不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考える。

今回は、CRE(企業不動産)のコンサルティングやソリューション事業の傍ら、CREに関連した不動産テックサービスを展開するククレブ・アドバイザーズ(東京都千代田区)・宮寺之裕社長と小室仁常務取締役に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

左から ククレブ・アドバイザーズ・宮寺之裕社長、小室仁常務取締役 撮影=リビンマガジンBiz取材班

──事業について教えてください。

宮寺社長:当社は、不動産テックをはじめとしたテクノロジーを活用して、法人が持つCRE(Corporate Real Estate:企業不動産)のコンサルティングや売買、ソリューションを提供しています。オーソドックスな不動産会社というよりはBtoBの不動産を取り扱っている会社です。

──様々なサービスを提供していますね。

宮寺社長:AIを活用した「CCReB AI(ククレブエーアイ)」と、企業のCRE売却ニーズと仲介会社の情報を自動マッチングする「CCReB CREMa(ククレブクレマ・以下:クレマ)」が大きな柱となっています。

「CCReB AI」は、企業不動産(CRE)の購入・売却ニーズを掴み、提案のきっかけを得るツールです。AIが中期経営計画や財務諸表から不動産売却の可能性を予測し、レコメンドしてくれるのが特徴で、上場企業約3,800社、非上場企業約10,000社の分析が可能となっています。

「CCReB AI」画像提供=ククレブ・アドバイザーズ

非上場企業については、不動産を持っている会社のみを対象とするため、バランスシート上で有形固定資産が一定額以上の企業のデータを収集しています。上場企業のこれまでの不動産売却パターンを基に非上場企業の予測も行っています。

──データの読み込みと分析をAIによって提供しているのですね。

宮寺社長:上場企業が発表する中期経営計画には不動産の活用が組み込まれていることが多いです。

主なデータソースは中期経営計画や有価証券報告書です。これらすべての開示資料を取り込んでいるポータルサイト「CCReB GATEWAY(ククレブゲートウェイ)」も運営しており、予測の検証も可能となっています。

小室常務:「CCReB AI」は上場・非上場企業の中期経営計画や有価証券報告書を読み込み、不動産売却の可能性をスコア化します。過去に不動産を売却した企業の中期経営計画でよく使われる「PBR」「シナジー」「工場」「拠点」などのキーワードに着目し、それらの出現頻度などから機械学習しています。

4年の運営で3,000件以上の中期経営計画を蓄積しており、企業の財務状況や拠点情報なども把握できます。それらを総合して、どう攻めるかを一覧で確認できるようになっています。

──CRE以外の活用もできそうですね。

ククレブ・アドバイザーズ・宮寺之裕社長 撮影=リビンマガジンBiz取材班

宮寺社長:当社が取り扱っているデータは不動産会社だけでなく、コンサル会社なども求めている情報です。彼らは時間と労力をかけて上場企業3,800社の経営動向を可視化する資料を作成していますが、うちのデータを使えばその基礎データをすぐに入手できます。

不動産領域以外へのデータ販売を目的として、2021年には子会社のククレブ・マーケティング(東京都千代田区)を立ち上げました。

──CRE業界もアナログな手法が課題になっていたのでしょうか。

宮寺社長:前職からCREに長く携わっていたのですが、CREの営業は企業の開示資料を読み込み、蛍光ペンを引いたり付箋を貼ったりして「この会社はこう攻めたいよね」などと話し合いながら進めます。生産的な仕事ではなく、ただの資料集めにかなりの時間がかかっていました。一日中資料を読み込んだだけで、仕事をした気になっていることもしばしばです。

このプロセスをデジタル化できないかという課題意識が、独立のきっかけになっています。

人力で行えば1年かけて60〜70社ほどを抽出するのがやっとでしたが、「CCReB AI」を使えば最短30分で終わります。当社も少人数での効率経営ができているのは、まさに「CCReB AI」のおかげです。

──「クレマ」についても教えてください。

小室常務:「クレマ」は、不動産業界特有の低い成約率を改善するために開発しました。不動産業は「千三つ」と呼ばれ、1,000件の情報から3件程度しか成約に至らないのが悩みの種です。特に、CREのようなBtoBの世界では、調査などにも手間がかかり、業界の人手不足なども深刻な問題となっています。

そこで3年間にわたる実証実験を経て、「クレマ」をリリースしました。従来、不動産営業は物件情報を入手したら顧客企業に片っ端から提案するアナログな営業スタイルが主流でした。「クレマ」に物件を登録すれば、システムが自動でマッチングし、成約可能性の高い企業を割り出すことが可能です。

「CCReB CREMa」

「CCReB CREMa」画像提供=ククレブ・アドバイザーズ

実証実験の結果、通常の営業では2,000件の情報から10件の成約を作るには0.5%の成約率でした。「クレマ」を使えば、そもそものターゲットを500件に絞り込むことができ、スコアの高い企業に提案することで2%の成約率を達成しました。単純計算ですが、4倍の効率化に繫がっています。

また、「クレマ」上で、物件登録から商談・成約までのステータス管理もワンストップで行える点も業務効率化に繫がっています。

──「クレマ」は幅広い不動産プレイヤーに利用されているようですね。

小室常務:「クレマ」の利用企業の内訳は、仲介会社が3分の1、そこにデベロッパーや資産管理会社、投資会社などを足した不動産プレイヤー合計で5割、残りは物流会社などの事業会社や金融機関、ゼネコン、設計事務所、自治体など多岐にわたります。サブスクリプション型の月額制で提供しており、無料トライアルプランも用意しています。

──サービスリリースが2020年で、既に登録企業数が数百社あるというのも、驚きました。

宮寺社長:3年間無料で運用して成果を出したことが評価・評判につながったのだと思います。市場に埋もれがちな法人用不動産のニーズを掘り起こし、マッチングによって利益化する。そんな細かいニーズにフォーカスしているからこそ、ユーザーに喜ばれているのでしょう。

──AIによるビッグデータ活用やマッチングサービスなど、CREを起点に様々な事業を展開しています。ククレブ・アドバイザーズの強みは何だと考えますか。

宮寺社長:ツールを売るだけの会社ではなく、不動産業もやっていることですね。ツールの課金収入だけでは早晩限界がきてしまいます。両輪があることが当社の強みだと自負しています。

CREはニッチな領域ですが、企業不動産の総額は500兆円ともいわれる巨大マーケット。そこにテックの力でフォーカスしていくのが我々の使命だと考えています。これからは不動産会社のCRE部署立ち上げ支援なども視野に入れています。

競合他社が出てくるというより、我々がプラットフォームとして市場を活性化させ、「CREといえばククレブ」というブランドイメージを確立していきたいですね。

──海外展開なども構想にあるそうですね。

宮寺社長:現在、「CCReB AI」で分析した日本企業のビジネストレンドを可視化して「CCReB GATEWAY」で無料で公開しています。

「GATEWAY」は上場企業の決算資料などから集計したビジネストレンドを可視化している 画像提供=ククレブ・アドバイザーズ

この仕組みに関する特許を取得しており、これを海外の人から見た日本、あるいは海外各国のホットワード、市場調査などにも応用できないかと考えています。たとえばアメリカやシンガポールのビジネストレンドを可視化し、新しいビジネスのきっかけを提供できればと考えています。

──将来の展望をお聞かせください。

宮寺社長:CREという軸はブレることなく、企業不動産の活用法をさらに追求していきたいと考えています。そのためにも、ククレブの知名度を上げ、事業のスケールアップを目指します。

東証が打ち出した資本効率重視の姿勢によって、ようやくCREに追い風が吹き始めました。この機を逃さず、企業不動産の有効活用を後押ししていきたいと思います。

 
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