不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

今回は、業務効率化サービス「Forest(フォレスト)」を提供する、オープンルーム(東京・渋谷)・田沼豊寿社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

―オープンルームが提供しているサービスについて教えてください。

「フォレスト」という不動産仲介業向けのSaaS型業務効率化クラウドサービスを展開しています。「フォレスト」は、レインズにある販売用の物件広告図面に書かれた他社の会社情報(オビ)をAIによって自社のものに自動変換するサービス、つまりオビ替えツールとして、2019年にリリースしました。

そこから段階的に機能を拡張し、オビ替えした物件図面をその場で瞬時に顧客に送信し、チャットでコミュニケーションが取れる営業支援ソフトへと進化しました。お客様の閲覧状況や「お気に入り」状況なども確認することができます。また、メールアドレスから顧客情報を管理できるCRM機能も搭載しています。

―2021年5月には、紙情報をデータベース化する新機能もスタートしていますね。

AI-OCR技術(※)を活用して紙などの物件図面から物件情報を読み取り、自動でデータベース化する機能です。仲介営業の現場では、日々大量の物件情報を取り扱います。それらはすべて、紙やPDFデータなどで最終的に破棄され、情報としてどこにもストックされないことが課題だと感じていました。

※注=光学的文字認識技術と呼ばれ、AIを取り入れた自動での文字認識技術を指す。

仲介業は、限られた一定のエリア内での物件を扱うため、短いスパンの中で複数のお客様に同じ物件をご案内するということが頻繁に起こります。その度に同じ物件図面を紙で印刷して、再度オビ替えしてコピーし、スキャンしてPDF化し、メールに添付して送る・・・となると、時間的にも印刷代などの金額的にもコストがかかってくるわけです。

しかし、「フォレスト」を使うことで物件情報は手入力なく瞬時にデータベース化され、過去に亘っていつでもすぐに参照できるため、既存の業務フローを飛躍的に効率化できます。

―「フォレスト」の利用者数はどのくらいですか。

現在、約3,000店舗にご登録いただいています。取り扱われる物件から見るに、賃貸仲介で使われているケースが多いですね。売買仲介も物件数は少ないものの、物件情報やチラシを丁寧に作っているため、強いニーズがあると感じています。

コロナの影響でリモート業務にシフトしたい企業のニーズにマッチした点もあります。今までは、紙とメールが主流だったのが「フォレスト」で追客やチャットでの顧客フォローまで幅広く活用されています。

―利用企業からは、特にどんな点が評価されていますか。

顧客とのエンゲージメントが向上したというお声をいただきます。電話やメールでフォローする必要がなく、全てサービス内でコミュニケーションが取れるため、やり取りがスムーズになったと喜ばれることが多いです。

―田沼社長は、もともと不動産仲介業を経験されていたそうですね。

長らく不動産に関わる仕事に携わってきました。新卒入社した外資系証券会社では不動産投資案件に携わり、数千億円という大型の案件も経験してきました。ですが、外資系の投資ファンドでは一通りやり切ったと自身の中で区切りがついたところで次の道を模索し始めたんです。

もともと起業を志してはいたものの、具体的に何をするかは全然決まらなくて、いろいろと考えた結果、「やはり自分には不動産しかない」との結論に至ったんです。そこから不動産が抱える社会的課題の中で最も大きい「不動産のIT化」での起業を決意しました。ただ当時はITとかテクノロジーの知識がゼロだったため、まずは現場を知るために自ら仲介業を営むことから始めたんです。

―実際にやってみて、仲介業はどうでしたか。

難しさを実感しましたね。というのも、地域性も強く、すでに成熟している不動産業界に裸一貫で入って会社を差別化していくのは、容易ではありませんでした。古い慣習や仕組みも、結局1人の力で変えることはできず、合わせないといけない。いくらメールでのやり取りを依頼しても、FAXでなければいけない、の一点張りといった長年変わらない商習慣を肌で感じました。

また「選択肢が限られている」と感じる場面もありましたね。例えば、ITツールでも中小事業者にとって使いやすくて、金額的にもリーズナブルなものがなかなかない。大企業だと情報もツールも豊富なリソースにアクセスすることができますが、中小事業者、特に起業したての時分は、全てを自分で賄わなければいけない厳しさがあります。

こうした現場での実体験や気づきが、後のサービス作りにはとても役に立ちました。

―不動産テックサービスが成功するためには何が重要だと思いますか。

まず当社は、まだまだ発展途上です。成功するかどうかはこれから次第ですが、サービスを作るうえで特に大事にしているのは「中小事業者が使えるサービスなのかどうか」という点です。これは、自らの仲介業での起業経験に基づいています。

いくらテック事業者が最先端のテクノロジーを駆使してサービスを創造しても、利用者の心に響くとは限りません。なので、当社がサービスのご案内するときは「デジタル化していきましょう」、「AIを活用しましょう」というような伝え方は一切しないんです。ITリテラシーの持ち方によって、こうした言葉に対する印象や捉え方は大きく異なりますからね。

「フォレスト」を選んでいただけているのは、シンプルに今ある業務フローをサービスによって置き換えられているからだと思います。どれだけ利用者の目線に合わせて考えられるか。当たり前のことですが、忘れてはいけない視点だと思います。

―現在、様々な不動産テックサービスがありますが、「フォレスト」の競合になるサービスはありますか。

ずばりコピー機ですね。まだまだ不動産の現場では紙を使うのが主流です。「フォレスト」のサービス名の由来でもある「紙の山を、データの森(Forest)に」するために、紙を使わない商習慣作りに貢献していきたいと思っています。紙を減らすことによる森林資源への取り組みは、次世代に残さず私たちの世代で完結させるべき課題ですしね。

―今後の展望について聞かせてください。

「フォレスト」を今後数年で不動産仲介業における業務インフラにするという目標があります。事業規模問わず多くの企業様にご利用いただき、業務効率化を実感していただきたいです。

長期的には、OCRの精度をさらに向上させ、物件情報のデータベース化を通して不動産業界に新しい選択肢を提供していきたいと考えています。

 
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