高いUXと技術力でスマートホームから在宅医療サービスを目指す

不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

今回は、IoT・スマートホームのプラットフォームを運営する、リンクジャパン(東京・港)の河千泰進一社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

リンクジャパン・河千泰進一社長(撮影=リビンマガジンBiz取材班)

―リンクジャパンが提供しているサービスについて教えてください。

当社が提供している「HomeLink(ホームリンク)」は、スマートホームのプラットフォームアプリです。アプリひとつで、誰でも手軽に様々な家電やIoT機器を操作することが可能で、好きなシーンの設定や、遠隔での家電操作などができます。

「HomeLink」に対応する製品を自社で開発する一方で、当社だけでは完璧なスマートホーム環境を提供することはできません。そこで、他社メーカーと連携し、他社メーカーの機器とも繋がるようになっています。

また、こういったスマートホーム環境や機器を活用して、将来的には在宅ヘルスケアや在宅介護の領域での活用を目指しています。

現在も、一部の介護施設に当社のIoT見守りサービスが導入されていますが、住まいに対して医療サービスなどを提供したいと考えています。

「HomeLink」画像提供=リンクジャパン

―自社でハード製品を開発しているのですね。

自社で設計して、生産だけ外注しています。自社開発の製品は、2022年4月時点で16種類あります。

自社サービスも含めて、現在登録できるデバイスは約60種類です。住宅内の設備に関してはほぼ全てリンクできるようになっています。

―「HomeLink」は、どのような物件への導入が多いのでしょうか。

新築物件が多いですね。

当社は、2014年にスマートホームに特化した会社として設立しました。当初は自社のスマートリモコンをAmazonなどのECサイトで販売することが中心でした。

つまりBtoCです。しかし、ほとんどのユーザーが「スマートホームは、面白そうだけれど、使いこなせない」「導入方法が分からない」といった反応でした。

IoTやスマートホームをどのように普及させれば良いかを考えたとき、より多くの機器メーカーを巻き込み、ワンアプリ・ワンソリューションにした後、住宅メーカーと一緒にビルドインにした方が良いと考え、新築物件への導入を進めました。

―現在、持ち家と賃貸物件では導入の割合はどれぐらいですか。

持ち家が6割ぐらいですね。

2022年は、さらに賃貸住宅向けの機能を強化していきます。例えば、賃貸入居者とのコミュニケーション機能です。一部で入居者アプリといったサービスもリリースされていますが、入居者はなかなか使わない。あるいはインストールしたけれど、広告ばかり表示されて、通知をオフにしてしまう。

スマートホームを操作するためのアプリであれば高い頻度で利用されるため、コミュニケーション機能などとも相性がよいでしょう。

また、仲介会社による物件紹介時・内見時の鍵の受け渡しなどにおいても、スマートロックなどを活用できるようにする予定です。一時的なデジタルキーを仲介会社に付与する機能やICカードにキーロック機能を付与できるものを構想しています。

今までも、スマートロックとアプリを使った内見サービスがありましたが、当社のサービスはアプリのインストールが不要で、ウェブブラウザで解錠できるようにしたいと思っています。また、内見の1時間前には自動でエアコンが起動し、快適な空間を作っておく、といったこともできるかもしれません。

こういった機能の開発は、現時点で8割は終わっています。

リンクジャパン・河千泰進一社長(撮影=リビンマガジンBiz取材班)

―IoTやスマートホームというサービスについて、ハウスメーカーや不動産会社の反応に変化はありますか。

2年ほど前までは、様子見といった雰囲気が多かったです。

コロナが影響したのかは分かりませんが、急に「とりあえず導入してみます」「ショールームに導入したいです」といった反応が増えました。

最近では、導入する物件の紹介もそこそこに、「見積もりください」と言ってもらえるケースも多いですね。

大手ハウスメーカーや大手不動産会社の導入数が多いです。成功事例が口コミになって、反響に繋がっているのかもしれませんね。

また、様々なメーカーとの連携や機能追加などが2021年の秋頃から完了し、どんどん導入数が増えています。なかには2年以上かかった連携もあります。

―連携に2年はかなり時間がかかっていますね。なぜ、それほどまでに長期間になるのでしょうか。

よくあるようなAPIを使った連携であれば、1週間程度で可能です。しかし当社では、チップを基盤に組み込んで、スマート化していない機器や設備をスマート化するような連携方法もあります。

そのため、時間がかかるのですが、ユーザー体験は格段に向上します。

―オンライン化していない他社機器を、リンクジャパンによってスマート化しているのですね。

それができるので、様々なメーカーと連携することができます。

―ゆくゆくは在宅医療の分野に行くとおっしゃられていましたね。その理由はなんでしょうか。

今後ニーズが高まっていくことは間違いありません。

特にコロナを経験したことによって、在宅医療へのニーズは加速していくでしょう。

2022年2月には、時間外救急プラットフォームを提供するファストドクター(東京・新宿)と提携を開始しましたが、同社も急激に事業が拡大しています。

私もかつて医療業界に携わったことがあります。驚いたのは、通院しなくても実はオンライン診察で十分な人がたくさんいることです。

特に、定期的な診察と薬の処方が必要な高齢の方は、オンラインで問診し、処方箋を出すだけで済みます。地方などで問題になっている高齢者の通院問題なども、オンラインの在宅医療・ヘルスケアサービスによって解決すると考えています。

2021年には、スマートナースコール「eBell(イーベル)」を開発し提供開始しました。スイッチを押せば、すぐにビデオで相互通話ができるものです。

「eBell」画像提供=リンクジャパン

既に病院でも導入されていますが、この仕組みを病院と高齢者宅の間でも構築することが可能です。24時間対応できるパートナー企業とも連携しているため、通報してすぐに在宅医療サービスを提供することもできます。

―普通のIoTやスマートホームの枠を越えて、住生活にまつわるサービスを横断的に提供していますね。

当社は、自分たちの事業を「Home OS事業」と呼んでいます。それは、住宅をスマートフォンのようにアップデートしていきたいと考えているからです。

若い方には、まずスマートホームやIoT機器の便利さを感じてもらいます。その利用者が歳を取ってシニアになると、そのサービスがアップデートして介護サービスを受けられるようになる。

リンクジャパンの製品を住まいに入れることで、そのとき必要な機能をどんどんアップデートしていくことができます。

iPhoneなどのスマートフォンが登場したことで、電話がアップデートできるようになりました。最近では、テスラ社が車の自動運転といったアップデートにチャレンジしています。

こういった中で、住宅も同様にアップデートしていけばいいのではないかと考えています。

―競合するIoTサービスとの差別化ポイントは何でしょうか。

ずばり、UX(user experience:ユーザー体験)と技術力です。

UXというのは、単なるユーザー体験だけでなくトータルでのユーザー体験です。設置のしやすさや設定の簡単さ、手厚いアフターフォローや満足度など、これら全てがUXだと考えています。

リンクジャパンに関係する全てのプレイヤーが「リンクジャパンの製品であれば使ってもいい」「仕事を受けてもいい」と思えるかどうか。最終的にはユーザーが安心して使うことができるのか。導入したデベロッパーが次も導入したいと思ってもらえるかどうかを意識しています。

技術力という点では、当社が業界で唯一ハードもソフトも両方を開発しているという点が大きいです。

ハードだけを提供しているメーカーは、他社メーカーと協力して便利なサービスを作っていくことができません。一方で、ソフトを提供している会社は、ハードの仕組みや構造を理解して便利にしていく技術力に欠けます。

ハードとソフトの両面の良さを活かしたサービスを提供することが、最高のUXに繋がります。だから売れる。

―先ほど医療業界を経験されたとお話しいただきましたが、河千泰社長は中国で生まれて、通訳や飲食店の経営、ツーリズム事業など様々な業界業種を経験されています。スマートホーム業界で事業を立ち上げた理由は何だったのでしょうか。

もともと、学生時代からプログラミングなどに興味があり、独自に勉強していました。

そういった中で、IT業界にはずっと興味があり、リンクジャパンを設立するまでにも、WEBサービスなどのソフトウェアビジネスを経験してきました。しかし、ソフトウエアだけでは興味が継続して湧きませんでした。

そういったとき、ちょうどリンクジャパンを立ち上げる直前、シリコンバレーでIoTが注目され始めました。

IoTについて調べてみると、ハードもソフトも通信もネットワークもクラウドなど、全ての技術が必要な分野であることを知り、やりがいのある分野だと強く感じたことがこの業界に特化した会社を立ち上げたきっかけでした。

―技術者・エンジニアの目線でやりがいのある業界だと思ったのですね。

その熱意がなければ、ここまでやれません(笑)。ただの仕事としてやっていたら、今まで100回以上やめていたかもしれません。

しかし、IoTならライフワークにできる。死ぬまでやり続ける仕事だと自信があります。

リンクジャパン・河千泰進一社長(撮影=リビンマガジンBiz取材班)

―シリコンバレーのあるアメリカは、スマートホームやIoTの先進国と言われており、実際に何千万世帯も導入が進んでいます。一方で、日本では導入がなかなか進まない。その理由はなんでしょうか。

理由は明確で、日本はアメリカのように家が広くないことが大きいですね。

アメリカの住宅の広いリビングなら、1部屋でフロアランプは最低でも4つ必要です。ひとつずつ点けに行くのは面倒だし、部屋数も多い。つまり面倒くさいからなんとかしたいというニーズは高いです。

日本の住宅のように、シーリングライト1つで明るくなるような部屋ではありません。

また、日本人はスマートスピーカーに話しかけるのが恥ずかしい、と感じる国民性もあるのではないでしょうか。

SNSのメッセージのやりとりでも、海外は音声メッセージを送ってコミュニケーションをとる頻度が高いのですが、日本では中々活用されていませんよね。そういった国民性の違いもありますね。

―そういった中で、どのように日本でサービスを広げて行くのでしょうか。

これまでの経験上、いきなり「お金を払って使ってください」と売り込んでもなかなか利用されることはないでしょう。

しかし、住宅メーカーなどと連携し、新築のビルドインで最初から備わっていると喜んで使ってもらえるケースが非常に多かった。それは習慣になり、使い続けてくれます。

だからこそUXは大切です。10回中2回でも反応しなければもう使われませんから。

―UXが重要になるのですね。

スマートホームは人々の生活にはプラスアルファのサービスです。必須ではありません。

一方で、スマートホームの周辺分野の不動産DXや医療・介護には明確な課題があります。当社はスマートホームを切り口に、こういった世の中の課題解決にフォーカスしていきます。

例えば、介護の人手や施設不足問題です。一方で入居する側も、健康なうちは施設に入りたくないと考えている。

つまり、なるべく自宅で安全・安心に暮らすことが望まれている。自宅でも安心して暮らせる環境を提供できればいいでしょう。

そういった部分がスマートホームによって解決できるのです。

―リンクジャパンが目指している目標や展望はありますか。

当社は、導入台数などには具体的な目標はありません。

業界トップのシェアを維持しつつ、その過程で利用者は当然ですが、様々なパートナー企業に対しても本当の使いやすさを追求し続け、一緒にやりたいと思うようなプラットフォームの開発にもっと注力していきたいですね。

そして、住宅が全てのモノにリンクする、本当の意味で洗練されたUXで快適な住空間を作り上げていきたいと思っています。

 
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