不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

今回は、IoTレジデンスの開発・販売や不動産テックサービスを提供するタスキ(東京・港)・村田浩司社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

タスキ・村田浩司社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―タスキの事業について教えてください。

新築投資用IoTレジデンスの開発・販売を主力に、建築プラン・事業収支作成プラットフォームの開発、クラウドファンディング事業やITベンチャー・スタートアップ企業への出資プロジェクトなどをやっています。

IoTレジデンスは、東京都心・駅徒歩5分という好立地で20坪程度の小規模レジデンスに特化し、3億円前後の1棟物件を個人投資家向けに販売しています。

―幅広く手掛けていますね。タスキのビジネスモデルの強みはどこでしょうか。

グロスの小さい物件を効率良く開発できるのが、我々の強みですね。

もともと私は大手デベロッパーに長年在籍していましたが、この業界では、小規模の物件は手間がかかるわりに大して儲からない、利益効率の悪い商品として切り捨てられてしまうのが一般的です。

私は「ここに勝機がある」と考えて、小型マンションに絞って突き抜けようと決めました。

起業当時、必死にプランを研究して、容積が余ってもいいから、規格化できるプランを作りました。プランや仕様を均一化して、無駄な工数をかけないようにしたんです。

さらに、近隣エリアに同時並行で複数棟建てる体制をつくるなど効率化を徹底することで、戸建て建築と同等のスピード感をマンション建設でも再現できるノウハウの構築に尽力しました。

こうした体制を20数名の従業員で運営しています。少数精鋭で無理なく仕事をするための業務効率化にもこだわってやってきました。コンパクトな組織で大量生産できるスキームを確立した結果、粗利益20%をキープする事業へと成長しました。

―小規模レジデンスに特化したことが功を奏したんですね。

実際にやってみて、この領域が宝物だったと実感しています。

個人投資家にとっても、グロスが小さい方が、自己資金が少なくて済みますし、借り入れもしやすいですから。10億円クラスの物件1棟を買うよりも、当社が提供する3億円程度の物件を3棟購入した方がリスクヘッジにもなり、メリットが大きいと考えています。

―現在は、東京都心で建てていますが、それ以外のエリアも考えていますか。

すぐには考えていません。なぜ東京都心にこだわるかというと、世界的に見ても、東京の不動産は安定していて、かつ安いと評価されているからです。

コロナ禍でニューヨーク不動産への投資額より、東京の不動産への投資額が上回ったというデータもあります。それだけ、東京への信頼性が高いんですよね。

タスキでは、都心の好立地で次々と新築マンションを建てているので、「土地はなくならいんですか?」と聞かれることがよくあります。50坪、100坪の土地は不足していますが、20坪程度の土地はまだまだあります。当社は、その土地を活かすことに専念しています。

タスキ・村田浩司社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―レジデンスには、IoTを標準装備しているのも特徴ですね。どんなサービスを導入しているんですか?

外出先から家電の遠隔操作ができるスマホの音声操作システムや、侵入者の発生を知らせる人感センサー機能などを導入しています。

IoTの標準装備は、入居者に物件が選ばれる要因になっていますね。さらに、当社は早く入居していただき、満室にすることを重視しているため、相場より手頃な家賃に設定しています。初期段階から満室であれば、物件を購入したオーナー様にとっても安定収入につながります。

―レジデンス以外のサービスについて、具体的に聞かせてください。

2020年11月に「タスキDX構想」を打ち出しました。これは、当社がAIやVRなどの先端テクノロジーを活用して、不動産業界全体のデジタル化を推進していこうとするものです。特に、業務の属人化や長時間労働の常態化といった業界課題の解決を目指しています。

具体的なサービスとして、不動産価値流通プラットフォーム「TASUKI TECH」の開発を進めています。その中でも「TOUCH & PLAN」は不動産価値の査定業務を完全自動化し、建築プランの自動生成からオンライン売買まで完結するシステムの構想です。国立大学法人電気通信大学と産学連携で取り組みをスタートさせました。

「TOUCH & PLAN」 画像提供=タスキ

設計ソフトの簡略化バージョンといえば分かりやすいかもしれません。建設計画地を指でタッチすると、建ぺい率や賃貸相場などあらゆるビッグデータ解析で、AIが最適なプランを自動で作成し、最適な事業収支を提示します。

―「TOUCH & PLAN」を使えば、どのくらい業務効率化できるのしょうか。

通常は、土地の調査から事業収支作成まで約7日〜10日程度かかります。それが「TOUCH & PLAN」ならば、スマホの画面をタッチすれば、60秒くらいで建築プランが作成できてしまいます。

また、金額面では、1棟のプラン作成にだいたい5万円くらいかかるのですが、「TOUCH & PLAN」は定額のSaaS型サービスとして提供する予定です。まずは当社で使用し、事例を作ってから他社へと広げていきます。

―他には、クラウドファンディングも手掛けています。どんな目的で始めたのですか。

少額から始められるので、より多くのお客さまに不動産投資の機会をご提供できるからです。

第1号ファンドとして募集をかけたのが、当社所有の保育園です。利回り10%、1口10万円の案件で、5分で完売するほどすごい量のお申し込みをいただき、良い滑り出しとなりました。

クラウドファンディングは、不動産投資の入口として、経験のない方でも試しやすいという利点があります。間口を広げて、多くの方に不動産投資に興味を持ってもらいたいと考えています。クラウドファンディングから始めて、ゆくゆくは1棟マンションを購入するお客様が出てこられると、嬉しいですね。

また、当社のクラウドファンディングのノウハウを体系化したコンサルティングサービスも進めているところです。小規模の不動産事業者からお問い合わせが多く、ニーズの高さを感じています。

―不動産テック企業が成功するために大事なことは、何だと思いますか。

不動産ビジネスを深く理解していることが大前提だと思います。ただ最先端テクノロジーを持ってくれば良いというわけではないと感じています。いくら高機能でも、市場で受け入れられるサービスでなければ、事業を続けていくことは困難です。

地に足のついた不動産ビジネスを経験した上で、その知見をもとに現場で使えるプロダクトやサービスを開発すれば、より成功確率は上がるでしょう。

当社の場合、IoTレジデンスの事業で安定基盤を築いていることが、テックサービスへの説得力につながっていると思っています。「『TOUCH & PLAN』で効率的に物件を開発し、成果が出た」と説明できる。自社の事業で実証できるかどうかは大事だと思います。

タスキ・村田浩司社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―今後の目標について教えてください。

目指しているのは、ストックビジネスで安定的に収益を積み上げていく経営です。現在、年30%成長している主力のIoTレジデンス事業で得た利益を、「TOUCH & PLAN」のシステム開発や販売に積極的に投資しています。

SaaS型のプロダクトの利用者を広げていき、今後5年の間に、システム領域の売上が全体の半分ほどになればと考えています。

当社は、2020年10月にマザーズ上場しましたが、人員を増やして組織を拡大したり、東京以外の都市に進出したり、多額の資金を調達することはしてきませんでした。やろうと思えばできるのですが、現状のコンパクトな体制で生産性を上げて、利益効率の高い経営に挑戦していきたいとの想いがあります。これまでの不動産業界にはなかった企業体質を目指し、テクノロジーを駆使して業界課題を解決していきたいと思っています。

 
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