巷の不動産会社で話題になっている「審査が通らない若者の増加」という問題

賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。(リビンマガジンBiz編集部)

画像=写真AC

超高齢化社会、格差問題。今の日本は様々な問題を抱えている。こうした問題は、まさに未曾有で誰も経験したことのない問題だ。これからこうした問題がどのようになっていくのか、誰もわからない。

賃貸仲介の業界は、こうした世の中の大きな流れには、あまり大きな影響を受けないと思われる。衣食住は、人間に不可欠なものだ。多少のマーケットの変化こそあれ、完全に需要がゼロになることはないだろう。

ただ、この賃貸業界でも最近になって少なからず、世の中の変化を感じることが増えてきた。地震の前の予兆ともいうような社会の「震え」である。
 

最近、お手伝いをしている賃貸不動産会社の店長と話す機会があった。売上がなかなか増加せずに、困っているようだ。これまで売上好調だったのに、この数ヶ月で徐々に数字が落ち込んでいるとのことである。

その店長は、困り顔でこう言った。

「いやね、最近申し込みのキャンセルがかなり多いんですよ。申し込み自体は、かなり多いのですが、とにかくそれ以上にキャンセルが多い。これには、困り果てています」

この会社の仲介部門は、かなりユーザーに丁寧な対応をしており、しっかりとクロージングを行うことで業界内では、有名であった。つまりキャンセルが増える要素はあまりなかったのである。私はこのあたりのサービス内容の低下が原因ではないかと予測して聞いてみたが、店長からの回答は、私の予想に反したものだった。

「いえ、今も丁寧に営業をしているんですよ。ただ、審査落ちが多いんです。いや、もっと言えば、審査すらもできない年収のかたが、お申込されるんですね。それで、キャンセルが増えているわけです。

勿論、お客様へ事前のヒアリングもしっかりします。お仕事は?とこちらが聞くと、(まあ普通にいろいろとやっています)と答えるんですね。しかし蓋を開けてみると、殆ど収入がなく、仕送りのみで生活しているかたが多い。では、親御さん名義で契約して頂こうかと、打診すると、どうやら親には頼みづらいらしく、キャンセルになるということです。

こうした案件は、これまでもありました。しかし、最近は激増している印象なんですよね」

また別の不動産会社の店長と話をする機会もあった。

「とにかく格安物件みたいな部屋に申込が殺到します。初期費用もゼロゼロ、家賃も格安。仕事は、フリーターのかたが多いですね。逆に、ごく普通の会社員のかたの引っ越しは本当にないような気がします」

詳しい数値はわからないが、「20代の一般企業に勤めている会社員の総数が減り、フリーターや定職につかない、もしくは、つけない若者が増えている」のか、「20代の一般企業に勤めている会社員の部屋探しの需要が減り、フリーターや定職につかない、もしくはつけない若者の部屋探しのニーズが高まっている」のかは、わからない。ただ、いずれにしても、これまでの動きと少し異なった動きであることは、間違いない。

また、こうした内容とは真逆の傾向で、都心の20万円以上の物件に「20代のフリーランス」のかたが申し込みするケースも増加しているようだ。都心の高級賃貸領域を得意とする店長は、こう言っていた。

「20万円ほどの賃料の物件は、今までは、大手企業の社員さんの社宅、もしくは中小企業の若手独身社長の自宅のイメージがありました。しかし、最近は、どちらかといえば、20代のエンジニアのかたや、デザイナーなどのかたのお申し込みが増えてきましたね。本当に富裕層クラスと言われる30万円以上のお部屋は、あまりこういう傾向は少ないですが。

ただ、そうは言っても、こういったエンジニアのかたやデザイナーのかたって、審査落ちが多いんですよね。何年も実績があったり、貯蓄額がかなり多い方だとなんとか審査を通すことができるのですが、さすがに一年、二年程度だと、やはり管理会社に断られるケースも多くて」

これは、「一時的に高収入ではあるが、信用度が低く、審査落ちする」典型的な事例だ。いずれにしても、ここでもやはり若者の審査落ちが目立っているようだ。 

またさらに他の不動産会社の営業のかたのこんな声もあった。

「普通のお勤めのかたの問い合わせが減っていますね。勿論、ゼロではないのですが。いわゆる年収が400万〜500万程度の大手にお勤めのかたのお問い合わせがかなり少なくなっています。皆さん、引っ越しされないのでしょうか」

あくまで推測だか、かなり若者の働き方に変化が生まれてきているのではないだろうか。またその変化に対し、なかなか審査する管理会社、保証会社が対応しきれていないことも同時に実感できる。またいっぽうで、大手企業社員の賃貸の部屋探しは、やはりまだ足が鈍いことも見て取れる。ただ、おそらくこのあたりは、世の中の変化により、動向は変わっていくだろう。
 
このような変化に対し、なかなか正確な予想はしにくいが、賃貸仲介会社としては、しっかりと準備をしなければいけない。

こうしたユーザーへのアプローチ方法は、従来通りの紹介方法ではなく、申し込み後のフォローもセットで考えることである。また、ライフルプランの提案なども視野に入れたアドバイスなども今後は、仲介会社に必要になってくるかもしれない。

いずれにしても、世の中の変化というものは、そう簡単には、目に見えないものだ。風が吹けば桶屋が儲かる、という昔の言葉を忘れてはならない。しっかりと変化を見定めていかなければならない。

 
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