「相続税の節税をするためにアパートを建てましょう!」佐藤義男(65歳・仮名)は吉澤税理士(仮名)からこう提案を持ち掛けられた。

提案を受けたのは震災復興でアパートの需要が急激に増加している地方都市K、土地3,000万円、建物1億円のアパートだ。1億3,000万円全額を借入れて建てる計画だった。

節税額は約780万円。

佐藤は節税額につられて土地を購入しアパートを建築したがすでに復興需要はピークを過ぎ、元は満室になってキャッシュフローもわずかにプラスとなっていたものの、近隣に同じメーカーの同規模のアパートが多く建築されており、築7年を過ぎたあたりから思ったように部屋が埋まらない状態が続いた。空室率は30%で455万円/年の収入があるが、借入金の返済は30年ローンで576万円/年、固定資産税が年間約25万円/年、その他の管理費が24万円/年。毎年のキャッシュアウトが170万円という物件になってしまったのだ。

相続税は平成27年の改正により課税割合(相続税がかかる人数/死亡者数)は8.0%となったものの、改正前の平成26年は4.4%と低水準で、実は数がこなせていなかったことから相続に慣れていない税理士も多数いる。特に地方では課税割合が2%を割る地域も多く、相続を経験する税理士はごくわずかだ。

不動産の相続税計算上の評価と時価の差額を利用した相続税の節税は定石というイメージが強く、また税理士はアパート建築会社などから手数料を得る契約をしているところも多いため、相続対策の手段としてアパートの建築を勧めるという事情もある。

顧客も節税を意識するあまりトータルのキャッシュフローを考えずに税理士の勧めに乗ってしまい建築が終わってから後悔する。キャッシュアウトが大きく結果的に財産が減少して相続税の対象者にならなかったなどという笑い話もあるくらいだ。

不動産投資を行う場合には相続税の節税のみでなく、収益性はもちろんの事出口戦略も考えておく必要がある。いつ手放すか、いつ建て替えするか計画を立ててトータルのキャッシュフローを検討したうえでうまく節税に活用したい。

 
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