ユーザーの嗜好を本当に理解するのは、とてつもなく難しいという事実

賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。(リビンマガジンBiz編集部)

画像=Pixta

猛暑日が続く昨今、賃貸仲介業界は、この一年でおそらく一番の閑散期に差し掛かっている。よく言われるように賃貸仲介の閑散期は、一般的には5月から7月ぐらいと言われるが、今年はそうではないようだ。オリンピックが開催され、さらに猛暑日が続き、それと同時にコロナの感染者がいっきに増加している今がまさに閑散期となるだろう。

私がお手伝いさせて頂いている複数の仲介会社もオリンピックが開催されたと同時に、いっきに反響数が減った。またさらにこれだけの暑い日が続くと、なかなか内見まで行くのもユーザーは、億劫になる。急ぎで差し迫った引っ越し理由がない以上は、なかなか腰が重いのではないだろうか。

とはいえ、では、賃貸仲介業での問い合わせが、皆無になるわけではない。反響数は繁忙期には、及ばないものの、一定数の問い合わせがあることも事実だ。

ちなみに、お部屋探しのユーザーは、仲介会社にこんなお願いをしてくることが多い。「問い合わせ物件と似たような物件があれば、提案してほしい」。つまり、問い合わせした物件と共に、他の物件も紹介してほしいというごく当たり前のリクエストだ。

しかしながら、最近では、この「問い合わせ物件と似たような物件を紹介する」ということが、不動産会社にとっては、重荷になっているようだ。

理由としては、まず不動産会社が、来店を誘導するのが、コロナ禍になり、難しくなった。通常であれば、来店を不動産会社が促し、接客時にユーザーの好みを聞いて、「問い合わせ物件と似たような物件」を紹介するのだが、なかなかそれを実行するハードルが高くなってきている。そうすると、WEB上で「好み」をヒアリングしないといけない。これがなかなかの手間になってしまうのだ。

好みを聞いてみて、図面を提示し、これが感覚的にユーザーの好みと合っているかを細かくヒアリングしていく。これはWEB上だと意外と難しい。

またさらに言えば、こちら側(不動産会社側)のバイアス(思い込み)の部分もあるだろう。

「駅からそこまで遠くない物件」と言われると、駅10分程度とイメージする不動産会社が大半だ。しかし、ある地方から出てきたユーザーは、歩いて30分程度が許容範囲だと言っていた。

広めの部屋が良いと言われ、30平米以上の物件のみをWEB上で紹介し、案内すると、「広すぎる。。」と言われたケースもある。

また逆に、不動産会社側が、「こんな狭い部屋で大丈夫かな。。?」と思っていても、内見すると、「こんなに広い部屋に住めるなんて!」とユーザーが目を輝かせることもある。

つまり、それほどユーザーの好みや基準は、千差万別なのだ。

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希望条件から外れた物件を選ぶ人達

ユーザの多様化も、理由のひとつかもしれない。

そう考えると、「似たようなものがあれば」と言われても、最適な物件提案が難しいのである。エリアはどこからどこまでなのか?広さは?譲れない条件は?これを店頭でなく、WEBでヒアリングし、図面を提案するのは、なかなか大変である。

また、これも本当によくある話だが、ヒアリングしていくと、そもそも問い合わせをした物件が、「希望条件から外れていた」、ということも多々ある。

「独立洗面台が絶対必須」という希望条件をユーザーから提示され、よくよく問い合わせ物件の詳細を見ると、「独立洗面台がない」という冗談のようなケースも多くある。

では、こうしたユーザーから要望する「似たような物件」を提案し、成約に結びつけるには、どのような対策を、不動産会社は打てば良いだろうか?

まず、単純にWEB上でも、しっかりとヒアリングすることだ。少々手間がかかるが、細かくユーザーから希望条件を引き出さなくてはならない。もしかしたら一度、物件提案して、ユーザーの反応を聞いてみて、さらにもう一度図面提案をしてみても良いかもしれない。かなり大変になるが、このラリーを行うことで、希望条件が精査されていく。

また、問い合わせされた物件を「なぜ」問い合わせしたのかをヒアリングすることも重要だろう。なんとなく問い合わせた、というレベルの問い合わせから、自身で探しに探した物件の問い合わせの成約確度の差は、雲泥の差である。

とはいえ、しっかりヒアリングして、内見していても、「あれ?この物件で申し込みされるんだ」、「えー、この物件で申し込みされないんだ」というケースは数多くある。営業力の高いメンバーであったとしても、こうした経験は少なからずあるだろう。

よくよく考えると、このあたりのユーザーの感覚というのは、そのユーザーの生まれ育った住環境によるところが多い。実家の環境や生まれ育った立地により、なんとなくユーザーの感覚が醸成されるような気がする。また、「最初に借りた部屋」というのも、非常にユーザーの感覚に影響するように感じる。たとえば、最初の借りた部屋が10畳であれば、二度目の引っ越しが6畳であった場合は、すぐに広い部屋に引っ越しがちになる。

このようにユーザーの感覚というのは、千差万別である。不動産会社として、そのユーザーの感覚を100%理解することは難しい。しかし、その感覚値を理解し、近い感覚で提案することは可能である。

おそらく優秀な営業メンバーは、その嗅覚が鋭いのだろう。是非、不動産会社の「思い込み」を外してユーザーの対応してみてほしい。

 
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