不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

 

今回は、iBuyerサービス「KAITRY(カイトリー)」を運営する、property technologies(プロパティ・テクノロジーズ:東京・渋谷)の濱中雄大社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

property technologies・濱中雄大社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

 

 

―property technologies社は2020年設立ですが、グループ会社のホームネット社の方が業界では有名かもしれません。そちらとの関係性について教えてください

 

property technologiesは、元はホームネットホールディングスという持ち株会社でした。

 

この下に主要会社として、主幹事業である中古物件の買取再販を行うホームネット(東京・渋谷)、山口県に注文戸建ての請負建築のファーストホーム(山口・防府)、秋田県で注文住宅を展開するサンコーホーム(秋田・横手)などがあります。

 

それらをまとめる会社として、新たにproperty technologiesを立ち上げました。

 

 

―今回メインに話を聞きたいのが「KAITRY」というiBuyerサービスです。といっても日本では、iBuyerの定義が定まっていません。property technologiesが掲げるiBuyerサービスとはどういったものなのでしょうか。

 

「KAITRY」は、2021年7月にリリースした、日本最大級のiBuyerサービスです。AIを活用して不動産の価格査定を行い、当社グループが売主から直接物件を買い取ります。

 

ホームネットでは、1年間で800件強の販売をして1,000件の仕入れを行っています(前期実績、「買取再販年間販売戸数ランキング2022」年間販売戸数872戸で全国第9位、リフォーム産業新聞調べ)。

 

買取再販事業は仕入れが全てです。前期我々が1,000件を仕入れるために、年間1万7,000件の物件情報を精査・査定しました。1物件ずつ、我々が買うつもりで事業計画を作って査定しています。

 

当社が買っていくらで販売するといった事業計画なので、本気の査定です。この査定データが蓄積され、財産になっています。マンションなら日本全国の主要都市における過去の事例が当社内にあります。

 

様々なAI査定サービスが展開されていますが、その数字の出所の多くはポータルサイトなどに掲載されている顧客の「売りたい金額」です。こういった販売予想値は世の中に溢れているのですが、実際に決まった金額は取引当事者でなければわかりません。

「KAITRY」 画像提供=property technologies

 

 

―その点、買取査定額は「その値段で買う」ということですから、シビアな価格ですね。

 

そこが味噌で、他社が真似しようとしても簡単には真似できません。我々が「KAITRY」で示すAI査定は、当社が買い取る金額を提案しています。

 

それを裏付けるのが、これまで蓄積してきた当社の査定データです。

 

日本全国に賃貸物件を除いて約10万6,000棟のマンションが建っていますが、ほぼ網羅できています。AIのビッグデータと、当社内部の取引・査定データをドッキングさせて、新たなAI査定を開発できたことが「KAITRY」の大きな強みです。

 

また、ホームネットは日本全国の主要都市にリアル店舗を持っており、営業担当がいます。つまり、あくまでも顧客との接点づくりにはテックを使っていますが、それ以降の最終的な部分はオフラインで、リアルな営業担当がそこにいるからこそ物件が買えるというわけです。

 

当社は完全なIT企業を目指しているのではなく、リアルな現場をおろそかにはしません。そういった部分で、他社と差別化を図りつつ、成長をさせるためのエンジンとしてテックを使っています。

 

 

―「KAITRY」をリリースして1年ほど経ちました。実際に買取は発生しているのですか。

 

月間で約150件の査定依頼が「KAITRY」経由で入り、そこから3~4件の買取が成立しています。

 

サービススタート時、まずは月4件の成約を目指していたのですが、比較的すぐに達成できました。

 

月4件成約すれば年間で約50件です。当社の1戸当たりの平均販売価格が2,500万円なので、50件仕入れることができれば、取引額で10億円超を見込むことができます。

 

年間10億円というと、我々が広島や仙台といった地方の主要都市に出店して2年目に出す数字です。これが、運営期間が1年ほどで見えてきている。これは大きなインパクトです。

 

リアル店舗では、当然人件費や店舗の維持費が発生します。そこと比較すると「KAITRY」経由で買う方が3%くらい安いため、利益率も高くすることできます。

 

 

―まさにBtoCの不動産売却のiBuyerサービスですね。

 

これはtoCに向けた部分ですが、すでにtoBへ展開するサービスをさらに発展させる構想があります。

 

当社がリアルの店舗を持っているのは、地元の仲介会社や老舗の仲介会社と繋がって、全国でネットワークを作ることが目的で、現在約2,000社と繋がっています。

 

この2,000社に対して、常に当社の営業担当がコンタクトを取りながら買取案件の情報をもらっています。しかし、このやり方は他の買取再販会社もやっていますよね。

 

そこで、新たにAI査定の技術などを活用した、仲介会社の営業支援サービスを2022年内にプレリリースする予定です。

 

仲介会社が、タブレットやスマートフォン上でマンション名と部屋番号を入力すれば、5秒以内でホームネットの買取金額が出ます。たとえば、そこで2,500万円と出れば、仲介会社の営業担当者は最低でも2,500万円でホームネットが買えるということがわかって媒介契約を取りに行くことができます。

 

顧客の中には、「買取は安い」「損をした」と思われる方もいらっしゃるので、一般的な仲介相場も出せるようにする予定です。さらに、当社のAI査定は物件の周辺環境なども網羅しているので、周辺の学校といった情報などが載った査定書や提案書を作ることも可能です。

 

 

―不動産会社の業務効率化と同時に買取案件のリード獲得にも繋げているのですね。「KAITRY」の開発に至った経緯について教えてください。

 

買取再販事業は、不動産を買い取って、リノベーションを施して再販売するスキームです。近年、買取再販事業に参入する会社が年々増えてきて、そういった会社との差別化をいかにして図るかを考えました。

 

今までは、他社があまり扱わないような仕上げをしていくことで差別化を図っていました。そのうちの1つが家具や家電、箸や茶碗といった生活小物までを付けて販売するというものです。

 

当社の商品は、30代を中心とした一次取得に向けた実需物件を取り扱っていることが特徴です。一次取得なので、高額な物件ではなく、2,000〜3,000万円台のものです。

 

低金利時代のため、毎月の家賃よりも支払いが安いケースもあり、35年フルでローンを活用できるというメリットもあります。

 

また、当社がターゲットとする若い顧客層にはキャッシュがありません。そうすると、新居に住むときも、使い古した家具を使う人がほとんどです。それならば部屋に合わせたインテリアも含めて提供していこう、どうせやるなら箸や茶碗も付けてしまおう、服だけ着ていればすぐに住める状態に仕上げてしまおう。多目的な住宅ローンの範囲で全てをまかなうことが可能で、それも販売価格に含めて提供していました。

 

しかし、こういった差別化には限度があり、いずれ他社にも模倣されてしまいます。

 

一次取得者に買っていただきたいというコンセプトがあるため、差別化に販売単価が上がっていくことは避けたかった。そこで、ハード面ではなくソフト面から家が売れる仕組みを作らなければならないということで「KAITRY」事業を始めました。

 

「KAITRY」のプラットフォームで顧客の要望にあわせて、全てをオンラインで完結させることを目的に進めています。

 

 

―不動産取引のやり方・方法を変えることが差別化に繋がると考えたのですね。

 

不動産取引が、オフラインに偏り過ぎだったと思います。

住み替えを検討したときに、顧客はどこの仲介会社に依頼すれば良いのかわからない。

 

住んでいる家がどれくらいで売れて、ローン残高がどれだけあって、住み替えをする際にはどれぐらいの家に住むことができるのかなど、なにもかもわかりません。

 

住み替えのためには、まず今の家がいくらで売れるかを知っておかなければなりません。

 

一般の人は、不動産仲介会社に媒介委任を相談する。また、住みながらの住み替えは赤の他人が内見で訪れるケースも多く、ストレスを感じる。結果的に、水回りだけは綺麗にリノベーションして欲しいといった要望が入る。結局、1年がかりでようやく売れる、というケースが非常に多いです。

 

もっと気軽に住み替えができる世界であって欲しいし、そうした変化を起こすために当社が何ができるかと考えたことが、プラットフォーム「KAITRY」を作ったきっかけです。

property technologies・濱中雄大社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

 

 

―AI査定や物件査定のサービスは、不動産テックの分野でもかなりのプレイヤーがいます。納得感のある価格を提示できるかなど、課題は多いと感じています。

 

我々は、リアルの不動産の数字を先に知っていて、AI査定の仕組みを作っています。

 

一番注意しているのは、AIが出す価格が我々の査定する価格とイコールなのかということです。この査定誤差率を見ています。今期はおよそ2万2,000件を見込む情報量が集まっており、それもAIに機械学習させています。

 

リアルの不動産業をやっているからこそ価格の根拠が自社にあり、AIにはリアルの仕入れと差が出ないように学習させる、それが重要だと思っています。

 

 

―年間で2万2,000件ですか。常に大量の情報が集まり、価格の精度を上げているのですね。

 

「KAITRY」の仕組みが、社内DXにも繋がりました。

 

現在、当社には90名の営業担当がいますが、その半数は入社3年未満の社員です。また、その多くが新卒採用ですから、まだまだ素人です。

 

中途採用も行っていますが、ほとんどが不動産業界出身者ではありません。そういった真っ白な人たちが働いていると、これまで1件の査定依頼を貰ったら、仲介会社に価格を返すのに5時間ほどかかっていました。

 

当日に価格を出さない買取会社も多いので、これでも早い対応の部類ですが、その5時間の間は新規営業などができない。

 

しかし、「KAITRY」のAI査定を使えば5秒で価格が出ます。たとえば2,500万円と価格が出れば、それが正しいかを検証するだけで済みます。そして、30分以内に価格を返すことができる。

 

ある支店で、入社2年目の女性社員が年間で18件買い取ることができました。私も驚いて本人に理由を聞いてみたところ、AI査定を活用することで自信を持って価格を伝えることができる。時間がかからなくなったというのが凄く大きいということでした。

 

当社の競合となる各社が、二日も三日もかかっている査定額を30分で返してみたら、当然仲介会社をグリップすることができますよね。営業活動ができる時間が圧倒的に増え、思ってもみない成果になりました。

 

 

―「KAITRY」事業を始めとしたサービスについて、今後の展望を教えてください。

 

当社は常に約800件の在庫を持っています。この販売適性をテクノロジーで判断するために、東京大学や一橋大学と共同開発を進めています。

 

たとえば、我々は一時取得のつもりで購入した商品だったのですが、エリアや駅を調べてみると賃貸需要が高く、一定以上の賃料が取れ、高い利回りを取ることができるといったことがわかると、売らずに保有するケースがあります。

こういったイレギュラーなことは、これまではすべて営業担当の勘で判断していました。

 

AIによって、売るのか、それとも持つのか、投資用として売れるのかといった販売適性を査定する仕組みを作りたいと思っています。

 

それができると、入口戦略と出口戦略ができるので、iBuyerとしてもさらに強くなれるでしょう。

 

今では、スマホで車までもが売買ができるようになっています。次に進むとしたら、家しかありません。

 

しかし、家はきちんと現物を見て、専門家が背中を押してあげないと決断できない。そこは変わらないとしたら、集客や中間の部分を変えていかないと、いつまで経っても家は高い買い物のままです。

 

「KAITRY」のプラットフォームで、今持っているものを気軽に売ることできるようになれば次の新しい家・生活を始めるきっかけになることができます。

 

月4~5件を早期に成立させられているので、現状にとどまらず来期・再来期には月100件・200件とプラットフォームで買い取ることができる未来が近い将来に来ると思っているので、それができれば大成功ですね。

 
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