遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。

 

不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

 

今回は、2020年7月31日に不動産事業(OYO LIFE)と宿泊事業(OYO Hotels Japan)を統合し、新体制になったOYO Japan(東京・千代田区)・山本竜馬社長に話を聞いた。

 

事業エリアの縮小に加えて、新型コロナウイルスによるインバウンドの激減など、OYOを取り巻く状況は厳しいように考えられる。様々な課題に、どのように取り組んでいくのだろうか。

 

 

 

OYO Japan・山本竜馬社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

 

 

―ヤフーとの提携解消やコロナショックなど、OYOには厳しい状況が続いているのではないでしょうか。そのなかで、今回のOYO Hotels JapanとOYO LIFEの合併にはどのような経緯があったのでしょう。

 

合併したことで、なにか凄いことが起こるわけではありません。

 

OYO LIFEでは、これまで借り上げを基本としたビジネスモデルをやってきました。物件を借り上げる場合は、会社が持つ信用が非常に大事になります。そこで、OYO LIFEを設立するときに、ヤフーと合弁会社を作りました。

 

一方、OYO Hotels Japanは元々ソフトバンクとの合弁会社があり、ソフトバンクグループという枠組みのなかにありました。

 

ソフトバンクはOYO Hotelsを、ヤフーはOYO LIFEを見るという役割分担があり、別々の会社ができたわけです。

 

OYO Hotels JapanとOYO LIFEは、合弁会社のパートナーやマネジメント、従業員採用も全て別々に事業を進めていました。それぐらい注力してやらないといけない事業だろうと、設立時に考えていました。

 

そこから1年以上経ち、OYO LIFEの認知が業界のなかでは非常に広まってきました。ヤフーと一緒だから信用する、といったことではなくなり、個の会社として価値を問われるフェーズになりました。

 

そこで、2つの会社で別々にやる意味がないというのが、今回の合併にいたるスタートポイントです。そもそもOYOのグローバルでは、1つの国で2つの会社を運営しているというのは日本以外ありませんでした。

 

 

―山本社長はOYO LIFE(運営会社:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN)の日本代表でした。前任は勝瀬博則氏です。事業に対する両名の違いあったのでしょうか。

 

前任の勝瀬氏は、物件を増やす営業に力を入れていました。

ヤフーとの提携を解消したぐらいの時期に、物件を拡大するのは一旦やめようという方向性が決まり、とにかく入居率を上げることにシフトしました。

 

そのときに、客付け側のリーダー、グロースヘッドをやっていたのが私でした。コンシューマ側のテクノロジーやデマンド、マーケティングといったことに取り組んでいました。

 

 

―勝瀬氏がいたとき、OYO LIFEを全国に広げ、ユーザーのマーケティングデータを取り、さらに「OYO PASSPORT」を拡充させることで、新しい住生活の文化を作ることができれば、事業がスケールするといった構想がありました。そこから一転して、きちんと収益化していく、強化していく方向になった。

 

そうですね。

あと、この1年でサービスをコンシューマに認知していただくには、とても時間がかかることを痛感しました。Amazonで本が買われたように、賃貸もオンラインで借りるようになりました。物件をわざわざ見に行かなくなる。「これが次世代の住生活だ」という未来は正しいと思います。しかし、これが認知されて、人々が「いまどきこうだよね」と定着するにはもっと時間がかかると感じ、急いで拡大することのメリットがありまりないということを学びました。

 

だからむしろ、コンシューマに向けたウェブやアプリといったプロダクトそのものの強化や、事業モデルや収益性をきちんと作り上げることが大切だと思いました。同じ意味合いでホテルと融合することによって、OYO Hotelの長期貸しやOYO LIFEとホテルの相互送客、スケールよりも中身をきっちり充実させていくということに、今後1年ぐらいはフォーカスしなければダメだと思っています。

 

 

―認知に時間がかかる、サービスの作り込みが大切といったことは、どういった経験からの教訓でしょうか。

 

1つ目はマーケティングです。コンシューマには必ずアーリーアダプターと呼ばれる人がいます。しかし、不動産は高価格帯です。無料で使えるアプリやサービスのように、アーリーアダプターが簡単に参加できるものではありません。

 

アーリーアダプターのなかで、本当に利用してくれる人と様子見の人が出てくるのは不動産特有のものでしょう。

 

2つ目は、不動産は信頼や確実性がなければダメだということです。アプリが落ちる、アプリが使いにくいとか、他の業界のアプリは不具合やアプリが落ちてしまうことって頻繁にあります。でも、不動産で同じようなことがあるとご利用のお客様は心配になり、不安に繋がります。プロダクトが完璧でなければいけない。

 

3つ目は業界との付き合い方ですね。管理会社や不動産オーナー両方ですが、現場に出ているスタッフがまだまだ素人で「不動産については勉強中です」、ビジネスモデルや顧客対応も「勉強しながらやっています」ということは、不動産業界では許されません。

 

こういったことから、アグレッシブに攻めて、時には傷を負いながらも走っていくということがやりにくい分野であることは確かですね。

 

他業界のプロダクトは、未完成のまま始まることが結構多く見受けられます。そして1年、2年経ってどんどん磨かれていきます。しかし、家を借りて、部屋に入ったら清掃もされていなかったということとは、インパクトが全く違います。そこの完璧さをより求められていることは痛感していましたね。

 

 

―コンシューマに対して不十分なサービスを提供している部分があったということですね。

 

間違いなくありましたね。

 

 

 

 

 

 

OYO Japan・山本竜馬社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

 

 

―OYOは各メディアで功罪の両面を取り上げられてきました。不動産業界も、当初は戦々恐々としていた。もうひとつ、OYO前・OYO後で、新しいサービスが生まれていることに注目しています。一時使用を利用した住空間の提供方法、OYOに影響を受けているスタートアップが増えています。新しい住まいや住空間との関わり方を作り出した潮流のリーディングカンパニーとして、どう考えていますか。

 

今回の合併で、OYO LIFEとOYO Hotelでどんな面白いことができるかは、大切なテーマだと思っています。

 

OYO LIFE側から見れば、認知を取ることが難しい最大の理由として、人が賃貸のことについて考える頻度が低すぎるということがあります。ホテルなら、旅行やビジネスなど、頻度が高い。だからこそ、OYO HotelでOYOの認識をしてもらってOYO LIFEに誘導していくことは重要だと思います。

 

ホテルでタッチポイントを作って、賃貸に物事を誘導していくこともできると思っています。あるいはもっとパッケージ化して、OYO LIFEに住んでいたらOYO Hotelに必ず無料で1泊することができるといった相互送客のチャンスですね。

 

あとは、ホテルの長期貸しです。

マンスリーのようなイメージで、家具付きの住まいとしてホテルを月契約などで貸してしまう。ホテルも、今稼働率が下がってきているので、ある程度ロットで長期貸しても良いというところも増えていますね。OYO LIFEのウェブサイト上で、OYO Hotelの客室が予約できるようにOYO Hotelへの誘導線を追加しました。

 

 

―コロナの影響はホテル事業によりクリティカルですか。

 

OYO LIFEとOYO Hotelの両方ですね。

 

ただ、世間と比べればホテルの稼働率は低くありません。

一部公表しているのですが、2020年2月からコロナ影響が出始めており、3月から一気に稼働率が下がりました。しかし、下がった3月の段階でも全国のホテル・旅館の平均よりも約20%高く稼働しています。

 

 

―なぜ全国平均よりも稼働率が高いのでしょうか。

 

1つは価格帯が低価格のレンジにあるホテルであるということですね。

もともと外国人観光客利用を主体としたところや、高級ホテルや外資系ほど影響を受けなかった。

 

あとは、日本のホテル・旅館の多くが、楽天トラベルなどのオンラインプラットフォームに対応していません。例えば、予約のメインが鉄道会社のパックツアーや旅行代理店だったりする場合は大打撃です。

 

団体旅行よりも個人での旅行やビジネス利用に関しては、ネットで予約できるプラットフォームの方が効果的です。我々は、そういったウェブ集客やマーケティングのノウハウを持っています。

 

 

―ホテル事業の加盟は増えているのでしょうか。

 

コロナの影響が出始めてから「これは堪らん」という助けを求めるような問い合わせがありましたね。その会社は先ほど言ったような鉄道やバス会社とのパッケージで取っていて、コロナで20人キャンセルといった事態が多発したようです。我々も大変な状況なので、追い風ではありませんが、これをチャンスにして加盟店を増やしていきたい。

 

また、2020年3月には「OYO パートナー・サポート・プログラム 」という、新規加盟のホテルに対して資金援助をするプログラムを展開しました(現在は終了)。そのときも前月比で3倍ほど加盟施設が増えました。コロナになってからOYOに加盟するメリットが明確になったようですね。

 

 

―ホテル事業者がOYOに参画するメリットについて具体的に教えてください。

 

1つ目は集客です。複数のオンラインチャネルに自動的に繋がることができるので、これまでオフラインで宿泊予約を取ってきた旅館やホテルにとっては非常に大きい。

 

2つ目はプライシング(客室料金設定)ですね。正直、加盟前は嫌がられるパートナー施設様も中にはいらっしゃるのですが、予約がなかなか取れないなかで、アルゴリズムで安くする、高くするといった仕組みを導入しています。OYO独自のAIによるプライシングによって稼動率をあげ、売上を最大化できるのではないかという期待は高まっているようですね。

 

3つ目は外国人需要の獲得ですが、これは将来コロナから回復した後に望めるメリットです。

 

しかし、全てのニーズを拾えているかは、まだまだ不十分だと思っています。

 

我々も、一対一で営業をやっているような状況です。全国に良さを広げていきたいと感じています。ただし「それは良いね。時代的にはそういったことをしなければいけないね」という声は、たくさんいただいています。

 

コロナ情勢下、本当に大変だと感じることが多いです。

今はとにかく、最も保守的に、現実的なシナリオで物事を進めて行くことが基本ですね。麻雀に例えれば、絶対に振り込まないことですね(笑)。

 

 

 

OYO Japan・山本竜馬社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

 

 

―山本社長のご経歴についても教えてください。京都大学・大学院卒業後、マッキンゼーに入られそのあとAppleと、不動産・宿泊事業とも畑が違いますね。OYOに入ったきっかけはなんだったのでしょうか。

 

自分のなかで一貫しているのは、物事をテクノロジーで変えていきたいということです。

 

私がマッキンゼーでコンサルタントだったとき、在籍期間の後半はずっと金融業界にいました。金融は他の業界に比べて本当に遅れていると感じていたら、FinTechの流れが生まれました。

 

正直いってすぐにインパクトを出せるようなものではありません。しかし、私自身がその基盤を作っていくことに貢献するのが楽しかった。その兼ね合いから、AppleのApple Pay Japanの責任者を務めました。これはペイメントの事業でしたが、皆現金やカードで支払っていたものをスマホにしていく。それも非常に大事だと思って、取り組みました。

 

それから後にPayPayをはじめとしたサービスが生まれ、モバイルペイメント業界がかなり盛り上がったと感じています。そして、金融や支払いの次に、もっとテクノロジーが必要なのが不動産じゃないのかなと感じていました。

 

賃貸住宅はコンシューマ側からみれば、ひどいものです。部屋探しや契約は極めて面倒くさいし、初期費用も高い。さすがに100年後も同じ仕組みのままというのはあり得ないと感じ、この状態に対して自分は何ができるのか、クリエイティブに取り組んでみたいと思い、ジョインしました。

 

 

―FinTechから不動産テックの世界に来た。テクノロジーに変わりはありませんが、それでも業界が変われば異なることも多いのではないでしょうか。

 

ペイメントのときにも感じていましたが、何かを対コンシューマに広げようと思ったら、大手が新規参入するには有利です。

 

ペイメントでは、QR決済の先駆けはOrigami Payというサービスでした。しかし、今ではメルカリPayに吸収されて、単独サービスを止めています。結局は大手しか最後までもたなかった。当時のサービスは全てなくなり蓋を開けてみたら、ソフトバンク・au pay・Apple・Googleという世界ですから。

 

不動産も同じで、今いろんなアプリが出てきていますが、それはペイメントの5年前から10年前のように見えていて、これからも様々なアプリが出てくるでしょう。なかには、我々がやってきたことを反面教師として、リスクを取らずに少ない人数でやるところもあるでしょう。しかし、いずれはBtoBのパワーを使ってスケールを取っていく体力のある大手が残ると思っています。我々も3年~5年後というのを大きなポイントだと見ているので、なんとなく楽しみだと思っています。

 

 

―いずれは大手が寡占してしまうかもしれない新しい住生活サービス、これからのOYOにはどういった戦略があるのでしょうか。

 

我々が、やらなければいけないことの1つとしてソフトバンクグループとのシナジーというのは非常に意識しています。

 

最近出てきたアプリとどのような差別化を図っていくのか、UI・UXといった部分は常に競い合う部分です。複数のサービスが乱立すると、いずれは収斂されていく。そのなかでは、スケールするためにどことパートナー組んでいるか、どこと仲が良いのかなどは、非常に大事なことなので、そこをかなり意識してやっていくと思います。

 

大企業や学校の流れとして、わざわざ近くに住まなくてもいいという考えは出てくるでしょう。長いスパンで見ればどういった賃貸を扱えば良いかは変わってくると思います。

 

旅行は変わらないでしょう。多分。沖縄に行きたい北海道に行きたいという欲求は変わりませんから。ただ、賃貸は都心に住みたいかというとそうではなくなってくると思います。

 

 

―そうなると、OYO LIFEがこれまで狙っていた、都心の良い物件だけではないバリエーションも求められてくる。

 

そうです。

 

 

―ビジネスの仕組みとして借り上げて運営することから脱却するといったこともありえるのでしょうか。

 

構想としてはありますね。契約上借り上げるとしても、入居者が付いてから借り上げるといったオンデマンド的なやり方もできると思いますし。ただ、そうすると管理会社は短期を嫌がるのでどうするか。家具をサブスクで提供している企業などと組むことでできるのではないかと思っています。

 

あとは、普通に仲介モデルをやっていくということもあり得ます。オンライン仲介のようなこともあり得ます。

 

これまでのビジネスモデルに捕らわれず、常に新しいテクノロジーや方法を模索して、事業を進めていきたいと考えています。

 
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