不動産会社のサービスレベルの差は、「少し先の未来に対するリスクヘッジの差」のみだった件

 
賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。(リビンマガジンBiz編集部)

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二つの会社、二つの結果

いきなりだが、とある二つの管理会社の事例を紹介してみたい。
 
その賃貸管理会社(A社とする)は、物件を1000戸ほど管理していた。従業員は、社長を除いて3名。その会社は、創業時期から離職率が極端に低い会社だった。また残業も、特定の時期を除いては、殆ど発生していなく、とても効率的に業務を推進していた。ちなみに、この管理会社は、不動産テックやDXを積極的に推進しているわけではなかった。あくまで、必要に応じて、諸々のツールを導入しているだけだった。

また、別の賃貸管理会社(B社)のこんな事例もある。この会社も、上記のA社と同様に物件を1000戸程度管理していた。従業員は、10名程度。A社とは異なり、人の出入りが激しく、常にクレームが発生し、社員は疲弊していた。また、ほぼ毎日、業務が深夜まで発生し、体調を崩す社員があとを経たなかった。ちなみに、この会社は、積極的に最新の不動産ツールを導入していた。新しいオーナーレポート機能や、入居者アプリなど、多岐に渡り、様々なツールを導入し、対外的にも、強く不動産テック導入企業としての立ち位置をアピールしていた。が、しかし、実際は、このようなアピールにも関わらず、内部統制という面では、かなり厳しいものがあったことは、否めない。

ちなみに、想像通りかもしれないが、A社とB社の利益率は、圧倒的にA社のほうが高かった。上記に述べているように、生産性においてこの2社は、圧倒的な差がある。A社では、全てがシステマティックに動いていた。いっぽうのB社は、とにかく全ての業務が後手に回っていた。

また別の側面で、この2社比較で興味深いところがある。

人材育成の取り組みに力を入れていたのは、実際はB社だったこということだ。B社のほうが、A社よりも、人材育成のための勉強会や評価精度などを積極的に導入していた。

ただ、それにも関わらず、B社は、他社よりも離職率は高く、なかなか人が定着しない。そして同時に業務効率も悪い状態だった。

コンサルタントをしているとこうした企業事例を、嫌というほどたくさん見る。一見、華やかに見えるが、中身はボロボロ。また、一見、地味に見えるが、しっかりと健康体で堅実な状態。このような会社は、本当に世の中に多い。

では、こうした企業間の差はなぜ生まれるだろう。

少し前まで、こうした差の原因は、ひとつの仮説として、「従業員のモチベーション」や「組織力」の差ではないかと考えていたが、どうやらそういう問題ではなさそうだ。組織力が高くても、業務フローがボロボロで、人が定着せず、結局、離職率が悪化する会社もある。

またこうした原因が、「ビジネスモデル」が原因かと考えたこともある。そもそもビジネスとしての業務フローが弱いが故に、諸々の差が生まれてしまうのではないかと。しかし、これも的外れだ。そもそも先に述べた上記事例の不動産会社は、ほぼ同様のビジネスモデルである。

トラブル因子みつけだすことができるか

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ここで、とある不動産会社のお手伝いをしていた時の話を紹介したい。

その会社も、上記のA社同様、とても生産性の高い会社であった。一見すると地味な印象な会社だが、とても手堅く経営を行っていた。ただ、最近、新しい案件の話がよく入るようになり、それをベースにした新規事業を検討したいとのことで、私に相談が来たわけである。

私が感心したのは、その会社では、ほとんどクレームなどが発生していないこと、そして、従業員の残業が殆どないことであった。

私は興味を惹かれて、こうした理由を社長にヒアリングしてみた。なぜ、ここまでクレームなどの案件が発生しないのか、そしてなぜ、生産性の高い組織が機能しているのか。ちなみに、この会社では、特段、人材育成に力を入れているわけでもない。使われている業務ツールもありきたりなものだ。

社長は、私の質問を聞き、少し考えて、静かに私にこう伝えた。

「とにかくオーナー(大家)との契約時に徹底的に細かく詳細を決めることですね。物件の管理を頂くことは、ありがたいことなのですが、長いお付き合いになるわけですから、いい加減に対応はできない。

そう考えると、とにかく最初の管理受託の段階で、想定されることは、徹底して詰めておきます。たとえば、空室が長期化した際の賃料の値下げの話や広告料の話、またリフォームの提案タイミングの話、そしてオーナー様への報告方法など。とにかく起こりうるリスクや業務内容に対して、しっかりと先方と握っておくことが重要ですね。

実際、このように事前にしっかり詰めておくと、後々の社内管理業務がとても楽になるんです。

また、入居者に対しても、他社でリーシングしてもらった場合でも、鍵渡しは、弊社で行うんです。面倒なんですが、一度来社頂き、しっかりと入居時の注意点をお伝えしておく。これによって、その後のクレームが激減します。」

こうして改めて書き出すと、当たり前のことのような気がするが、これこそまさに不動産会社のサービス向上の重要なポイントなのだ。

つまり、「受託段階、契約段階」でどれだけしっかり「握れているか」である

これは、仲介業務においてもそうだろう。事前のユーザーの確認事項をしっかり行えば、驚くほど業務効率は上がる。

ちなみに、昔の言葉で「段取り八分」という言葉がある。段取りをしっかり行っておけば、仕事の8割は終わったものだ、という意味である。まさに不動産サービスで重要なところは、これである。

世の中では、今日も便利なツールがたくさん生まれている。しかし、それを使う以前に、クライアントとの事前の擦り合わせや信頼関係の構築ができていなければ、こうしたツールを導入しても、猫に小判である。

ちなみに、この上記の不動産会社の社長は、こうも述べていた。

「今も様々な人材開発系の会社から人材育成の提案を頂くことがあります。こうした取り組みは、とても重要だと思います。しかし、私は、それよりも前に、従業員には、業務の専門性やお客様への細やかさなどを覚えてもらうことのほうが大事な気がするんですよね。我々は、お客様から見たらプロです。プロなのに、専門知識がないと、やはり相手方の不信感に繋がります。
 そんなわけで、私の会社では、モチベーション育成よりも先に、専門家やその業務に精通しているコンサルタントのかたを招いて、業務知識の教育を先行して行っています」
 
 事業の進め方には、正解はない。しかし、どうやら不動産事業において、「少し先の未来のリスクヘッジを行うこと」で、かなりの問題を解決できるのは、間違いなさそうだ。
 またそこを突き詰めると、他社との差別化が図れることも、実証されている。

 是非、一度、自社内を見直して見てほしい。
 新しいものを導入するよりも、足元を固めることのほうが、先決である場合が多いようである。

 
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