2024年2月に、シリーズAで12億円の大型資金調達を実施したFacilo(ファシロ:東京都港区)。不動産仲介の営業接客支援サービス「Facilo」のリリースから1年が経ち、サービスの変化や将来の展望について、同社・市川紘CEOに話を聞いた。
前回の記事はこちら(2023年3月31日公開)──前回の取材から1年経ち、「Facilo」のリリースからも1年が経過しました。この1年でサービスはどのように変化があったのでしょうか。
この1年間、プロダクトのUI改善や機能追加を、ほぼ毎日のペースで行っています。大きなところでは、提案物件の学区が一目で分かる機能や顧客が物件ごとにメモや写真を記録できる機能を追加しました。
現在、「Facilo」は600店舗を超える不動産会社に導入いただいており、大手企業にも多数ご利用いただいています。導入企業数の内訳でいうと、大手企業は店舗数ベースでは多いものの、社数ベースでは中小の不動産会社の方が多く、幅広い層にご活用いただいている状況です。
──ほぼ毎日アップデートをしているというのは驚きです。「Facilo」の特徴の1つに提案業務の効率化がありますが、そこにも様々な機能が追加されていますね。
顧客体験の向上と業務効率化の両立を目指し、様々な機能を開発してきました。
シンプルなところでは、AIによる自動の帯替え機能ですね。提案物件数が多いと30分、1時間とかかっていた業務が数秒で終わります。
また、物件チラシや図面からの物件データの自動読み込みによって、物件名や価格、間取りなどの情報を自動で抽出することも可能です。
──実際に利用されている企業にはどういった効果が表れていますか。
成約率の向上については、1年前と比べて数字としてもはっきりと表れてきました。
「Facilo」を使うことで、1人の顧客に対する物件提案の手数が増えます。たとえば、週に1回3件程度だった提案が、週に2〜3回で10件以上できるようになりました。
提案の手数が増えただけでなく、提案できる期間も長くなっています。従来は検討期間が1〜2カ月程度の顧客にしか提案を続けられなかったのが、システム導入により長期間検討している方、かつ見込み客に絞って効率的にアプローチできるようになりました。
これにより、営業担当者1人あたりが同時に対応できる顧客の数が、3倍程度に増加し、この掛け合わせ効果で成約率が向上しています。中には成約率が2倍以上になったという会社もいらっしゃいます。
──利用企業にもしっかりと効果が現れているのですね。2024年2月には12億円という大型の資金調達を発表しました。
今回の資金調達では、主に2つの領域に投資していく予定です。
1つは人材採用の加速です。現在の社員数は20名ほどですが、今年中に70名、来年4月までに100名体制を目指し、優秀な人材の確保を進めていきます。 大手企業からの中途採用や、他のスタートアップで実績のある人材にもアプローチをかけています。今のところすごく順調で、強いメンバー、トップタレントに加わっていただいています。
もう1つは、プロダクト開発のさらなるスピードアップです。導入企業からいただく要望に、よりスピーディに応えていくための開発体制を整えていきます。機能改善や新機能追加のペースを上げ、ユーザー満足度の向上に努めます。
──今春には、売却領域のプロダクトのリリースを予定されているとのことですが、こちらはどのような内容になるのでしょうか。
今春のリリースを目指して開発を進めている「Facilo売却版」ですが、こちらも購入プロダクト同様に、売主様と営業担当者の間のコミュニケーションをクラウド上で一元管理することを目的としています。不動産の仲介会社の営業の方とその先の顧客の間の煩雑なコミュニケーションをクラウドに集約して整理していくと いうところは変わりません。
売主への営業活動報告書の自動生成や、売主ごとの販売活動の進捗管理、購入検討者の管理などを予定しています。
これまでも売り主体の仲介会社などから、「売却領域のサービスが出るんだったら是非やりたいから、その時は連絡してほしい」といった声を数多くいただいていました。また、導入企業からも売り側の課題について様々な要望をいただいてきたので、開発を進めています。
──最近、不動産業界に関連した営業業務や追客に関連するサービスがM&Aによって売却されるなど、Facilo社周辺のテック分野で様々な動きが活発になってきています。
不動産営業の業務フローが、集客→追客→接客とあった場合、「Facilo」は接客のプロダクトです。不動産会社にご提案していると、MA(マーケティングオートメーション)ツールと比較されるケースがやはり多いですが、厳密には重なっていないと思っています。
実は、「Facilo」と不動産MAツールを併用されている会社ってすごく多いんですよ。たくさん反響がくるなかで全てを丁寧に対応しきれない。かつ、長期追客の顧客などもいる場合は、MAツールが自動で接点を作ってくれることに価値があります。
弊社の場合は、手動の部分が残る接客の部分に活用いただいています。手間暇かけてでも丁寧に接客をしたいという顧客に向けて、弊社の接客システムを使っていただいています。
──海外の不動産テック動向にも詳しい市川社長ですが、特にアメリカの不動産テック市場の動向はどのようにご覧になっていますか。
アメリカの不動産テック市場は、FRBの金利上昇の影響を受けて一時的に冷え込んだ時期がありました。不動産市況の低迷から、不動産テック企業の資金調達にも影響が出ていたようです。
日本でもマイナス金利が解除され、不動産業界への影響が懸念されていますが、日本の状況はアメリカとは少し異なるのではないかと見ています。日本では金利上昇幅がアメリカほど大きくないことから、アメリカのような大きな影響は出ないのではないでしょうか。むしろ、日本の不動産テック市場はまだ黎明期にあり、伸びしろが十分にあると考えています。不動産業界のDXは始まったばかりで、テクノロジーを活用した業務効率化や顧客体験の向上には大きな可能性を感じています。
当社としても、日本の不動産業界の変革に向け、引き続き尽力していく所存です。海外の動向は注視しつつも、日本市場に適した独自のソリューションを開発し、提供し続けていきたいと思います。
──最後に、今後の展望について教えてください。
短期的には、今年春にリリースを予定している「Facilo売却版」を、年内に500店舗に導入することを目指しています。購入プロダクト同様、売却の現場の課題解決に尽力し、高い顧客満足度を追求していきます。
そして中長期的には、不動産業界の様々な課題解決に向け、プロダクト開発を進めていきます。私たちの強みは、不動産の営業担当者の方々と二人三脚で課題解決に取り組める点だと考えています。現場の生の声に耳を傾け、それをプロダクトに反映させていくことで、不動産業界に本当に役立つソリューションを生み出していきます。
将来的には、第3弾、第4弾となるプロダクトのリリースも視野に入れています。業界の変化を捉えながら、新たな課題にもいち早く対応できる開発体制を整えていく方針です。
私たちは不動産テックというバーティカルSaaSの特性を活かし、導入企業と連携しながら 、プロダクトと業界を共に成長させていきたいと考えています。不動産業界にはまだまだ進化の余地が多くあります。ファシロはテクノロジーの力で業界の変革に伴走してまいります。