「BAIZO KANRI」をリビン社へ譲渡。コスモテクノロジー・青木千秋社長インタビュー

2023年2月28日、当メディアを運営しているリビン・テクノロジーズ(東京都中央区)は、不動産管理会社向け業務支援SaaS「BAIZO KANRI」を、コスモテクノロジー(東京都中央区)から譲受することを発表した。

「BAIZO KANRI」について、また今回の事業譲渡について、コスモテクノロジー・青木千秋社長に取材を行った。

コスモテクノロジー・青木千秋社長 撮影=リビンマガジンBiz取材班

【青木千秋社長のプロフィール】

1985年生まれ。学生時代にアパレルの事業を起業。新卒でファーストリテイリングに入社。入社半年後の店長試験を全国1位で通過し、着任後すぐの売上達成率が全国840店鋪中7位を記録。その後、カードゲームやスマホゲームを手がけるブシロードの営業マネージャーに従事。プロデューサーを経験した後、同社のMD会社の社長に就任。その後、イタンジの執行役員として不動産会社へのBtoBビジネスを経験した後、2021年コスモテクノロジーを設立。

―「BAIZO KANRI」について教えてください。

「BAIZO KANRI」は、オーナーと管理会社を繋ぎ、管理物件の拡大や顧客管理によるアップセルなどを図るプラットフォームサービスです。

通常、管理戸数を増やすために新規に家主を開拓する際には、ブルーマップでの調査やエクセルでのアタックリスト制作、現地調査といった業務に数カ月の時間を要します。「BAIZO KANRI」のマーケティング調査機能を使えば、管理受託において重要となるエリア毎の不動産情報や謄本情報などのマーケティング情報を把握することができ、戦略の立案を瞬時に行うことができます。

また、ワンクリックで行える追客機能やオーナーへの営業管理機能などによって、オーナーへの営業アプローチやコミュニケーションなどもワンストップでサポートします。

「BAIZO KANRI」

―「BAIZO KANRI」をリリースするきっかけは何だったのですか。

執行役員を務めていたイタンジを退職した際に感じたことがきっかけですね。

イタンジに在籍していた3年半で、不動産テック業界にどのようなサービスがあるのか、全体をおおよそ理解していました。そして、なぜオーナーと管理会社を繋ぐようなプラットフォームや顧客管理サービスがないのかと感じました。

いわゆるPM業務と呼ばれる、募集業務や入居者とのやりとりを簡素化するサービスや入居者との契約までの業務をサポートするシステムはたくさんあります。しかし、さらに上流となる管理物件を増やすといった部分にフォーカスしたサービスは少ない。

特に、大家を開拓するにあたっての営業管理はかなり属人化されています。過去にどのオーナーに対して何を営業したかという履歴は、社内に全く残っていないことも多い。また、各営業マンが取得した謄本情報は社内で共有されていないことも多々あります。

オーナーと交渉していたスタッフが退職してしまい、交渉内容の履歴が残っていないため、同じ営業を行ってしまうといった二度手間なども、人材の流動性の激しい不動産業界では頻繁に起こっています。その結果、大切なオーナーへの信頼を失っている不動産会社も少なくないという実態です。

首都圏では、一般人が買えないぐらい不動産の価値が高まっています。そうすると、当然賃貸に住まざるを得ないため、賃貸ニーズが高まってくる。コロナ禍でもレジの賃貸需要は高く、安定していました。管理会社は、オーナーとの関係性構築や良質な物件の管理を求めています。

PM業務の商流の中に、これだけ多くの不動産テックプレイヤーが参入してきているので、彼らの募集データ、空室データ、反響データ、内見データと「BAIZO KANRI」を連携することができれば、かなり質の高いオーナーレポートが出来上がりますし、信頼性の高い不動産会社は、オーナーの信頼をより一層、勝ち取っていくと思っています。

―青木社長は、アパレルやエンタメなど、不動産以外にも様々な業界を経験しています。他業界と比べて不動産業界が持つ課題はどういったものがありますか。

不動産業界は、組織の新陳代謝があまりないことが課題だと感じました。

10年前に上役やトップといわれていた人や組織が、今もそのポジションにいらっしゃる場合が多いですね。不動産テックという言葉が飛び交うようになった時でさえ、不動産テック企業は古参の会社が多いのではないでしょうか。IT研究会などの様々な集まりでさえも、上層部の顔ぶれが変わらない。結局、人の新陳代謝がないから新しいアイデアが生まれづらいのではないかと思いました。

たとえば、アパレルで言えば、「SHIEN」というブランドは、たった1年で、世界で有名なアパレルブラントになりましたし、エンタメ業界を見ても「にじさんじ」なんかも、急成長したエンタメ企業です。

もちろん、不動産企業や不動産テックの方達と個別に話すと、壮大なビジョンや使命感を持たれていると感じますが、集団での会議や打ち合わせになると、あまり前に進む気配が感じづらかったですし、今の商流の延長線上にビジネスを考えている感覚が強かったです。

―業界の成長を阻んでいる要因に人の問題があると。

地場の管理会社が抱えている課題にも、人の要因があるのではないでしょうか。

おそらく、地場の管理会社を創業した一代目の方は、まさに「BAIZO KANRI」で管理戸数を増やす、みたいなことを自然とやっていたはずです。オーナーのところに一軒一軒訪問して「管理を預からせてください」と営業を地道にやっていて、管理戸数が増えていったのだと思います。

そして、「建築もやらせてください」「工事もやらせてください」といった形で、オーナーとの関係も深くなり、きちんと繋がっていた。

しかし、代替わりが進むにつれて、業務がオペレーション化され、システマチックになり、一代目が増やした物件の管理業務を守ることがメインのお仕事になってしまう。新規の案件や管理戸数を増やすという発想よりも、今の顧客基盤を大事にするという管理会社が多いと感じました。

そういった会社に「BAIZO KANRI」を提案しても、全く理解されませんでしたね。

管理手数料の収入は微量です。しかし、管理を受託すれば、そこから工事やリフォームなどの副次的なメリットがたくさんあります。また、仲介会社が管理機能を持つことで、ストック収益となり、安定的な経営基盤を作ることも可能です。そういったビジネスの仕組みの重要性を理解してもらうことで、地場の不動産会社はもちろんのこと、これから不動産会社を創業しようと考えている会社へも、非常に多くのチャンスが与えられると思っていました。

そういったことも、「BAIZO KANRI」によって変えていきたいと考えていました。

コスモテクノロジー・青木千秋社長 撮影=リビンマガジンBiz取材班

―思いのある「BAIZO KANRI」ですが、今回リビン社に譲渡するに至りました。

これまで経験してきた企業の事業責任者と企業経営は全くの別物でした。

事業責任者はどこまでいってもサラリーマンです。売上や利益といった仕組みだけ見ていればよかった。実際、そういった感覚で企業を経営し、かなり苦労しましたね。特に、資金を出資してくれていた株主やステークホルダーとの関係構築は大変でした。資本構成を公開する訳にはいきませんし、クライアント全てにステークホルダーとの関係性をタイムラインで共有するのは難しいので、結果的に多くの誤解を与えてしまった相手もいました。

また、不動産業界の仕組みについても、サービスを進める中で深く理解していくようになりました。不動産事業者の多くは地場・中小の企業です。地場の不動産会社には地場のオーナーが顧客になっており、オーナーが儲からないと不動産会社も儲からない。そのオーナーも物件に住む人からの家賃収入が儲けになっていて…と全部繋がっています。

一部の大きな不動産会社が良いと思っているサービスであっても、メインである地場の不動産会社が月数万円のお金を払うのか。もう少し、思慮深くサービス設計を考えればよかったという後悔もありますね。

そういった挫折もあったなかで、リビン・テクノロジーズであれば、サービスをもっと拡大させてくれるだろうということで、譲渡を決めました。

―譲渡する決め手は何だったのでしょうか。

リビン社は全国の売買仲介会社と取引があり、「BAIZO KANRI」の機能を売買事業者に向けて転用すれば親和性が高いと感じました。また、リビン社の川合大無社長は、賃貸管理の領域に事業を拡大していきたいという考えもあったようです。

そして一番の決め手は、川合社長が「任せろ。俺たちが売るから。」と、とても強気の姿勢を見せてくれたことが、とても格好良かったことですね。

事業譲渡やM&Aでサービスの運営会社が変わると、サービスを解約する会社も多く出てくるかもしれません。そういったリスクをどうするのか聞いたとき、川合社長が「クライアントがゼロになったとしても、巻き返せる自信がある」と仰っていて、すごいなと思いました。そこまで自信を持って言われると、くらっときちゃいましたね(笑)

川合社長の中で、「これをこうやると売れるな」「この部分を改修すれば、あのクライアントに刺さる」みたいなことが直感的にあるのだと思います。

実は、他の企業からもオファーがあったのですがお断りしました。「BAIZO KANRI」をSaaSとして伸ばしてほしいという思いがあり、SssSとして販売していくとなると、きちんとしたエンジニアや営業担当者がいるような組織でなければなりません。

そういったこともありリビン社に決めました。

―2023年4月1日に「BAIZO KANRI」はコスモテクノロジーからリビン・テクノロジーズに移ります。4月以降の青木社長の進退について教えてください。

現在もですが、イタンジの創業者である伊藤嘉盛さんが創業したトグルホールディングス(東京都千代田区)に役員としてジョインしていて、そこで事業を大きくしていくために頑張っています。

トグル社は、テクノロジーを活用しつつ、投資物件の売買を行う不動産事業者です。たとえば、投資用の不動産に対して、その価格を証明し根拠付けるためのデータや周辺取引事例などをアルゴリズムやデータで簡単に抽出し、投資家が安心して物件を買える、といったサービスの提供を目指します。

まだまだ不動産業界で頑張っていきたいと思っています。

コスモテクノロジー・青木千秋社長 撮影=リビンマガジンBiz取材班

 
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