不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。
今回は、管理会社向けの物件掲載プラットフォームを運営する、エアドア(東京・港)の鬼頭史到社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)
エアドア・鬼頭史到社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部
―エアドアが提供しているサービスについて教えてください。
2022年2月にリリースした「airdoor(エアドア)」は、管理会社が物件を掲載するオンラインの賃貸プラットフォームです。
部屋探しをするユーザーは、これまで電話やFAXなどのオフラインでのやり取りが中心だった内見手配や物件申込み、重説などをオンラインで利用することができます。また、管理会社が物件を掲載するため、おとり物件や同じ物件が重複して掲載されることもありません。
内見業務やIT重説、契約業務などの対応は、「airdoor」のパートナーとなっている仲介会社が行います。ユーザーからすれば、ほとんどの手続きをオンラインででき、管理会社からすれば、新しい客付けの間口がひとつ増えたと考えてもらえればと思っています。
管理会社は、管理物件を満室にしたいので、常に新しい空室対策のチャネルを欲しいと思っています。しかし、既存のポータルサイトは掲載費用が高く、反響があってもユーザー対応業務に割くリソースはない。
また、賃貸仲介ビジネス事態が仲介手数料の値下げ圧力や集客コストのアップで苦しい状況にあります。仲介会社に入居者を斡旋してもらうためには、これまで以上にAD料で差別化しなければならなくなるといった危機感も持っています。
客付けの課題や高騰するAD料に悩んでいる管理会社にとって、「airdoor」はひとつの選択肢になると思います。
「airdoor」は無料で掲載が可能で、成約につき料金を頂戴するスキームになっているため、オーナーからの「なぜ自身の物件が載せられていないのか」といった不満をなくすこともできます。
「airdoor」 画像提供=エアドア
―管理会社に特化した賃貸ポータルサイトなのですね。
これまでのポータルサイトでは、利益がでないため掲載が避けられてきたAD料が1カ月未満の物件が掲載されていることも「airdoor」の特徴です。
AD料が0~1カ月未満に設定されている物件は、コストをかけなくても集客可能な物件とも言えます。つまり、ユーザーにとってより良い物件である可能性が高いですから。
―不動産ポータルサイトは、かなりのレッドオーシャンです。
分かりやすく差別化するために、ユーザーからの手数料を0~2万円としました。
あくまで現段階での話ですが、「airdoor」は全てのユーザーに対してサービスを届けたいと思っていません。特に始めて部屋探しをする方はターゲットにしていません。まずは、2回目以降のお部屋探しをしていて、インターネットに慣れている人をターゲットにしています。
そういった方は、今のオフライン中心の部屋探しをとても不便に感じられています。部屋探しの際に感じた負の部分に「airdoor」が響いて欲しいと思っています。まずはニッチな部分でサービスが通用するかを図り、実証できればさらにマーケティングコストをかけて、大きく集客していきたいと思っています。
「airdoor」での契約によるユーザーの負担は、0円か2.2万円のどちらかになっている
画像提供=エアドア
―物件掲載においては、各社が導入している物件管理システムやコンバーターなどとの連携も進んでいるとうかがいました。
「airdoor」のコンセプトを説明して、実際に「掲載する」と言ってくれる管理会社はとても多かったです。しかし、掲載するための手間がハードルになっていました。
管理会社は、大体どこかの物件管理システムを使っています。そこで、まずはシステム会社と連携することに注力し、物件掲載において手間や工数がかからないようにしています。
―リリース時点で管理会社30社が参画し、合計の管理戸数が90万部屋もあるそうですね。
システム会社と連携することで、掲載が楽になるとともに、おとり物件がなくなるといったユーザーへの利便性向上にも繋がっています。
まだ掲載物件数は少ないですが、こういったデータのクリーン性が、これまでユーザーに対してなかった部分だと思っています。
TwitterやSNSなどでも、「airdoor」に対して好感触な意見やコメントが多いですね。あとは、掲載された物件が自身にフィットすれば、取引が生まれていくと感じています。そのためには物件数をもっと増やさなければなりませんね。
―「airdoor」の競合となるようなサービスはあるのでしょうか。
厳密にはありません。ただ、セルフで内見ができるサービスなどでは、一部では被っているところもあるかもしれません。
当社としては、他のテック企業やシステム会社がやっている領域にはサービスを広げず、そういった企業と協力関係を作っていきたいと考えています。
たとえば、我々が内見予約のシステムを作ってしまうと、同様のサービスを提供しているキーロックの会社とは連携できなくなってしまいます。我々はあくまでもポータルサイトで、様々なサービスとのハブになるスタンスを取っていきたいです。
将来的には、賃貸業界の大手ポータルサイトと「airdoor」がきちんと比較してもらえるような存在になりたいと思っています。そのために、システム会社とは協力関係で、我々も提供できることを増やしていきたいし、逆にシステム会社からも応援して欲しいと思っています。
―鬼頭社長は、いい生活(東京・港)、その後、OYOの日本法人に参画、そして今回「airdoor」を始めます。経緯について教えてください。
いい生活(東京・港)に入社したのは2010年で、9年間勤めました。いい生活在職中の2017年には新規事業の立ち上げをやっていました。その時に、IT重説が解禁されることになり、「これだ」と思ったことが始まりです。
それから、全国を回りながら賃貸仲介や管理会社に向けてIT重説をテーマとしたセミナーをやりまくったのですが、中々浸透していきませんでした。変化したいと感じている会社も多いのですが、それよりも重要なことがあった。不動産会社が一番費用を投下し、注目していたのが、入り口となるユーザーの集客であり、それがポータルサイトでした。
つまり、ポータルサイトのように、集客から賃貸取引の仕組みを作ることができれば、そこからの流れに則ってIT重説などのDXも浸透すると考えました。
今の不動産ポータルサイトは、仲介会社の利用がメインになっています。そっちの方が売上も上がります。しかしそうではなく、もっとその構造自体を見直して変えることができるのではないかと思ったのが「airdoor」のコンセプトです。
エアドア・鬼頭史到社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部
―成功する不動産テック企業と失敗する不動産テック企業を分けている部分とは何だと思いますか。
不動産業界におけるDXやテック化においては、「収益アップ」と「業務効率化」という2つの軸があると思っています。
業務効率のDX化においては、ユーザーである不動産会社の意見をきちんと聞いて使いやすい仕組みを作る。そして、試行錯誤しながら、まず事例を作ることが重要だと感じています。
いい生活で、セミナーをやっていたとき、どの不動産会社も他社の成功事例を求めていました。不動産会社はどのサービスの使い勝手が良いかの判断軸の一つとして、繋がりのある他社の情報で新しいサービスの導入を判断していることが多いと思います。周りの意見や口コミがサービスを広げていく上で非常に重要だと感じました。きちんと事例を作り、その事例を発信することが、成功に繋がっていくのだと思っています。
また、現在の商慣習の破壊や既存ビジネスを全否定するようなスタンスも成功しないと思っています。
今の不動産業界の商習慣は、誰かが悪意をもって作り上げたということはありません。長い年月の中で積み上げてきたものです。確かに複雑に入り組んだ構造ができあがっていて、もっと効率化したり、透明にしたりしなければいけない部分はある。ただ、これも仕方がないことだと思います。
そういった業界を改善していくためには、様々なプレイヤーたちと協力関係を作らなければなりません。当然破壊的なスタンスではできませんよね。
―不動産テックの会社にも、企業ごとにスタンスがありますね。勝者総取りのスタンスや横の会社との協力関係を強めていく会社など様々です。
不動産テック1社で頑張っても限界があるということです。良いサービスを提供している会社とは繋がっていくことが大切です。
自分たちがメインの領域でサービスを作り上げることができれば、他の部分は別の会社がやっているサービスをうまく活用することが重要と感じています。
「airdoor」であれば、メディアと賃貸のプラットフォームをきちんと構築できれば、たとえば既存のオンライン申し込みの仕組みなどと、いかにスムーズに連携できるかを我々が作れば良いと感じています。
―将来の展望や中長期の目標はありますか。
本屋からスタートしたAmazonのECマーケットプレイスが、今では既存店舗の売上の大部分を占めるといったことが起きています。「airdoor」も同じように、これまでオフライン中心だった契約が、「airdoor」を通じて半分がオンラインで契約するといった未来を5年後、遠くない未来に実現したいと思っています。
当社は大手ポータルサイトや大手不動産テック出身のエンジニア、不動産システム会社出身の営業など、不動産テックに精通したメンバーが集まっていることも強みになっています。エアドアに入社したら、不動産テック企業の経験が輝く、不動産業界に課題を感じている人が活躍する組織にしていきたいと思っています。
業界の破壊者ではなく、不動産業界の人たちを知っているからこそ、もっとできることはないのか、それを追求していけるメンバーを今後も増やしていきたいですね。