とある面接官に言われた仲介業務の醍醐味

賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。今回は、南さん自身が面接時に言われた印象的な言葉と、仲介業の醍醐味について紹介します。

画像=PIXTA

約10数年前に、とある大手の不動産売買仲介会社の面接を受けたことがある。その際の面接官の態度が、あまりにも尊大で印象が悪かったが、その時、彼から言われた言葉を今だにふと思い出す。

足を組んで鼻をかみながら、50歳前後の彼は、私を含めた数人の志望者に必要以上に大きな声でこう言った。

「不動産の仕事というのは、お客様の人生の節目をサポートする仕事です。とても素晴らしい仕事ですから、しっかりと敬意を持ってお客様と接していかなければいけない」

残念ながら、私はこの選考からは落とされた。正直、その面接官の迫力と圧力にやや自信を無くしていた自分にとっては、少しホッとしたことを覚えている。

その後、不動産会社様の支援として、よく新人のかたの研修や面談を実施する機会があるが、折りに触れてこの言葉を拝借する。

「不動産の仕事というのは、お客様の人生の節目にサポートする仕事です」

賃貸仲介業においても、「ユーザーに対して人生の節目をサポートする」ということに大きく関係していると個人的には思う。むしろ、家を買うという大きな選択を後押しする売買仲介よりも人生の岐路に立って選択していく20代の層をメインターゲットとしている賃貸仲介業務のほうが、人生の節目をサポートしているかもしれない。

ちなみに賃貸仲介業務において、ユーザーにヒアリングするために必ず聞かないといけないポイントは、「入居時期」、「引っ越し理由」、「優先順位」だといわれている。このあたりをヒアリング時に明確にすることで、成約率が向上できる。

実際に、入居時期が不明なユーザーに物件を強く提案しても、まず申し込みはしないだろうし、エリアや希望設備の優先順位が明確になっていないと、決め手に欠けてなかなか申し込みに至らないだろう。

今回、着目したいのは、この3つのうちの1つである「引っ越し理由」だ。実際に、引っ越し理由によって、成約率の確度は異なると言われる。

特に、この引っ越し理由の中でも、差し迫った引っ越し理由がある場合は、成約率は高くなる。具体的にいえば、「入学」、「就職」、「転勤」、「転職」、「結婚」などの所謂「人生の節目」が引っ越し理由の場合、ユーザーが引っ越しをする確率は高くなる。

一方で、「気分転換」や「手狭」などの理由が明確になっていない場合だと、成約率が低くなってしまうのが、一般的だ。

当然といえば当然かもしれないが、この「引っ越し理由」をしっかりヒアリングしなければ、成約率は改善しない。いくら条件面で納得ができていても、引越しの確たる理由がなければ、ユーザーは積極的に引っ越さないのだ。

長らく仲介業務に携わっていると、それ以外の風変わりな引っ越し理由も多く聞いてきた。

自分が仲介業務を行っていたときには、風水の方角が悪いために、引っ越しを要望するユーザーがいた。風水を重要視するユーザーからすると、「現在の住まいの方位が悪い」というのは、立派な引っ越し理由になる。

しかし、こちらからすれば、なかなかに難しいユーザーだった。希望条件を聞いて、物件を提案する。しかし、ユーザーは提案した物件に興味を持ってくれているものの、最終的に内覧に行くかどうかは、風水の先生の回答を持って判断したいとのこと。

内覧候補の物件が数件あったが、後日先生から来た答えは、全てNGであった。そうなると、またイチから探さなければならない。こうなると、もはや根比べである。結局、なんとか物件を申し込んで頂いたが、当初のユーザーが希望するエリアとはかけ離れたエリアだった。

「離婚」という引っ越し理由で来店したユーザーも印象に残っている。特に、物件探しや提案などに苦労したわけではなかった。ただ、とにかく必要以上に「気を使わなければいけなかった」。
「引っ越し理由は、なんでしょうか?」と質問すると、ぽつりと「離婚です」と答えるユーザー。あまり明るくするのも気が引ける。ただ、ユーザーにとっては、その理由は大きな「人生の節目」であることは、間違いない。しっかりと丁寧にサポートすることを心がけていた。

その他には、「セカンドルーム」利用が引っ越し理由のユーザーもいた。実際に仕事場兼住居として使用するユーザーもいれば、別の目的ではないかと勘繰りたくなるようなユーザーもいる。あまり大きな声ではいえないが、意外と都心の高級物件は、こうしたユーザーが賃借人になるケースもある。

以上のように、ただひとえに引っ越し理由といっても、本当にさまざまである。大半が、転職や転勤、入学などのイベントに対する引っ越しではあるものの、なかには、特殊な事情で引っ越しをするユーザーも一定数いる。

ただ、どういう事情であれ、引っ越しをして、住む場所が変われば当然のことながら、そのユーザーの生活環境は、変化をする。もしかしたら、そのひとつの引っ越しが、人生に大きな影響を及ぼすかもしれない。

当時の面接官だった彼の言葉は、あながち間違いではなかったのだ。引っ越し理由のヒアリングは、仲介業務の必須項目であり、人生の悲喜交々に触れる機会でもあるのだ。

 
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