不動産賃貸に関連する法律の歴史を紹介します。現在、不動産賃貸借において、賃貸人(貸主)の立場が弱いと言われています。それはなぜなのでしょうか。社会的背景などを踏まえながら時系列順に見ていきましょう。リビンマガジンBiz編集部)


(画像=写真AC)

■明治~大正における賃貸の法律


人々に土地が私有財産として認められたのは、明治になってからで1872(明治5年)年に「田畑永代売買」が解禁されてからです。明治政府は、国民に土地を私有化させることで税収を得ようと考えました。これまでは、藩ごとに税率がまちまちだったため、1875年(明治8年)には地租改正を行い、土地価格の3%を地租(租税)として導入しました。

地租改正による地価の3%という税率に加え、現金での納税は、これまで米による年貢を納めていた人々にとっては大きな負担になりました。多くの農民は小作人になり、地主が有利になっていきます。同時に借地制度の需要が高まっていきました。

また、1904年(明治37年)から始まる日露戦争では、戦争需要により大都市部への人口集中が起こり、借地・借家需要が増大します。この頃はまだ、借地人・借家人を保護する法律はなく、1898年(明治31年)に施行された「民法」によって、賃貸人(貸主)と賃借人(借主)は対等な関係として考えられていました。

「貸し手市場」化した賃貸業界では、不当な賃料の増額や、権利の弱い借地人を強制的に追い出すために、土地を売却する「地震売買」が横行しました。

そういった背景から、1909年(明治42年)に「建物の保護に関する法律(建物保護法)」が公布されます。これは、借地人が借地上にある建物を登記すれば、地主や第三者に対抗できるようになりました。

また、第一次世界大戦の1921年(大正10年)には、現在の借地借家法の前身である「借地法」「借家法」が制定され、借地人の法的地位の向上を図りました。当時、これらの法律は東京・京都・大阪・神戸・横浜のみに適用されていました(1941年(昭和16年)に全国適用)。

「借地法」は、地主から土地を借りると、地代を支払えば半永久的に契約を継続することができる、というものでした。地主にも、メリットがあるかと思われた法律ですが、後の高度経済成長によって土地価格が高騰すると、安価な地代で永久的に返ってこない土地が急増しました。

また、1923年(大正12年)の関東大震災時には、「借地借家臨時処理法」が施行されました。これは、被災した借家人がバラック生活を余儀なくされたため、一時的にバラック建物を借地権と認めることになりました。

■昭和における賃貸の法律


1937年(昭和12年)の日清戦争や1939年の第二次世界大戦によって、さらに都市部への人口集中が進みます。すると、都市部の地価がさらに高騰します。それと伴い上昇する地代や家賃によって、国民の生活が脅かされることを恐れた政府は、「地代家賃統制令」という勅令を下しました。

この勅令は、政府が地代と家賃の額の値上げを統制するというものでした。しかし、十分な賃料が回収できない賃貸人は、貸借人の立ち退きを迫る動きが攻めていき、社会問題にもなりました。

この社会問題を受け1941年(昭和16年)、政府は「借地法」「借家法」を全国に適用させるといともに改正を行いました。改正の中に、借地人の立ち退きをする場合には、「正当自由」がなければならないとし、賃借人保護の意味合いが強まりました。

家賃統制令は、その後も1986年(昭和61年)まで続きました。

「正当自由」とは
正当事由とは、土地や建物の賃貸借契約において、賃貸人(貸主)が契約の更新や、解約を申し入れる際に、必要になる事由です。

その事由とは、賃貸人が該当建物の使用を必要とする事情や、賃貸借契約の従前の経過、建物の利用状況、建物の現状、立ち退き料の有無などが挙げられます。しかし、何が正当事由になるかは、裁判によって判断されます。

一方、賃借人は申し出するだけで契約を解除することができるため、アンバランスな関係です。


(画像=写真AC)

■平成における賃貸の法律


借地人の過剰な保護はバブル経済を迎え、より賃貸人(貸主)に大きな負担として降りかかりました。1992年(平成4年)、従来の「借地法」「借家法」「建物保護法」をまとめた「借地借家法」が制定されます。

大枠は、従来法律の規定を受け継いだ内容でしたが、借地権の存続期間については、一律30年としました(30年以降の、賃貸人の更新拒絶などには、これまでと同様「正当事由」が必要)。また、定期借地権制度を創設し、10年以上20年未満の期間で土地を貸し、契約期間終了とともに、賃貸人に土地が返還されるというものも導入されました。

しかし、この法律が適用されるのは、新規契約に対してのみであり、従来の借地権を有している賃借人に対しては、「借地法」が適用されました。また、定期借地権制度に関しても、期間が短すぎるため、実用的だとは考えられないものでした。

2008年(平成20年)、借地借家法が改正され、現在ものになります。
ここでは、事業用定期借地制度が改正されました。それにより短期定期借家契約(10~30年)と、長期定期借家契約(30~50年)が整備されました。

■まとめ


法律には、時代背景があります。明治から昭和初期までにおいて、借地人・賃借人は異様に弱い立場に立たされていました」と語るのは、
半蔵門総合法律事務所の島﨑政虎弁護士です。

しかし、当時のパワーバランスが、今はもう崩れています。そういった法律を今も残しておいていいのかは、問題意識を持たなければなりません

現在の借地借家法を見ても、賃貸人(貸主)が弱い立場に立っています。これから、人口が減少し、借りて市場になっていく日本の賃貸業界においては、さらなる改正を求める意見もあるようです。

 
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