社の離職率が高いことが一番の理由だろう。多くの物件を管理している不動産会社は、安定収入があるが、管理物件を持っていない仲介会社は、安定的な収入はない。

こうした企業経営の不安定で、仲介会社を離職していく若者が一定数いるのも、動かしがたい真実なのである。

勿論、昨今は、仲介会社もスタッフに対して、教育制度をしっかり作り、育成に力を入れている会社が増えてきてはいるが、いっぽうで、そうではない会社も多く存在している。人手が足りないが故に、とにかくお金を稼ぐために頭数の確保のみに執着し、モラルがないスタッフを雇ってしまう。残念ながら、内見時に前述したようなトラブルが起きるのは時間の問題かもしれない。

ちなみに、仲介会社に女性の若いスタッフが多いことも同じ理由からである。離職の回転が早いが故に、逆のこと(仲介会社が被害を受けること)も起こりうるのである。

「無料」かつ「気軽」に内見ができる

たとえば新築の一戸建てのモデルルームなどは、家族で事前に予約し、内見するが、賃貸物件の場合は、かなり気軽に内見ができる。極端に言えば、当日、偽名で問い合わせをし、現地で待ち合わせをし、内見をすることも可能といえば可能である。

また、特にユーザーが対価を払っていないので、たとえばクレジットカードの信用情報や、身分証のコピーなどの身元がわかる資料を内見段階では取得しない。

気軽に内見してもらえることには、良い部分もあるだろうが、どこの誰かわからない人間と密室で2人になってしまうというリスクも発生しているのである。

現地の鍵の開け方を知っていれば、誰でも開けることができる。

内見の方法は、管理会社に鍵を取りに行ったり、現地で管理会社が立ち合ったりなど、さまざまであるが、一番多いパターンは、「物件現地に鍵を置いている」というパターンだろう。勿論、キーボックスなどを設置して、誰もが部屋に入れるようにするのを防止はしている。しかしながら、その番号や開け方さえ知っていれば、誰でも内見ができるというのも事実である。

番号が漏れてしまえば、極端に言えば出入り自由である。ましてや管理会社もチェックしなければ、完全に無法状態になってしまうのだ。

では、こうしたリスクを無くすために、すべての内見を管理会社に鍵を取りに行くことや現地で立ち会いをすることもひとつの対策かもしれない。しかしながら、こうした対応はいっぽうで、「リーシングの足枷になる」という側面も忘れてはならない。リーシングからすると、「現地対応」は大変ありがたい。なにせ、管理会社に鍵を借りに行く時間や、立ち会いの時間の調整をすることで、多くの時間ロスが生まれてしまうのだ。

以上のように、内見時に事件が起こる理由として、

・内見する物件の管理をしていない仲介会社が実際には案内するケースが多い
・入社間もない若い社員が仲介会社には多い
・同様に若い女性スタッフも仲介会社には多い
・ユーザーは、個人情報を取られることなく、気軽に内見ができる
・現地対応の物件が多い

が挙げられる。
改めてこうして纏めてみると、なかなか犯罪リスクが高いことが理解できる。

では、不動産会社として、こうしたリスクを回避するためにどのような対応が現状できるのだろうか。

加害者側にならないために

スタッフを加害者側にさせないためには、なんといっても「コンプライアンスの徹底」である。入社時の研修、そして繁忙期前の研修でも、しつこく研修実施をしたほうが良いだろう。
また内見後の報告義務の徹底も重要である。これは店舗責任者のほうでしっかり管理しておく必要がある。

被害を防ぐために

たとえば、女性スタッフが内見に向かう際は、オンラインで男性スタッフと繋げるような工夫をする。ひとつの具体例として、内見時に「同担当の別のスタッフともスピーカーでお繋ぎします」などと言って、スマホをスピーカーにしておく。こうした「第三者の目」を作ることが重要だ。

またスタッフの人員に余裕があれば、夜間の男性客の内見は女性スタッフが実施しないことも考慮してみても良いかもしれない。
また犯罪ブザーなどを持参することや、内見の受付時にそのことを何らかのかたちで明示するなども効果的である。

 
また管理会社としては、「内見発生の記録をしっかり取っておくこと」が重要な。何かが発生した際に、何にも記録がない状態は避けたいところだ(現在は、内見のシステムなどで管理は容易になっている)。

以上のように、「不動産業界のレベルの低さ」だけで物件案内中の事件は、片付けられるものではない。なかなか構造的な問題を孕んでいるのだ。

案内中の事件の報道が、全く無くなった時、はじめて業界は、前に進んだと言えるかもしれない。

 
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