不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

今回は、不動産業界に特化した営業支援ツール「Digima(デジマ)を提供する、コンベックス(東京・渋谷)・美里泰正社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

コンベックス・美里泰正社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―提供しているサービス「Digima(デジマ)」について教えてください。

不動産・住宅業界に特化したセールステックのSaaSツールです。

「Digima」には、3つの特徴があります。

1つ目は「1to1」で、双方向でやり取りができる点。顧客と営業担当者の行動を全てトラックしていて、両者が関係構築できるような仕組みを取り入れています。

2つ目が「マルチチャネル」です。メールやSMS、電話、ウェブと連動し、トラッキングすることが可能です。

3つ目が「オートメーション」で、多種多様なセールス業務の一部を自動化しています。

具体的な機能としては、登録した条件を満たす顧客へのフォローメールやSMSの自動送信や設定した条件に応じて顧客を自動的にグルーピングしてのリスト化、見込み客へのトラッキングメール送信、ウェブサイト訪問者の追跡機能など、不動産・住宅営業における顧客との接点創出と信頼関係構築を目的としたツールとなっています。 

「Digima」 画像提供=コンベックス

―導入数はどのくらいですか。また、導入企業は、どのような内訳でしょうか?

導入企業は、現在約400社です。内訳としては、不動産会社が1番多くて約4割、次に工務店が3割、投資系の不動産会社が1割、あとはそれ以外の業種です。

―「Digima」は最初から不動産業界に特化したサービスだったのでしょうか。

2015年にリリースしたのですが、当初は業界に特化はしていませんでした。人材派遣や広告業界、産廃業者など法人営業の事業者から幅広くご契約いただいていたんです。

ただ、利用企業をサクセスさせる部分に難しさを感じていて。セールス・マーケティングというのは、HRや会計と違って業界・業種によって型が異なるので、多種多様な業種が汎用的に満足できるようなプロダクト運営は難易度が高いと実感していました。

そこで、2019年9月、不動産・住宅に特化したバーティカルSaaSとして方向転換しました。もともと私が不動産業界出身というのもありますが、不動産や工務店のクライアントが一番伸びていたんですね。「Digima」の機能がこの業界にフィットしていたんだと思います。カスタマーサクセスの視点でも、私たちが得意とする不動産領域でサポートしていく方がユーザーの成果につながりやすいだろうと判断しました。

―2019年にサービスを、バーティカルにリニューアルしてからすぐにコロナ禍になりました。どのような影響がありましたか。

リニューアルして半年後くらいにコロナが発生しました。

正直どうなるか不安だったのですが、2020年の秋頃から事業が伸び、結果的に180%成長と完全に追い風になりました。不動産向けに絞り込んだタイミングが良かったですね。そして特化した結果、ユーザー満足度が上がり、今は新規の52%がユーザーやパートナーからのご紹介で契約いただけるようになりました。

今年の10月には「Digima」を「Ryoen(リョウエン)」というサービス名に変更して、リブランディングしていきます。「Digima」を不動産向けにリニューアルするときに「世界中に“良縁”を」という新しいミッションを掲げました。営業と顧客との「良縁」を、テクノロジーを通して広げていきたいと考えています。

―なぜ「良縁」をコンセプトにしたのでしょうか。

サービスを通して営業の生産性を上げるのは必須です。しかし、それだけでなくセールスパーソンと顧客がより良い関係を築くことが重要だと思っているからです。迷惑営業をして売上が上がったとしても、顧客からの評判が悪くなったら全く意味がありません。

正直、顧客が不快に思うような営業行為、つまり「スパム営業」をしてでも、反応のあった顧客をフォローすることで成果を上げることはできます。でも、それって本質的に正しいやり方なのか、と深く考えなければなりません。これだけオープンでソーシャルな時代にハンター的な営業手法は合わなくなってきています。

私たちが注力しているのが、営業の生産性を向上させつつ、正しく顧客に寄り添って、セールス担当者と顧客が良縁を築くこと。顧客にとって不動産は一生に一度買うかどうかという高額商品ですから、良いご縁を育める担当者から購入したいものです。そこをテクノロジーの力で実現させていくのがポイントですね。

―スパム営業がまだまだ主流の会社もある中で、「Digima」の良縁につなげる機能とは具体的にどんなものでしょうか。

例えば、自動でつながりやすい人を順番に出してワンタップで電話をかけられるコールキャンペーン機能では、複数のリストで同じ顧客が重複している場合、Aリストでかけ、つながったらBリストではもうその方の名前が出なくなります。要は、迷惑営業が起こらない仕組みにしているんです。営業効率を上げるよりさらに上の目線で見た、きめ細かい部分まで考慮しています。

―美里社長は、もともと不動産業界の出身ですね。

老舗の投資用不動産販売会社で10年ほど営業経験し、グループ会社の社長も務めました。正直、不動産を売るのはとても楽しかったし、成果も出せていて、性に合っていると感じていました。

そこから、なぜ営業ツールで独立したかというと、仕組み化する方に面白さを見出したからです。当時、100名くらいの営業を束ねていましたが、もっと効率を上げる方法はないのか考えて仕組みを作って組織を底上げすることにやりがいを感じて。より多くの人に役立てる手ごたえがありました。

コンベックス・美里泰正社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―そこから独立につながるわけですね。

2005年にコンベックスを立ち上げて、まずは得意としていた電話営業の仕組み化を事業にしました。「TELE-ALL-ONE」という電話営業のツールを開発して、営業の効率化の仕組みづくりにこだわってきました。そして創業から10年後に「Digima」を企画して、現在のバーティカルSaaSへと進化してきたわけです。

私自身、100%顧客にコミットできるサービスがどんどん積み上がっていく「矛盾がない世界観」が好きなんですよね。顧客をヒアリングして、期待を超えるプロダクトへとブラッシュアップさせていくと、喜ばれて使い続けてくれて、紹介もいただける。矛盾なく積み上がっていく世界が自分にぴったりだと感じています。

これまでのプロダクトの開発は、順調だったのですか?

本当に紆余曲折ありました。「Digima」の開発を振り返ると、3回作り直しています。1回目はエンジニア採用がうまくいかずに失敗して。2回目はパイロットユーザーとして150社くらいまで伸びたんですが、解約も多かった。それまでは外部に開発を依頼していたのですが、気合を入れてエンジニアの内製化に取り組みました。結果、社内の技術力が上がり、2019年のリニューアルにつながっていったんですね。

―試行錯誤の結果、今の「Digima」が作られたのですね。不動産テックの世界で成功するためには何が重要だと思いますか。

どの業界でもSaaSのサービスは、プロダクトを作ることはできても、マーケットにフィットするのは15%くらいだと言われています。総合格闘技のようなビジネスだから、開発、マーケティング、セールス、サクセス、サポートが一体になってやっていかないと勝てない世界で、資金も含めて体力が持つかどうかがカギです。

当社の場合、「TELE-ALL-ONE」で積み上げてきた資金があったから、開発に3回チャレンジできました。徹底的にプロダクトに向き合えたのが大きかった。そして、マーケティングの力に頼らず、クチコミでサービスが広がっています。これは顧客の役に立っているからなんですよね。プロダクトの価値を上げることに、どれだけ執念を持って向き合えるかが本当に大事です。

―今後の展望を聞かせてください。

今後、10年で新ブランド「Ryoen」を15,000社まで拡大させていくのが大きな目標です。15,000社で売上200億円に到達します。不動産業界はとても広いので、賃貸・管理を除いた事業者で20万社くらい存在していて、さらに50名以下の小規模だと15万社ほど。そのうちの10%のシェア(15,000社)を目指しています。

また、これまでは一切資金調達せずやってきましたが、スケールとスピードアップのためには上場を含めて資金調達を考えていかないといけないフェーズに来ていますね。人材面でも強化が必須で、現在は50名ほどの規模ですが、もっと増やしていく予定です。世の中に良縁を広げていくためにも、SaaSビジネスの基盤をしっかり作っていきたいと思います。

 
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