宅建業を営まない方でも、今、不動産投資が過熱しているという雰囲気は感じると思います。最近では公共放送の報道TV番組でも不動産投資に関する特集が組まれ、私の住む地域も投資家の目の向いている土地として紹介されていました。

以前不動産会社に務めていた私は、投資物件の売買担当という立場もあり、一昨年の秋ごろには投資用物件の需要、特に一棟アパートや一棟マンションの需要が大きくなり始めたことを感じていました。購入希望の方が増えて、毎日既存オーナーへの売却提案の電話入れとインターネットでの物件検索活動で多忙を極めていたことを思い出します。

こういう時勢になると、売主となる物件のオーナーさんは少しでも高く売りたいと考えるのは当然ですね。競争原理を取り入れて高く買ってくれる人に売却するのは悪くはないのですが、ただ、インターネットによる物件公開の戦略を間違えると大変なことになります。今回は、その事例をご紹介し、情報発信の落とし穴についてお話ししたいと思います。

一昨年の11月、4000万円前後の一棟アパートの物件を探していました。インターネットで物件検索を行い、次のような中古物件を見つけました。

「築20年、3700万円、10部屋(現状満室)、年間家賃収入400万円、最寄り駅より徒歩3分」

表面利回りが10%を超えている物件が少なくなっていた頃ですから掘り出し物と判断して、買い手の顧客に連絡してすぐに買付申込をしてもらいました。買付当初は、売主側の不動産会社さんも非常に意欲的で、引渡し後も同条件で全室の賃貸を希望する借主の企業がいるなど満室となっている理由を教えてもらい、なおさら売買契約を成功させたいと思っていました。

ところが、買い手の顧客の銀行融資の審査結果が出ようとしていた矢先に、売主のオーナーさんが売り止めにしたとお断りの連絡が入りました。売主側の不動産会社の担当も理由がわからないの一点で、結局破談となりました。

この時は、売主のオーナーさんがアパート自体利益が取れているのでもう少し儲けたいと考えを改めたかなと思っていました。ところが、惜しかったなぁという思いも消えてきた昨年の2月ごろ、驚きの物件情報が目に入ってきました。この破談になった物件が、金額を大幅にアップしてまた売りに出されていたのです。

「築20年、5000万円、10部屋(現状満室)、年間家賃収入400万円、最寄り駅より徒歩3分」


前回広告を公開した後、反応も良く買付もすぐに入ったので、値上がりの時期だから高くしてもまだ売れるだろうと考えられたのでしょうね。ただ、私は買い手のお客さんにはこの売買条件では紹介できないし、他でも買い手はつかないだろうなと思いました。

その予想は見事に当たりまだ売却はされておらず、最初の公開より一年以上経過してしまいました。先日、インターネットサイト確認したところ、価格は4500万円をきるところまで下がってきています。

3800万円の物件のイメージが消えないうちに、値上げして売却を再開したことがあだとなっています。買い手のお客さんも、買い手側につく仲介の不動産会社も物件情報はしっかり見ているということです。物件の立地や周辺の販売実績から見ても、数か月前に3700万円で売りに出ていた物件が短期間で1300万円も値上がりするとは思えないのです。

インターネットでの情報公開は、手軽に様々な情報を掲載して伝達できる良い媒体です。そうであるがために、一度公開された情報は相手側にしっかり伝わり、記録として残されていきます。私も、このアパートの情報が再公開されたとき、物件名が不明でしたが掲載された物件外観の写真が最初のものと同じだと気づきました。新しい情報は古い情報と簡単に素早く比較でき、受け取った側にメリットがなければ、悪い印象を与えてしまいます。情報発信のメリットの裏にある落とし穴です。

売主のオーナーさんには安易な売買価格の修正のつもりが、売れない物件の原因になるとは思いもよらなかったでしょう。公開された情報を変更するのであれば、再公開まで間隔をあけたり、変更した理由を明確に示したりするなどの戦略が不足していましたね。さらには、同じ物件の違う情報を再び閲覧する側の事を考慮する、すなわち顧客側の立場になって売却情報の公開を検討していれば、このようなことにはならなかったでしょう。

そもそも5000万円は流石に高すぎですが、3800万円ではなく最初から4500万円で売りに出していれば、今の値上がり傾向に乗じて売却できていたかもしれません。

 
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