6月19日、日本郵政の野村不動産買収計画が白紙になったと一斉に報道がありました。買収検討に入ったとの報道が5月12日、僅か1カ月強で巨額買収計画は頓挫したわけです。不動産業界始まって以来の大型買収は、なぜ流れてしまったのでしょうか。果たして、これで終わりなのでしょうか、はたまた次なる展開があるのでしょうか。買収の報道時に「日本郵政が野村不動産を買収?マンション「プラウド」の価格はどうなる?」を寄稿いただいた、株式会社FP-MYS 工藤崇代表に聞きました(リビンマガジンBiz編集部)。

各紙報道 (撮影=リビンマガジンBiz編集部)

2017年5月に「日本郵政、野村不動産を買収か?」という衝撃的なニュースの第一報が届き、本サイトに「日本郵政が野村不動産を買収?マンション「プラウド」の価格はどうなる?」を執筆しました。

あれから1カ月。「この段階でメディアに報じられて大丈夫なのか?」と、どこか危うさを内在していた合併劇は大方の予想通り、白紙撤回となりました。その白紙撤回の報もまた、メディアによって一斉に取り上げられました。6月19日に野村不動産から正式に買収交渉中止の発表が出されるも、あまり当事者の顔が見えない買収劇に強い違和感を覚えた人も少なくはないでしょう。

報道された時点で買収する気はなかった?

今回の買収断念の理由は、各紙報道によると「野村不動産の株価が高止まりし、金銭的な諸条件面で、交渉が折り合わなかった」と発表されています。しかし、日本郵政は「(買収を)検討している事実はない」とコメントして買収交渉そのものを否定しました。一方で、野村不動産は「中止することになった」と発表し、少なくとも交渉はあったととれる意見を公表しています。

双方の意見に食い違いや温度差を感じますが、仮に交渉があったとして、買収が実現する可能性は低かったのでないかと筆者は考えます。それはなぜでしょうか。

2017年3月期の決算において、日本郵政は連結赤字に転落しました。これは、2007年の民営化後初のできごとです。理由は、2015年に買収したオーストラリアの物流子会社の業績が低迷したことです。4,000億円もの損失を計上し、17年3月期は289億円の最終赤字になりました。こういった買収戦略の失敗については、投資家から強い批判を受けていました。

今回の買収検討は、赤字決算を発表したあと、批判が冷めやらぬ間に報道されました。
報道では日本郵政が所有する郵便局など、不動産の再開発や活用を目的としたものだったと考えられています。しかし、わざわざそのために不動産会社を買収しなくても、競争入札などフラットで、公開性の高い方法で取り組む方がリスクが少ないのではないでしょうか。

こういった経緯を考えると、初めからこの大型買収が可能だったのか、もとより買収する気は少なかったのではないかと疑問に思うからです。


郵便ポスト (撮影=リビンマガジンBiz編集部)

なぜ買収報道が起きたのか?

では、なぜ買収検討という報道があったのでしょうか?
この報道が出ることによる、メリットが2点あります。

1点目は、今回の買収の働きかけのように日本郵政が「郵便」「かんぽ」など既存の事業だけではなく、そのほかの業界にも参入する姿勢があることを投資家に示すことができた、という点です。

日本郵政の主力事業の1つが年賀状です。年賀状は慣習の変遷を受け、2003年の約44億枚から2017年は31億枚という著しい下落傾向に見舞われています。その他の郵便事業も、それまで紙媒体で送っていたものをメール添付で送ることが、もはや「当たり前」になってきました。郵便事業が低迷している中で、次の成長戦略を練っているというアピールができたのではないでしょうか。

2点目は、日本郵政が国内に2万カ所に不動産を持っているということを周知させたという点です。日本郵政が所有している不動産のほとんどは郵便局です。主要都市や駅から近い好条件、好立地の物件を多数所有しているということを世間に知らしめました。また、多くの郵便局が築40年を超えており、その建替えや有効利用といった部分に、大きな市場を秘めている可能性を国内外にアピールできました。

筆者は、好景気が続いている不動産業界に今後ブレーキがかかったとき、日本郵政が所有する不動産に注目が集まると考えています。これまでは国有地・国の持ち物だった不動産が市場に流れることで、日本郵政が改めて主役に躍り出る可能性があると考えます。

そのときには、もしかすると野村不動産も密接な形で関わってくる可能性もあるのではないでしょうか。
今回の断念劇、数年後には「あ、そういうことだったのか」となる可能性があります。日本郵政の「次の一手」となる取り組みが功を奏し、住民(ユーザー)にとって生活が豊かになる展開となっていくことを願います。

 
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