賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。

eラーニングの風景

画像=PIXTA

近年、企業の人材育成において大きな潮流となっているのが、“ラーニング系”と呼ばれるオンライン研修や学習管理システム(LMS)の導入だ。特に新卒社員や若手社員の教育において、この傾向は顕著である。動画教材やeラーニングを活用したトレーニングは、企業にとって「いつでもどこでも学べる」「習熟度を可視化できる」「進捗管理がしやすい」といった利点があり、非常に効率的だ。実際に、学習のログや理解度テストの結果が数値として残り、人事部門やマネージャーが育成状況を定量的に把握できる点は、大きな魅力と言える。また、従業員側にとってもeラーニングは柔軟性に富む。自分のペースで進められる、分からない部分は繰り返し視聴できる、時間に縛られず好きなタイミングで受講できる、という点において、従来の一斉型集合研修に比べてストレスが少ない。働き方改革やリモートワークの浸透も相まって、ますます多くの企業がこの仕組みに注目しているのは当然の流れだ。不動産業界でもこうしたラーニング系の学習システムは、大手を中心にかなり浸透してきたように感じる。

しかし、あくまで私自身の体感になってしまうが、今年に入ってから特に「リアル研修」、つまり対面型の研修へのニーズが再び高まっているように感じる。これは単なる「懐古」でも「反動」でもなく、むしろ「オンライン一辺倒では人が育たない」という現場のリアルな実感の現れではないかと感じる。おそらく効率や可視化では測れない「人間的な成長」や「関係性の構築」といった要素に、企業が改めて目を向け始めたということだ。

リアル研修の価値は、第一に「空間の共有」から生まれる。パソコンの画面越しに参加する研修と、同じ空気を吸いながら隣の人の熱量を感じて進める研修とでは、学びの質がまったく異なる(実際、講師の私もその疲労度は格段に異なる。当然、リアル研修のほうが何倍も疲れる)。リアル研修では、ワークショップやグループディスカッションを通じて、参加者同士が対話を重ね、他者の意見や価値観に触れることができる。その過程で、「自分とは異なる考え方がある」「他者と比較して自分はどこに立っているのか」といったメタ認知的な視点が育まれる。これは、個人で黙々と進めるオンライン学習ではなかなか得難い体験だ。

また、リアル研修には一定の緊張感がある。会場に足を運び、他者の視線を感じながら参加する以上、手を抜くことができない。Zoomの裏で別の業務を進めたり、講義を「聞いているふり」をしたりすることはできない。強制力と言い換えることもできるが、実はこの「逃げ場のなさ」こそが、学びの密度を高める一因でもある。受け身ではなく、能動的に考え、発言し、動くことが求められる。それは、まさに実社会におけるビジネスの場面そのものである。さらに見逃せないのが、「横のつながり」が自然に形成されるという点だ。リアル研修では、グループワークを通じて参加者同士が深く関わり、仲間意識が芽生える。ときには、同期入社の中でも特に信頼できる存在に出会ったり、他部署との交流から新たな視野が開けたりすることもある。こうした人間関係の構築は、会社へのエンゲージメントや心理的安全性の醸成にもつながり、離職率の低下にも一役買う。実際に、「初めて他店舗のかたと交流することができた」、「他部署の仕事をディスカッションを通じてよく理解できた」という感想をよく頂く。

もちろん、知識習得の効率や反復学習の利点という点では、ラーニング系の仕組みが優れているのは事実だ。特に、法令や商品知識といった「型が決まった情報」に関しては、動画やスライド資料による反復学習が効果的である。また、地方拠点を多く持つ企業にとっては、移動コストや時間の制約を考慮すると、オンラインでの研修は非常に合理的だ。だからこそ、重要なのは「どちらかに寄せる」のではなく、「目的に応じて組み合わせる」ことだ。例えば、入社直後の座学型研修はeラーニングで効率的に実施し、その後にリアル研修でアウトプットやロールプレイ、ケースディスカッションを行う、というような設計が理想的だ。あるいは、リアル研修の前後にオンライン学習を配置することで、知識の定着と行動変容のサイクルを加速させることもできる。

あくまでこれも個人的な考えだが、研修の真の目的は「知識を与えること」ではない。「人を変えること」だ。行動が変わり、発言が変わり、関わり方が変わって初めて、学びは意味を持つ。そのためには、学び手が「主体者」として研修に参加し、「気づき」「共感し」「試してみる」ことが不可欠である。リアル研修は、そのような主体性を引き出す設計がしやすく、学びの転換点を生み出す場として非常に有効だ。今後の企業研修は、ラーニングの技術的進化と、リアルな体験の融合をどう図るかにかかっている。AIによるパーソナライズ学習やスキルマップの自動化など、オンライン技術はますます進化していくだろう。だが、その技術の先にあるのは常に「人間の変化」だ。知識だけでは現場で通用しない。人と人との関わり、行動、反応、意志、それらを体感し、鍛えるのは、やはりリアルな現場に勝るものはない。不動産業務が結局、人と人との関わり合いが最後の最後まで残るように、学習という部分も最後まで「リアルの場」は無くならないだろう。

ラーニング系で体系的に学び、リアル研修で人としての動きを鍛える。この「両輪」を持ってこそ、不動産会社にとって本当に価値のある人材育成が可能になる。効率と実感、可視化と納得、理論と実践。そのすべてをつなぐ設計こそが、これからの研修には求められている。是非、リアル研修ご要望の方は、弊社にご相談ください!笑

 

 
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