遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。

不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

今回は、不動産取引を効率化する「the REMS(レムス)」を提供しているオーベラスジャパン(東京・港)の大庭勇太社長に聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

オーベラス・ジャパン・大庭勇太社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―サービスの概要について教えてください。

2019年5月にリリースした「the REMS(レムス)」は、5億円以上の不動産に特化したプロ同士の売買プラットフォームです。

売主と買主が「the REMS」の会員になり、売主は売却物件を掲載、買主は購入ニーズを掲載します。

そして売主と買主が「the REMS」内で、匿名でメッセージのやりとりをします。コミュニケーションのなかから物件の情報やニーズ、相手の属性を引き出し、物件が自分の取得基準と合えば、実名申請を送り、承諾されればマッチングします。あとは、電話やメール、面談などで取引を進めていただきます。

売買当事者の会員は「the REMS Direct」、仲介事業者の会員は「the REMS Broker」を利用します。

―プロの売主と買主をマッチングし、直接取引を促すサービスなのですね。

「the REMS Direct」会員のほとんどがデベロッパーやファンド・RIETなどのAM事業者、買取再販事業者といったプロやセミプロで、不動産を熟知している方々です。

「the REMS」 画像提供=オーベラス・ジャパン

当社は「the REMS」事業の他にも、電力自由化の事業を展開しており、3,000棟以上の事業法人・ビルオーナーと繋がっています。「the REMS Direct」の会員になる条件には、宅建免許の資格は必要ありません。そのため、不動産事業者ではない法人も「the REMS Direct」の会員にはいらっしゃいます。

「the REMS Direct」では、不動産仲介会社を通さずに取引することができます。

また、会員はオープンマーケットではなく、クローズマーケットで情報収集したいと考えています。そこで「the REMS」では会員制である程度クローズにしたうえで、さらに売却物件の必須掲載項目を3つにしています。「エリア」と「用途」と「価格」だけを登録すれば掲載可能です。

ポータルサイトをはじめとした不動産情報サイトは、全ての項目を網羅しなければ掲載できません。なぜ、そんなに項目が必要なのかというと、それはエンドユーザーをターゲットにしているからです。「the REMS」はプロやセミプロが利用しており、そこまで多くの情報がなくても、物件を精査することが可能です。むしろ、項目が少ない方が情報の鮮度を保てることもあるはずです。

当然、利回りや築年の項目もありますが、任意になっています。売主の売却方針に従って、自らカスタマイズすることができるのです。

 

オーベラス・ジャパン・大庭勇太社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―匿名でコミュニケーションを取り、クローズドな物件情報をやりとりする。安全面やトラブルといったリスクはないのでしょうか。

「the REMS」の会員になるためには審査が必要です。事前に当社が企業調査や反社チェックなどを行います。不動産取引時に最低限必要な調査項目は、「the REMS」で先に完了していますので安心してご利用いただけます。

セキュリティ面も「セキュアAI」の専門会社の技術を使用しているため安心です。

また、2020年4月には「the REMS Broker」をリリースし、仲介事業者にも「the REMS」を利用いただけるようになりました。仲介事業者は売主・買主を探すことが大きな仕事です。「the REMS」は買主・売主に登録いただいており、スムーズにマッチングが可能です。

仲介事業者からすれば、買主とも直で繋がることができるため、両手取引や顧客開拓にも活用いただいています。

「the REMS」の仕組み 画像提供=オーベラス・ジャパン

―客付け仲介事業も登録できるのですか。

客付け仲介事業者は、売主・売り仲介事業者の物件情報を確認して、自社で抱えている買主に提案することは可能です。

―どれぐらいの登録があるのでしょうか。

2020年4月現在で、「the REMS Direct」の会員が150社、仲介事業者に向けた「the REMS Broker」には50社以上の申込みをいただいています。

本サービスは法人での登録後、担当者1人につき1アカウントを発行しますので何名でご利用いただいても結構です。

「the REMS Broker」の会員は、全国の大型物件の仲介を得意とした事業者です。現在、全国からの問い合わせがあり、地方の事業者にも利用いただいています。

私は東京を拠点にして法人仲介を経験してきましたが、例えば東京の法人が広島にある物件を所有していて、その物件の売却の依頼を受けたとき、広島に繋がりのある会社もなく紹介先もない。こういう時が一番困るんですが、「the REMS」なら、遠隔地ですら客付けや取引を円滑にすることができます。

―大庭社長は元々不動産会社出身なのですね。

元々、私と弊社の社員の一部は大手不動産会社で勤務しておりまして、AMやPM業務、法人仲介、仕入れ業務などを経験してきました。

そこで、売主と買主がもっと手軽に繋がれる方法はないかと思い「the REMS」の構想を考え始めました。

また、不動産業界では、業者会や飲み会が頻繁に開かれ、横の繋がり・関係性を作っています。そういった出会いもオンラインで効率的にできるでしょう。

―大庭社長が不動産業界に感じている変化はありますか。

プレイヤー同士がドライな関係になってきていると感じますね。

もちろん、デベロッパーや再販会社でウェットな関係を重要視している方も多くいらっしゃいますが、業界全体で見れば、これは全くの主観的ですがドライな関係が強くなってきているように思います。

世代交代が始まってきていることが大きな要因です。

横との繋がりや営業の現場で浪花節や寝技、搦め手といったウェットな手法を取ることも必要ですが、効率を重視する若手世代も増えてきています。

若手世代は、システムなどを使って効率よく物件情報を集め、次々と判断して回転率を上げることで成果を出していくでしょう。また、そちらの方が、人も手間もかかりません。

そういったなかでは「the REMS」を使ったマッチングに価値を感じてもらえる不動産プレイヤーは多いですね。

オーベラス・ジャパン・大庭勇太社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―今後、機能追加などは考えているのでしょうか。

現在の「the REMS」はまだ初期段階です。機能的には10%ほどしか完成していません。

まず、コミュニケーションや相互の連絡データから各担当者の実力をスコアリングしたいと思っています。

「the REMS」の開発にはAI構築やデータ分析を専門にしたスタートアップEAGLYS(イーグリー 東京・渋谷)と共同開発しています。EAGLYS社はシステム開発がメインではないのですが、当社の事業に共感いただきサポートいただいています。

また電子契約やVR、ドローンといった不動産テックサービスとも連携していきたいと思っています。特に電子契約はすぐにでも取り入れていきたい。当社だけで不動産ビジネスを完璧にフォローするものは作れません。良いサービスとどんどん繋がり、契約・決済までプラットフォーム上で完結するサービスを作り上げたいと思っています。

―不動産テックサービスを提供する側になったからこそ見えてくる不動産テック企業への課題はありますか。

始めから100%に近い完成度のサービスを提供しようとする会社が多く、それでは上手くいかないのでは、と思っています。

元々紙媒体がメインだった不動産業界では、不動産テックによるサービスレベルを徐々に上げていくべきだと思います。

ちょっとした機能からはじめて、徐々に改良していけば、徐々に馴染んでいく。「the REMS」も徐々に機能を追加していくことで、誰でも使えるサービスになると思っています。

―将来の展望はありますか。

2020年7月までに「the REMS Direct」で200社、「the REMS Broker」で500社の登録を目標にしています。

そして、将来的には「the REMS」がなければ不動産取引ができない、と言われるようなサービスにしたいですね。

「the REMS」で不動産取引の全てを完結することができれば、営業社員1人1人の負担は軽くなります。「the REMS」に物件情報を入れれば、契約書も物件概要も自動で完成する、といったサービスになれば手間もかかりません。そういった世界を作っていきたいですね。

 
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