マニアが生き残る時代になってきた仲介の現場

賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。(リビンマガジンBiz編集部)

 

 

膨大なネットの海にも無いものがたくさんある

画像=Pixta

今やあらゆる情報がネットで取得できるようになった。当然のことながら、物件の空き状況や詳細の情報なども、ほぼタイムラグなしで取得できるようになっている。また物件周辺の環境も、Google mapでほぼ確認できるし、検討しているエリアをネット検索すれば、さまざまな地域情報を取得できる。資格や経験を問わずに、誰でもできてしまう。

こうしたことを考えると、賃貸仲介の仕事というものは、無くなってしまうのではないかと、考える人がいてもおかしくはない。実際に、10年以上前から「数年後には無くなる職業」と言われ続けている。しかし、現場を見ると、なかなか賃貸仲介業務というものが、完全消滅する気配はない。 私の仕事は、自分の知識やノウハウを企業様に提供するコンサルタントという仕事である。提供する知識は、ネットに落ちているものも多くある。しかし、全ての情報が落ちているわけではない。また、ノウハウに関しても、大半が世の中には出回っていない印象である。

仲介の仕事も同様なのかもしれない。全ての物件情報がネットに掲載されているかといえば、そうではない。たとえば、物件管理をしている管理会社の特徴、管理会社ごとの契約の案内フローなども、現在の不動産情報には掲載されていない。さらにいえば、部屋の特徴や相場観なども掲載はされているものの、まだネットで正確に把握できない情報はいくつかある。

また、それと同時に、ネットに掲載されている内容に関しても、それを「自分の知識として取り込み、カテゴライズしている」人材は、少ない。たとえば、「美味しいレストラン」を検索して予約くることができても、「他と比べて何故このレストランを選ぶのかを、さまざまなデータを基にロジカルに説明できる」人は少ない。つまり、大量の物件情報がネットに溢れていても、それを「扱いきれない」ユーザーが多いのだろう。

こうして考えると、「ネットの情報にない情報、知識」を持っていて、「既存の情報を上手く取りまとめる」組織、人材が今後は貴重となるのかもしれない。

 

画像=Pixta

コミュニケーションが苦手なトップ営業社員

とある都心の不動産仲介会社のお手伝いをしていた当時の話である。

その不動産会社は、都心の一等地に店舗を構える仲介会社であった。

その会社の役員と打ち合わせした際に、私はいくつか質問をした。

「御社のような都心の仲介会社様ですと、トップ営業メンバーのかたは、かなり営業スキルの高い、しっかりされたかたと思います。どのようなメンバーがトップ営業にいらっしゃるのでしょうか?」 
 

その役員は、笑いながらこう返答した。

「いや、イメージしている人物と異なると思いますよ。せっかくでしたら紹介しますので、少し話してみますか?いや、実を言うと、我々も何故、彼がずっと営業トップなのか、よくわからないのですよ」 

そう言って役員は、内線でトップ営業メンバーを役員室に呼んだ。
  
しばらく経って、役員室に入ってきた彼を見て、私は拍子抜けした。実に大人しそうな、控えめな男性だ。特に身なりも派手なわけでも、快活なイメージがあるわけでもない。しかし、その営業成績は、約100名程度のスタッフのなかで、3年連続でトップという派手な成果を収めていた。

役員のかたが、気を遣って席を外し、私は彼と役員室で2人きりになった。せっかくなので、いろいろと聞いてみた。

「なにか営業面で気をつけていることや心がけていることなどありますか?」

私が聞くと、彼は俯いたまま首を横に振り、ポツリと答えた。

「いえ、特にありません。よくわからないですね。。」

まともなコミュニケーションすらも、何処か危うげなレベルである。
 

「どういうお客様が得意なのかな?」

「うーん、いや、あまり決まってないですね。。。」

重い空気が流れる。

「そういえば、このあいだ、〇〇エリアで新築が出ましたね。いくつかのお部屋を御社で客付けされていると思うのですが、やはり物件のグレードも高かったですか?」
 そう質問をした途端に、彼の表情は変わった。

「あの物件ですね!あの地域には珍しい一棟丸ごとデザイナーズの新築なんですよ。あの、メゾネットの階段が螺旋階段になっていて、階段の下が収納スペースになるんですよ。このあたりの相場よりも少し高いですが、眺望が開けてますし、クロスが云々」

彼は、いっきに物件の説明を始めた。

よくよく聞くと彼は、「超」がつくほどの物件マニアのようだ。仕事以外でも、散歩をし、物件のチェックをしたり、暇さえあればネットで不動産ポータルサイトを覗いたりしているらしい。

また、それと同時に、街情報、エリアの飲食店などにも相当詳しく、これもお客さんに内見時に共有しているらしい。

これでようやく合点がついた。

彼は、どうやら無意識で、彼の物件知識やエリア情報などを、お客さんに伝えているらしい。とりわけ物件を見ることが好きな彼にとっては、まさに天職である。内見自体が嬉しいので、その喜びがお客さんに伝わる。そして、お客さんが質問すると、「ネットにはない情報」を嬉々として喋る。また、「ネットには掲載されている情報をカテゴライズし、わかりやすく」伝える。これにより、多くのお客さんから信頼の獲得ができているようだ。

たしかに、ユーザーからすると、いくらコミュニケーションが高い営業メンバーでも、物件の知識やエリアの知識がなければ、その営業メンバーを信頼することは難しいかもしれない。コミュニケーションが少し苦手でも、圧倒的な知識でそれをカバーすることができると、今や大きな信頼を得ることができる。

ただ、こうしたことを社内教育として取り入れし、社員の知識を付けさせて、営業数字をあげようと考えてもおそらく難しいだろう。前述したように、彼は「物件マニア」である。好きこそ物の上手なれ、と言うが、本人の抑えがたい好奇心がなければ、ここまでの知識を身につけることができないだろう。

そう考えると、不動産会社にできることは、「採用時の見極め」である。多少(あくまで多少である)、コミュニケーションがおぼつかなくても、不動産に対する知識欲や熱意があれば、大化けする可能性は今の時代は、ある。意外かもしれないが、世の中には思ったよりも、「物件マニア」が多いのである。こうしたメンバーを採用して、思いきり仕事を依頼しても良いかもしれない。

ひと昔前の、派手なイメージの「できる営業マン」のイメージが、数年後には大きく変わるだろう。

 
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