税理士 金井義家 ニュースの目利き


ちまたにあふれるニュースの中には、不動産ビジネスに役立つ「金のニュース」が存在する。不動産ビジネスに造詣の深い公認会計士・税理士の金井義家さんが解説します。(リビンマガジンBiz編集部)

(画像=写真AC)

今回の「ニュースの目利き」は、平成27年1月6日の国税不服審判所の裁決事例を紹介します。自身が経営する会社を使った相続税の節税対策に国税当局が待ったをかけました。

賃借用建物と借入金を請求人が相続

親子の愛とはすばらしいもので、しばしば美談として語られます。しかしそれも行き過ぎると、時に大きなトラブルを引き起こすことになります。

今回はそんなお話です。

被相続人は、相続開始直前に自身が経営するA社が所有していた建物(賃貸用建物)を、時価(実勢売買相場)である約3億7,000万円で買い取りました。また、その一方で、売買代金全額をA社からの借入金ということにしました。金利は年2%で、元金は20年後に全額を一括返済という取り決めです。

オヤ?と思った方もいるかもしれません。

要するに被相続人はA社から賃貸用建物を買ったにもかかわらず、代金を1円も払わずに、支払は20年後に一括払いとしたのです。しかもこの20年間は利息だけを払えば良いという契約です。もっとはっきり言うと、特にお金のやり取りをすることもなく、とにかくこの賃貸用建物の登記簿上の名義を、法務局へ行って自身に変更しただけとも言えるのではないでしょうか。さらに付け加えると、この売買を実行した時に既には、被相続人は体調を崩して入退院を繰り返していたのです。

自身の経営する会社から賃貸用建物を買っただけで、相続税が1億円以上も減少!?

そして売買の数カ月後、被相続人は他界しました。前述の被相続人が相続直前にA社から買った賃貸用建物は、相続発生時には被相続人の個人財産すなわち相続財産ということになります。

賃貸用建物というのは時価(実勢売買相場)よりも、相続税評価額が低いことが一般的で、半分以下ということも珍しくありません。この賃貸用建物の相続税評価額は、売買時の時価(実勢売買相場)約3億7,000万円を大きく下回る約1億2,000万円でした。

さらに被相続人は賃貸用建物の売買代金約3億7,000万円全額をA社に支払っておらず借入金としていましたから、被相続人が相続発生時に負担していた債務ということで債務控除(マイナスの相続財産として計上)したのです。そうすると被相続人が相続直前にA社からこの賃貸用建物を買ったことで、賃貸用建物の相続税評価額約1億2,000万円と借入金残高約3億7,000万円の差額である、約2億5,000万円だけ、被相続人の相続財産全体の相続税評価額は下がったということになります。場合によってはこれによって1億円以上の相続税が安くなった可能性もあるのです。

皆さんはどう思いますか?このようなことが偶然に起こると思いますか?普通に考えるとそんなことはないですよね。状況証拠からだけ判断すれば、自らの死期を察知した被相続人が、自身の唯一の子である請求人を相続税の負担から守るために、この賃貸用建物の登記簿上の名義を自身に書き換えたと考えるのが自然ではないでしょうか。

>>2ページ目:ルール通りの節税策でも、過ぎたるは猶及ばざるが如し!?(続き)

 
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