「自主管理オーナー物件」という地雷案件

賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。(リビンマガジンBiz編集部)

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賃貸仲介業で独立した先には「管理物件獲得」を目指すようになる

独立して不動産会社を始める際、最も多い業態は、「仲介業」だろう。賃貸であれ、売買であれ、仲介業というのは、元手がかからない。しかも、在庫リスクが少ないため、コストは人件費と広告宣伝費、地代ぐらいだ。人脈と、実績があれば、仲介業としてすぐに独立ができるというのは、不動産業界の魅力的な部分かもしれない。

特に、賃貸仲介での独立となると、わりと自分の人脈のなかから、定期的に顧客を獲得できたりする。売買仲介だと、それなりの信頼とキャリアがないと難しいが、賃貸の相談に関しては、比較的相談をしてくれる可能性が高い。

賃貸仲介業として独立し、少しずつ売主が向上していくと、不動産会社は、その利益を元手に徐々にポータルサイトに物件を広告していく。最近は、ポータルサイトの広告料金は、それなりに値上げされているが、それでもやはり新規顧客の獲得をするために、非常に効果的だ。「人脈」から「ポータルサイト利用」というのは、鉄板の独立の流れのような気がする。

では、その後の流れはどうだろうか?軌道に乗った賃貸仲介会社は、その後、店舗展開をしたり、独自の集客獲得方法を打ち出したりとさまざまな道を歩んでいく。しかし、彼らの次の目標のなかには、共通項として、十中八九、「管理物件の獲得」がある。

言うまでもなく、賃貸物件を管理することは、不動産会社にとって多くのメリットがある。まず、「流動的な収益」である仲介手数料に「固定的な収益」である管理手数料が、加わることで、安定的な経営を目指すことができる。また、そうした管理物件から、相続案件や建て替え、売却などの大型案件を受注することができ、不動産事業として膨らみをもたらすことができる。いずれにしても、管理物件を獲得することは、多くのメリットがあることは間違いないだろう。

では、この管理物件の獲得方法には、どのような方法があるだろうか。ひとつは、知り合いの同業者からの紹介があるだろう。また、金融機関や建築会社からの紹介もある。また、賃料査定サイトなどに登録して、新規獲得を図ることもできたりする。さらに、ターゲットをしたオーナーに対してのDM、また訪問営業を行うケースもある。種々様々な方法があるのは、間違いない。

いずれにしても、不動産会社で、最初の管理物件を受注したときは、何者にも耐えがたい喜びがあるだろう。はじめての「管理物件」、そこには、未来の可能性があり、これからの事業展開のエンジンになるだろう。

ちなみに、上記のような物件獲得方法が困難な場合、管理物件を獲得するための常套手段としては、まず「リーシングのみ」を行うことを自主管理のオーナーに提案することがあげられる。最初にオーナーに対して、「他の不動産会社と共に、募集活動をさせて欲しい」そして「その実績を基に管理を任せて欲しい」と依頼する。随分、昔からある方法だが、リーシング力をベースに提案をおこなうことは、やはり物件獲得の大きな強みになるのだ。

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自主管理オーナーへの「リーシングのお願い」

数年前、こうした話があった。

とある仲介会社では、管理物件獲得を重要な今後の経営施策として捉えていた。本部から「とにかく管理物件を増やすこと」を、指示されたとある店舗は、先に述べた「管理獲得の常套手段」である「リーシングのお願い」を近隣の自主管理オーナーに対して、発信することにした。店舗の商圏エリアを確定し、そのエリア内の自主管理オーナーをピックアップしていく。そして営業メンバーが、ローラー作戦で訪問アタックしていくというものだ。

アタックをしてみると、比較的、このエリアの自主管理のオーナーは、募集行為を快諾するケースが多かった。幸運なことに、この取り組みの早い段階から、店舗のオーナー物件の募集件数は増加していった。

彼らは、せっせとレインズに掲載し、そしてポータルサイトにも広告掲載を行ない、管理獲得のため、募集強化を実施した。

それから数週間後、その店舗は、募集獲得した、とある物件に申込を入れることができた。オーナーに状況を説明すると、オーナーも申込という結果に対して大喜びだ。すぐに契約をして欲しいと店舗にオーナーから返答があった。その仲介店舗は、審査通過の旨を、入居希望者に連絡し、保証会社契約とともに、賃貸借契約を締結し、鍵を引き渡した。

ともあれ、重要な最初の一歩である。まずリーシングを行い、自主管理のオーナーにアピールし、関係を築くこと。これが先に述べたような、その会社の営業戦略だ。その足掛かりとして、ひとつの実績を残すことができた。

鍵の引き渡しが終わった後の終礼時、リーシングを行ったその店舗で、店長は、営業メンバーを集め、こう言った「とにかく管理物件の足がかりとして、このリーシングをおこなった物件は、確実に管理獲得できるようにしよう。オーナーとの連携も密にして、引き続きリーシングを頑張っていこう」

それから数週間して、このリーシングを行った営業メンバーに、オーナーから電話があった。

「このあいだ、決めてくれた部屋の入居者だけど、隣りから苦情があったみたいで、少し音楽がうるさいみたいなんだよね。悪いけど、注意してもらって良いかな?」

営業メンバーは、とにかくオーナーからの頼みとあっては、断るわけにはいかない。すぐに入居者に電話をし、軽く注意を行った。

それから1か月程経過した頃、またオーナーから連絡が。

「このあいだの入居者、ゴミの分別してないみたいなんだよ。すぐに入居者に連絡してほしいんだけど」

さらにその数週間後、

「エントランスに郵便物が捨てられてるんだよね。たぶんこの前の入居者だよ。ゴミ箱用意して、注意を促してくれないかな?」

「入居者からエアコンの調子が悪いって、連絡があったんだ。悪いけど、見てもらえないかな」

こうした依頼が継続され、営業メンバーが、辟易(へきえき)としてた時期、とある同業者の飲み会で、同じエリアの同世代の営業の人間と飲む機会があった。

その営業メンバーは、こう言った。

「先日、リーシングをしたオーナーさんからの連絡がとても多くて。会社からは、管理物件増やせと言われていますし、なかなか断るに断りきれなくて」

話を聞いていた同世代の同業者の彼は言った。

「差し支えなければ、、物件教えてもらえる?」

「〇〇マンション」

その物件名を聞いた時、その同世代の彼は、首を振った。

「それ地雷案件だよ、手を出したらダメな物件」

どうやらこのオーナーは、地元では、リーシングをした不動産会社に必要以上にさまざまな要求を行うことで有名なオーナーだったようだ。管理委託契約を取り交わしていないのにも関わらず、とにかく入居者間のトラブル、物件の清掃、そして退去の立ち会いまで様々な業務をリーシングをした不動産会社に無償でお願いをするそうだ。地元では、「あまり深追いしてはいけない」オーナーの筆頭格だったようである。

ほとんどの自主管理オーナーは、リーシングのみを不動産会社に委託し、しっかりと自身の経験と知識で物件管理を行なっている。しかし、なかには、こうした「必要以上の要求」を行うオーナーもいる。しかも、これが無自覚ではなく、自覚的に行なっているのだから、なかなか手強い。

不動産会社としては、管理物件を獲得することは、とても重要である。しかし、リーシングを行う際に、「ここまでは、やる」、「ここまでは、やらない」ということを、かなり明確にしなければいけない。特にクレーム、設備故障の介入などがそうだ。この上記の不動産会社の例では、「とにかく管理がほしいために、オーナーの御用聞きになってしまった」、最初のリーシング協力の際に、「明確な業務の取り決め」を行なっていなかったのが原因だ。

日々、不動産会社さんと話していると、こうした自主管理オーナーとの対応、そしてトラブルは、跡を経たない。以外と、こうしたトラブルに対して、あまり顕在化されていないのも問題だ。

管理物件を獲得したい不動産会社の心理としては、なるべくこのようなトラブルを穏便に終わらせたいのが本音だろう。しかし、ズルズルと無償で管理業務を行うと、後に引けなくなり、より大きな無償業務を引き受けることになってしまう。不動産会社としては、まず自身の管理業務の明確化を図り、それをしっかりと伝えることを忘れてはならない。

断る勇気も、重要なのである。

 
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