「独立=ポータル集客頼みの賃貸仲介」では失敗する時代が来た
南智仁 賃貸仲介の視点
賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。

画像=PIXTA
現在、都心部で賃貸仲介業務を軸にして独立することは、かつてに比べて格段に難易度が上がっている。少し前までは、まず賃貸仲介業としてポータルサイトからの集客を行い、経験と実績を積み、徐々に管理物件を増やしながら、最終的には一棟物の仕入れや売買に進むという流れが、不動産業界で独立を志す者にとって王道のルートであった。しかしながら、時代は変化しており、そのような伝統的な成長モデルは今や通用しにくくなっているのが実情だ。
まず第一に、賃貸仲介の単価が大幅に下落している。インターネットの普及と共に物件情報が広く開示されるようになり、ユーザー自身がポータルサイトやSNSなどを通じて、物件を探す能力を身につけている。仲介業者が持っていた情報の非対称性は失われ、ユーザーが能動的に動く時代となったことで、業者の付加価値が相対的に薄れてきた。結果として、仲介業の利益率は大幅に悪化し、従来のような形での収益モデルが成立しにくくなっている。
加えて、都心部の空室自体が少ないことも大きな問題である。新築物件が増え続ける一方で、都心部の需要は高水準を維持しており、良質な物件は即座に成約してしまう状況が続いている。こうした空室不足の中で、業者間の競争は激化の一途をたどっており、ユーザーの取り合いになることで、さらに収益性が圧迫されている。このような環境下で、何の基盤も持たずに裸一貫で賃貸仲介業に飛び込んだところで、安定した収益を確保することは極めて困難だ。
では、これから不動産会社を立ち上げたいと考える者は、どのような戦略を取るべきなのか。現在の不動産業界においては、従来のポータルサイトからの集客一本での勝負は現実的ではなく、新たなルートを模索する必要がある。以下に、現代における不動産業独立の主な選択肢を挙げてみたい。
まず1つ目は、強固な顧客ルートを活かした仲介業務である。特定の法人、学校、病院、大手企業などとの契約を結び、そこから定期的に顧客を紹介してもらえるような仕組みを構築すれば、安定した収益基盤を築くことができる。このモデルは営業力や人脈構築力が問われるが、賃貸市場の中でも効率的に集客が可能であり、競争を避けながらニッチなポジションを取ることができる。
次に、すでに一定数の大家や管理物件を抱えている状態から始める管理業務である。賃貸仲介に比べて管理業務は継続的な収益が見込めるため、ストック型ビジネスとしての魅力が高い。特に、築古物件のリノベーション提案や空室対策のノウハウを提供できる場合には、大家からの信頼を獲得しやすく、安定した管理契約につなげることができる。
3つ目は、人脈を駆使した売買・賃貸仲介業務である。これは特に、士業(税理士、弁護士など)や資産家、企業オーナーなどとのつながりを活かすことで、一般市場には出回らない情報を扱える可能性がある。また、一部ではあるが、買取再販などの形で付加価値をつけた不動産を提供することで、高い利益率を実現することも可能だ。ただし、このモデルも人的ネットワークや信頼関係の構築が不可欠であり、ゼロからの構築には一定の時間と努力が求められる。
最後は、潤沢な資金を活かした王道の不動産投資型のスタイルである。資金力にものを言わせて、不動産を取得し、自社で運用・管理・再販まで一気通貫で行うことで、収益性を高める手法だ。これは完全な事業型であり、いわゆる「地主型」の独立と言える。多くの若者にはハードルが高いが、資金提供者とのジョイントベンチャーやパートナーシップを組むことで、擬似的にこのモデルを活用することもできる。
そして最後に、ITを駆使したテック系不動産サービスの展開が挙げられる。これは従来の不動産会社とは一線を画す形で、業界の課題をテクノロジーによって解決しようとするものである。具体的には、AIによる物件マッチング、チャットボットによる24時間対応、ブロックチェーンによる契約管理などが考えられる。不動産業界にイノベーションを起こすという観点から、多くのスタートアップがこの分野に挑戦しており、今後さらに市場が広がる可能性が高い。
このように、現代の不動産業界では、従来型の賃貸仲介一本での独立はもはや非現実的なものとなりつつある。独立を目指すのであれば、強固な顧客基盤、人脈、資金、ITスキルなど、何らかの差別化要素を持つ必要がある。そうでなければ、日々激化する市場競争の中で埋もれてしまうだろう。
血気盛んな若者がこれから不動産業界に飛び込んでいくためには、彼らに対して「どんな新しいルートがあるのか」を具体的に示していくことが求められる。業界経験者がその先導者となり、現代の不動産業界における新たな成功モデルを創り出すことで、次世代の担い手が育っていくはずである。

