不動産の取引は高額な金銭と重要な権利、大事な資産を移動させるため、当事者や関係者にとって非常に神経を使うものですね。売主としては、現状の物件状況や売買条件に対して何も言わずに購入してくれる人を望みます。当然、買い手も何も注文を付けることなく物件を買いたいと思っているでしょう。

特に、売る前に(もしくは買う前に)もう少しよく調べておけばよかったと後悔することになる事態は、売主や買い手だけでなく双方を仲介する不動産会社の担当も避けたいはずです。それでも、買付から売買契約、決済引き渡しと時間が進むにつれて、権利関係にかかわってくるものや予想外の負担が判明することで、トラブルが起こることは稀にあります。

今回は、売主のオーナーさんが物件の売却を公開する前に、やっておくべきことまたは仲介の不動産会社と確認しておくべきことの1つをお話しします。

私も買い手側の仲介を務めているときに、トラブルが発生し後味の悪い取引に遭遇したことがありました。その中で、一番多く問題になったのは「境界」に関してのことでした。

土地の境界は、土地の価格を決める必須の条件です。それが、測量図や図面などと違っていたり、実際にどこが境界なのかわからないということになると、取引自体に信頼性が失われることになります。

昨今では、宅建協会が推奨する定型化された重要事項説明書や売買契約書を使用しています。売買契約書の条文には、「引渡しまでに売主は境界を明示すること」という文言が入っている契約書が多いと思います。

当然ながら、頻繁に不動産取引をしていない売主さんはこういう条文があることを知らない場合が多いです。現場でも建物の建築当時などに測量し示しておいた境界杭などもなくなってしまっている状態で、売却の公開をしている物件をよく見ます。

買い手側は、引渡しまでに確定した境界がわかるようにしてもらえれば良いので、現状に境界杭の有無にかかわらず購入はしたいと申し込みをします。売主さんは現況有姿で販売する条件を入れていることがほとんどのため、境界がない状態で売れたと思い、なかには境界について何もしない方が現れます。そうなると、契約書の条文と違ってくるため、トラブルとなるわけです。

私の過去の事例の1つにもそのようなことがありました。物件や売買条件が購入者の希望とあっていたため、買付し契約することが出来ました。ただ、境界杭がなくなっていたため、売買契約書も確認し、確定測量図を作るか、建築地の境界資料の添付を求めました。それに対し、売主が現況有姿の一点張りで仲介の不動産会社もさじを投げてしまい、ある取引はキャンセル寸前、訴訟寸前までいきそうになりました。最終的には、建築した工務店が建築当時の資料を持っていたため、そこから境界の明示をすることが出来て、無事引渡しも終了しました。ただ、決済当日は、売主さんと買い手の顧客は話をすることもなく、黙って座っているだけで、せっかくのハレの日に笑顔がありませんでした。

境界がどこなのかを明確にするためには、測量を行う必要があります。ただ、単に測量すればよいということではなく、境界にかかわる隣地の所有者や役所の担当など、不動産の取引とは無関係の人も巻き込むことになります。また、土地家屋調査士による測量のため費用もそれなりにかかります。

そのような手間をかけずに売却したいと思っても、売買契約で明示を義務付けられれば実行するしかありません。

これから売却を検討される方は、所有物件の境界がどこなのか明らかにできるのかどうかまずは調査してみましょう。現地に境界杭がない場合には、どういう条件を付けて販売するかを、仲介の不動産会社と確認しておくと良いと思います。

笑顔で不動産の取引を終わるように、手間をかけることには惜しみなく手間をかけてくださいね。

 
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