現在、相続というと、人の死によってその人の財産を相続人が引き継ぐことを意味し、法律により権利として認められています。

そして、その財産に土地や住宅が含まれる場合、通常は相続の対象として、相続人が引き継いだり、事情によっては売却するなどして処分していくことになります。 

このように現在では、住宅や土地も相続財産として引き継ぐことができますが、昔、とりわけ江戸時代の武士の世界では意外に思われるかもしれませんが、当然に引き継ぐことができたというわけではありませんでした。

当時、彼らが住んでいた住宅(屋敷)は、領主から与えられていたもので、現在の感覚でいうと公務員住宅のようなものでした。また、持っていた(とされる)土地(屋敷のある場所も含め所領地)も自身で直接購入したものではない限り住宅同様に領主から与えられていたもので、今風に言い換えると、独占的な利用権が認められていたといったところでしょうか。

しかも、この独占的利用権には、当然的な継承権が保障されているわけではありません。

つまり、利用を認められていた人が死亡して相続が発生した場合、現在のように相続開始と同時に継承する権利が発生するのではなく、形式的には、相続対象となる住宅や土地は、一旦貸し与えた領主に戻ることになります(ただし、実際には住宅等を明け渡したりはせずに引き続き利用できます)。

そのうえで、後を引き続ぐ人(現在で言うところの相続人)が、改めて領主に相続許可の申請をして、許可されると改めて対象となっている住宅や土地が与えられる形をとっていました。

現在の感覚からすると、当時は世襲制で特権的に何もしなくても代々住宅や土地などの対象不動産を継承できていたと思われるかもしれません。

しかし、実際には形式的とはいえ、一旦は対象不動産を返還し、許可を受けたうえで同じ対象不動産の利用を改めて認められなければ、不動産を継承できませんでした。 

もっとも、後継ぎの人に対象不動産の利用等が認められない事例が多かったのかと言えば、先代が不祥事を起こし処分を受ける前に死亡したなどの特殊な事情がない限りは、その利用を認められていて、一連の継承手続きはセレモニーと化しており、事実上の世襲であったことは否めませんが。

 
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