不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

今回は、建設・建築現場における現場情報共有アプリ「GENCHO(ゲンチョー)」を提供するRTプロジェクト(名古屋市)の城山朝春社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

RTプロジェクト・城山朝春社長(取材は2021年9月に映像通話で行った)

―提供しているサービス「GENCHO(ゲンチョ―)」について教えてください。

「GENCHO」は、建設現場の現場情報共有アプリです。2020年10月にβ版をリリースし、2021年内には正式版をリリースする予定です。

「GENCHO」には、現場で撮影した写真の上に指示内容を文章や画像で貼れる機能、案件ごとに情報を共有できる機能などが備わっており、これらすべてをアプリ内で完結できるようになっています。

建設業界では、事務作業に時間がかかることや、コミュニケーションエラーが発生してしまうなど、非効率な部分が多いです。たとえば、現場調査後に事務所に戻って、デジカメやスマホで撮影した写真をPCに取り込み、現場で記録したメモを打ち込んで資料として仕上げ、メールに添付して関係者に送信する。こうした一連の業務に遅くまで追われてしまう従事者はたくさんいます。

現場の情報も、LINEやメール、電話などバラバラの手段でやり取りしていて、あとから情報を探すのに手間取ったりすることがよくあります。コミュニケーションでは、現場管理側から「伝えたい」ことと、現場の監督が「知りたい」ことに食い違いが起こりがちです。

「GENCHO」では、こうした情報伝達に関わる時間や労力、コストを半分にしていこうと謳っています。業務効率化することで、クリエイティブでより重要な仕事に時間を割けるようにして価値を上げていくこと。そして受注の回転率を上げて、収益性向上につなげていくのを目指しているサービスです。

「GENCHO」 画像提供=RTプロジェクトRTプロジェクト

―サービスのマネタイズポイントについて教えてください。

β版の現在は、基本機能は無料で提供しています。一部アプリ上で広告の表示が出たり、登録案件数は最大10件までだったりという制限はあります。それらを解除するのに月額380円の有料課金を導入しています。

また、依頼のあった会社さんに合わせたカスタマイズを行い、別途費用をいただいています。その会社仕様の報告書を作ったり、パソコン上でも使えるようにしたりなど、ご希望に対応しています。2021年12月頃には、バージョンアップした有料の正式版をリリースする予定です。

―現在、どのくらいの導入数があるのでしょうか。

ダウンロード数は1,700以上あります。今まで、まったくプロモーションはしておらず、基本的にはインバウンドだけでダウンロードが増えている状況です。現場のプレイヤーごとにダウンロードしてもらう形ですが、社内で複数使う場合は、法人契約を結ぶケースもあります。

―「GENCHO」のターゲットとなるのはどのような企業なのでしょうか。

ターゲットは、中小規模の工務店やリフォーム会社などを想定してスタートしました。加えて、今は大手企業の部署内のデジタル化を支援しようと動いています。

―シンプルな機能だからこそ、汎用性が高そうですね。工務店やリフォーム以外で使われるケースもあるのではないでしょうか。

そういったケースは少ないですが、建築とは全く別の業界で使われていることもありますね。行政書士やコインパーキングなどにも利用いただいています。コインパーキングであれば、精算機や施錠の管理であるとか。あと、看板も結構ありましたね。

―メインのターゲットであるリフォーム業界は、クレーム産業とも言われています。そういった業界内でのクレームを避けるためにも、アプリで施工状況を施主やエンドユーザーと共有することもできるのでしょうか。

現在、ある会社とそのような使い方ができないかと話をさせていただいています。施主が直接「GENCHO」を使えないかと。直接使わないまでも、施主さんの要望や意見をしっかり吸い取るためには、直接情報を見ていただく必要があるなと。そこは今何とかしようと準備を進めているところですね。

―他にも「こんな使い方ができたら」という構想はありますか。

たとえば、賃貸でいうと、私も不動産管理の仕事をしていたことがあるので分かるのですが、退去後の原状回復の工程が煩雑で手間がかかるんですよね。退去後に誰かが行って現調して、発注するまでのタイムロスも、入居者に写真を撮ってもらい、それで見積もり、発注ができれば、そのタイムロスは減らせるんじゃないかと思っています。

管理会社が入居者に対して、入居時にこのアプリの導入を案内してもらって、故障時や退去時に入居者から直接発注できればいいのではないかという構想はありますね。

―城山社長の経歴や、RTプロジェクトを立ち上げた経緯について教えてください。

私は、もともと富士フイルムで内視鏡エンジニアとして働いていました。その後、結婚を機に退職して妻の実家の会社に入りました。アミューズメント施設の運営や不動産賃貸業などをやっている会社です。そこの経営幹部として事業や組織の運営を学びました。

その後、独立していろいろな会社を立ち上げました。不動産賃貸・管理業、フィットネススタジオ、コンサルティングの各会社を経営しつつ、オランダのベンチャー企業に投資してメンバーとしてジョインするなど、失敗も多々ありつつ、さまざまな経験を積み重ねて、2019年に創業したのがRTプロジェクトです。

建設領域を事業にしたのは、アミューズメント時代に不動産開発をやって建設と馴染みができたのと、個人で物件を持って管理する中で、すごく非効率的だな、面倒だなと思う部分が原体験としてありました。あとは、基本的に建築とか建物が好きなのもあり、この業界で何かやれたらというのがあったんです。

―今のサービスに反映されている課題感や原体験には、どいったものがありますか。

私が経験した建設業界の体験でいうと、やはり「言ったはずなのに、できていない」というのが多いですね。完成後に「ダメ直し」といってやり直すことが結構あって。元をたどると、いろいろな関係者が関わっている中でコミュニケーションロスが起こっているんですよね。

また、リフォームに関しては当社のメンバーが苦労してきた部分がサービスに大きく影響しています。小規模な下請け仕事で、1件当たりのリフォーム単価は最終的に残る利益がかなり低い。そんな中で高いシステムを入れるのは無理ですから、最初はまず導入ハードルを下げるために無料で提供して、「もっとこうしたい」という要望が出てきた段階で有料に切り替えさせていただく流れにしています。とにかくまずは使ってもらって効率化を実感してもらうところからですね。

―建設系の施工管理アプリは他社サービスもいくつかありますが、差別化になっているポイントはありますか。

「不要な機能がついていなくてシンプルなのがいい」と利用者さんから評価いただいていますね。必要最低限で使いやすいところは突き詰めていきたいと思っています。

あとは、1~2日とか短期間で終わる工程管理が不要な現場に特化しているところですね。大事なのは、ビフォーアフターが分かることだったり、画像を軸にしたコミュニケーションになるので、あまり細かく管理する機能を付けないようにしています。

業界内の既存サービスは、使える人は使い込める仕組みになっていると思っていて。初心者やデジタルに苦手意識がある人がなかなか使いこなせないようなインターフェイスでもあるので、なるべく複雑にせず、パッと見て誰でも使えることには、こだわっていきたいです。

―サービスを通して、工務店やリフォームの業界を改善していこうと意識していることはありますか。

こうしたシステムは、元受け下請け構造の中で、縦割りで使われていても、あまり横で展開されない、広がらないといった課題があると思いますが、そこを私たちは変えようと思っています。

どこの現場でも「GENCHO」が使われている状態、つまり工務店も現場に入る下請けもみんな導入していて、情報共有はすべて「GENCHO」でやりましょうとなっている。そうすることで、元受け側もわざわざ「このシステム使って」「メールアドレスを教えて」というような手間がいらなくなる。共通言語みたいな形で使えるようなものを早く作って届けたいですね。業界全体の業務効率アップや手戻りなどのロスを減らすことにつなげていければと思います。

―最後に、今後の展望や目標を教えてください。

今年、資金調達をしたのもあり、正式版リリースに向けて開発スピードを上げたり、セールスサイドを強化したりしていこうと思っています。リリース時はしっかりプロモーションをかけて、さらに拡大していくつもりです。アプリの導入拡大と、個社ごとのニーズに対応する2軸で動いていく感じですね。

アプリの機能としては、小規模事業者がもっと楽になるような仕組みを包括していきたいです。たとえば、人材を手配できる機能や支払い関係などです。

ベンチマークとして参考にしているのが、アメリカのServie Titan(サービスタイタン)というコンストラクション・テック企業です。今、非常に伸びていて評価額が1兆円近くあります。住宅の補修工事向けのツールを提供していて、私たちがターゲットにしている層と近いので、日本版Service Titanを目指してやっていきたいと思っています。

 
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