不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

今回は、アジアを中心にEVモビリティを販売し、日本国内にもEV充電インフラ事業を提供するテラモーターズ(東京都港区)の德重徹取締役会長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

テラモーターズ・德重徹取締役会長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

-テラモーターズが展開している事業について教えてください。

もともと当社はEVモビリティのメーカーです。EV2輪車やEV3輪車(トゥクトゥク)年間2万台以上を、アジアを中心に販売してきました。2010年の設立以来、インドやバングラデシュでも法人を立ち上げ事業を展開しています。

2022年4月には、日本国内に向けたEV充電インフラ事業として「Terra Charge(テラチャージ)」の提供を開始しました。

「Terra Charge」は、電気自動車に向けた充電インフラサービスです。充電機器を設置するだけでなく、アプリによる充電時間の設定や料金決済や導入にあたっての説明・工事、運用管理までを一貫して提供しています。

一般的に、戸建てはEV充電用のコンセントを設置すれば終わりです。新築戸建ての場合は標準で導入されているケースも多い。しかし、マンションやホテル、ゴルフ場といった不特定多数の人が出入りしている建物・施設では、誰がどのように使って、どのように決済するかといった管理・運用が必要になってきます。そこを独自に開発したハードとアプリで運用できるようにしています。

「Terra Charge」画像提供=テラモーターズ

-しかも、マンションや集合住宅に無償で提供されているというのは驚きです。なぜ無償で提供できるのでしょうか。

EV充電インフラを、無償提供しているのは当社だけですね。

一般的に、マンションなどにEV充電を設置するには、工事代に60万円、機器・ハードが20万円、工事事業者の利益として30万円、合計でおよそ110万円の費用が発生します。今はEV充電機器の設置に補助金が使えるのですが、先ほどの事例でいうと補助金額はおよそ70万円なので、40万円の持ち出しが発生してしまいます。

なぜそれを無償でできるのか。1つはハードを独自に開発することでコストを抑えていること。2つ目は電気工事に関して、全国にパートナー網があり、工事費の圧縮が可能であるということ。そして3つ目は、当面事業が赤字でもEV充電インフラの国内シェアが取れれば、企業価値が上がることを見込んでおり、赤字に耐えうる資本体力があることです。

アメリカやヨーロッパ、中国ではEVが普及しています。また、海外では既にEV充電インフラ事業で上場している企業もあります。しかし、どの企業も決算を見れば赤字です。ただ、PSR(株価売上高倍率。時価総額を年間売上高で割り出した数値)は、60倍以上になっている企業もあります。つまり、現在は赤字だけれども、将来性にかなりの期待が寄せられています。EVが普及していくことがわかっているからです。

その流れは日本も同様です。こういった背景からも、僕たちは赤字覚悟で充電インフラを整えていっているのです。

-日本は、世界と比べてEVの普及が遅れているといわれています。その原因の1つが充電のインフラが整っていないからです。しかしEVが購入されないとインフラも進まない。卵が先かニワトリが先か、のような話ですね。

車が増えないと充電設備も増えません。しかし充電設備がないとEV車は買われない。これと同じようなことが20年前にもありました。当時、日本は高速インターネットの普及が遅れていました。そういった中でソフトバンクが無料でモデム機器を配った。これと同じことをEVでもやろうと思いました。

すると、大きく当たりました。2022年にスタートして半年で1,500基の導入が決まり、事業が始まって10カ月ほど経った2023年1月現在、申し込みは3,000基近くになっています。

EV充電事業には競合も多く、僕たちが最後発だったのですが、最短でトップシェアになりました。

-賃貸マンションだけでなく、分譲マンションへの導入も進んでいます。分譲マンションの導入には管理組合の同意が必要です。そういった合意形成なども、テラモーターズが行っているのでしょうか。

分譲マンションの管理組合との折衝も当社で行っています。

現状として、マンション住人の全員がEVに乗っているわけではありません。少ないEV利用者のために費用をかけてEV充電機器を導入なんてことはあり得ません。

賃貸やリートであればオーナーが導入を決めて済みますが、分譲マンションはハードルが高い。そこがEV充電インフラ普及の課題だと感じたからこそ、無料で提供しています。

-テラモーターズ社は、これまで海外をメインに事業を展開されています。そういった中で、国内に対して「Terra Charge」をスタートした理由は何だったのでしょうか。

海外のEV事業は軌道に乗り、私が直接見なくてもお任せコースになりました。事業が大きくなる中で、日本での上場を考えたのですが、日本で上場するからには何か日本で事業をしないといけないと強く感じました。

では、どういった事業を始めればよいのか。

役員・経営陣に事業案を募り、様々な新規事業を検討しました。今から日本国内で電動バイク事業をやっても勝ち目がないだろう。幹部からの事業提案をずっと却下していました。

新規事業は「神の領域」です。神の領域ですからそもそもが上手くいかない。そして、事業は何をやるかが重要です。同じ売上・利益でも、何をやるかによって会社の価値は10億にも100億にも、1,000億にもなるんです。

新規事業の重要な指針としていたのは、成長産業で市場が大きくて競合のいない、独占できる分野でした。しかし、そんなものは中々ありません。

部下からの提案を却下するだけではよろしくないということで、私自身も考えに考えました。

あるとき日経新聞を読んでいて気付きました。2年前はEVのトピックが1カ月に1回程度の頻度だったのですが、1年前は1週間に1回、最近ではほとんど毎日どこかで取り上げられています。また、世界のEV市場を見てみても、この1年でどんどん変わってきている。これからは、日本でもEVが主流になる。そこにはマーケットがある。それが2021年のことです。

テラモーターズ・德重徹取締役会長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

-EV充電のインフラ整備には、不動産会社やデベロッパーの協力が不可欠ですね。EVに対しての理解は進んでいるのでしょうか。

我々の事業は時代に沿っていて、かつシンプルです。だから、理解してもらえることは多いですね。

これから、自動車は確実にEVになっていきます。

ドローン事業を展開しているグループ会社には、オランダとベルギーに子会社があり、頻繁に訪れています。するとこの5年で、不動産や街の風景がEV仕様に様変わりしています。日本の不動産業界も、数年後には、オランダやベルギーのようにEV環境を受け入れざるを得ない状況になっていると思います。

不動産業界の方たちは、EV対応はまだ早いと感じている人も多いです。しかし、EVの補助金活用には、すでに激烈な競争が始まっています。いかに早く対応していくかが差別化などにも繋がっていくと思います。

-将来的な展望について教えてください。 

僕たちが大事にしているのは、業界で圧倒的なトップになるということです。

EV充電事業をやるプレイヤーも時間経過とともに収斂(しゅうれん)されていくと思います。5社も6社も生き残れないでしょう。

日本政府は、2030年までに15万基のEV充電設置を目標として掲げています。そのうちの最低3割を取っていきたい。本心では5割のシェアを目標にしたいですね。

 
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