「乗り出し価格」という言葉をご存知ですか?

実はこれ、自動車販売業界の用語です。具体的には、自動車の本体価格に加えて、納車までに必要な諸費用を含めた購入時の総支払額のこと。不動産業界では似たような概念はないのでしょうか?聞いたことがないですね。

住宅における乗り出し価格を、「住みだし価格」と表現したとして、どんな費用がかかってくるのでしょう。

手元にあったチラシの中古不動産を例として考えてみましょう。

東京都港区の13階建て8階部分、4,750万円のマンションです。

■基本的な必要経費

・売買契約書 印紙代

1万円

・不動産仲介手数料

4,750万円×3+6万円と消費税で約154万円

※売主が直接販売する場合は0

・固定資産税と都市計画税の日割り負担

12万円÷365×残期日数

180日の場合)=約6万円

・名義書き換え(所有権移転登記)登録免許税と司法書士報酬

10万円

・火災保険料

5万円

合計

176万円

全部で約176万円となります。

 

■住宅ローン関係(住宅ローンを借りる場合)

・金銭消費貸借契約書 印紙代

2万円

・ローン事務手数料

3万円

・ローン保証料

100万円

・抵当権設定登記

20万円

・団体信用生命保険料

(ローンによる)

合計

126万円

こちらは全部で約126万円です。

合計約302万円が必要です(これらに加えて引越し・家具購入費用等が掛かる場合があります)。

4,750万円の物件が、5,052万円と住みだし価格があると全体の負担もよくわかります。

■なぜ、住みだし価格がないのでしょう?

おそらく、2点理由があります。

(1)不確定な要素が多い

税金負担は売買の時期で負担額が異なります。

また、名義書き換えは、物件の評価額が明確でないこと、司法書士の報酬も一律ではないこと、また、火災保険はかけ方によって保険料にかなり差が出てきます。

(2)高くて敬遠される

4,000万円台で買えると思っていたマンションが、実は5,000万円以上の支払いが必要である。

これは、一見すると値上げのようで、売る側にとっては表示しづらいのではないでしょうか。また買う側からの値下げ交渉の材料にもされそうです。

一方、買い手も高いと感じるでしょうから、欲しいと思った物件の購入を控える可能性が出てきます。

つまり、売り手の論理では売れなくなる。

買い手の心理からも買う気が減少する、だから総額で表示はしない。

そのような考えかも知れません。

まずは、買う決断をしてもらい、後で諸費用を提示する。

自動車のような金額であれば、総額表示をすることが有効なようですが、

住宅の場合は額が大きいため、総額表示をすると購買意欲を削いでしまいそうですう。

住宅のような大きな買い物になると、購入の決断に勢いが必要です、

買う方も総額を出されない方がいいのです。

意思決定が鈍ります。

ただ、ファイナンシャルプランナーという筆者の立場で考えると、総額を理解してから買うことが無理のない住宅取得につながりますので、有益であると考えます。

総額を出さないで購買意欲を刺激するか、総額を出すことで信頼性を高めるか。不動産会社の経営姿勢と言えるでしょう。

住宅取得時の資金計画を練るときは、購入金額の総額を念頭に人生設計を組まれると良いでしょう。

全宅連関係者に取材したところ「住宅の価格に総額表示(売り出し価格)がないのは、1つは慣習による部分、もう1つは登記費用や、税率が物件個別で細かく示す必要があり、仲介手数料も仲介会社の裁量によって変わるため、それらを明記することは難しいのではないか」と語った(リビンMagaZine編集部)。

 
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