中古流通が増えればエージェントの腕が試される TERASS・江口亮介社長

遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。

 

不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

 

今回は、不動産エージェントとエンドユーザーのマッチングサービスのリリースを予定しているTERASS(テラス・東京・港)の江口亮介社長に聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

 

TERASS・江口亮介社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

 

―不動産営業担当者と購入検討者が直接つながるサービス「Agently(エージェントリー)」をリリースするそうですね。開発にいたった背景を教えてください。

 

今後、不動産売買市場には2つの流れが生まれると考えています。

 

1つは中古流通の時代です。

2017年、首都圏市場のレインズの登録物件数で、中古が新築を逆転しました。

日本全国においては新築7割・中古3割と、まだまだ新築が堅調です。しかし、今後は良い中古物件がストックされ、リノベーションの技術も向上していくため、欧米のように中古住宅の流通割合が増えていくでしょう。中古不動産流通は日本に残された成長産業のひとつになるはずです。

 

そこで中古流通についてビジネスを考えていくと、新築と中古では売買する時の難易度が大きく異なります。中古不動産には様々な選択肢があり、そのなかでお客様が満足する提案をしなければならないため新築提案よりも難しい。つまり、中古流通の時代になればなるほど、不動産仲介営業社員、当社では不動産エージェントと呼んでいますが、その役割が非常に重要になってくると思っています。これが、2つ目の個人の時代になるという予測です。

 

実際に不動産流通の9割が中古不動産のアメリカでは、不動産エージェントは医者・弁護士と並んで、人生において大切な存在であるという認識があります。一方、日本では不動産会社は何だか怪しい人たちと感じられている。その落差を是正したい。

 

海外で社会的地位が高い不動産エージェントが、日本では地位が低い。その理由の1つは中古流通が少ないからだと見立てています。アメリカは中古の取引件数や紹介率、買い替え率も高い。日本は平均して1.9回しか買い替えませんが、アメリカは2.8回と多いです。

 

アメリカと日本のGDPは4倍の差ですが、不動産マーケットは9倍の差があります。

 

 

―今後、不動産エージェントの個の力が重要になってくる。

 

物件情報を右から左に流すだけの不動産エージェントは、AIなどのテクノロジーに代替されて行くと思います。しかし、顧客の希望の暮らしに対して、「この物件が良いんですよ。検索条件に引っかかっていないですが、こういう視点で見ればぴったりな物件です」と、機械にできない提案ができるエージェントは一定数存在しています。そういった人たちに活躍してほしいと思っています。

 

これまで、一般の人がそういった不動産エージェントと繋がる術はなかった。物件に問い合わせて、たまたま付いた担当者の手腕に左右されていた。

 

長期間にわたって住宅を探しているのに、満足する住まいが購入できないのは営業担当が優秀ではないから、という事例は多いです。顧客の希望条件を十分に満たす物件がないなかで、条件を整理しマーケットから最適な物件を提案できる人と出会えていない。

 

そういったなかで「Agently」(エージェントリー)の構想が生まれました。

 

 

―詳しく教えてください。

 

当社が2020年春にリリースを予定している「Agently」は、「家探しは、いいエージェント探しから」というコンセプトのエージェント提案型家探しサイトです。

 

エンドユーザーが「Agently」に家の希望条件を登録すれば、匿名の状態で登録している不動産エージェントに公開されます。そして希望条件に沿った提案を受けられます。

 

「Agently」 画像提供=TERASS

 

 

アメリカではMLS(アメリカ版レインズ)によって物件情報が完全にオープンになっているため、情報を見つけることに価値はありません。むしろ、見立てや価格交渉といったエージェント業務が重要になってくる。

 

一方、日本ではまだまだ物件情報に価値があり、両手取引を認めているレインズの仕組みがある以上、しばらくは変わらないでしょう。そのため、単にエージェントを探しましょう、では難しいと思っています。

 

未公開物件はなくなりません。また未公開物件を持っている人は、両手取引をしたいと考えることも、悪いことではないと思っています。一番いけないことは囲い込みです。未公開物件を無視できないなかで、それならば未公開情報を持つエージェントと購入検討者を効率的に繋げ、円滑な取引ができるようにしたいと考えました。また、家を探している人が複数のエージェントから同時に提案を受けることが、家探しにおいては重要だとも感じています。

 

また、エージェントがメッセージを送るのは無料です。

マッチングしたとき、物件の内覧や面談のタイミングで課金しています。ゆくゆくは、成約課金など様々なプランを用意する予定です。

 

良いエージェントに活躍して欲しいという思いもあります。顧客とのやりとりや送ったメッセージへの顧客からの返信率、面談後の満足度、成約数などを計りながら、良いエージェントであることをデータ上で証明していきたいと思っています。

 

 

―顧客とエージェントのやりとりをデータで分析し、良いエージェントを見つける仕組みですね。

 

以前、私はSUUMOでカスタマーサーベイという、ユーザーからの口コミを集める部門でプロデューサーをしていました。年間数万件の口コミが集まるのですが、寄せられる評価はほとんどが満点に近く高すぎるため、相対評価をするには不十分だと感じていました。

 

 

なぜ上がってくる点数高すぎるのか。それは、不動産会社が顧客にはがきを手渡しして、口コミを書いてもらう仕組みだったので、「この人は、きっと満足したな」と思える人にしか渡していなかった。それに成約した直後など、顧客が一番ハッピーなときにしか渡さないこともあった。また、そもそも嘘の口コミも多かった。これでは、意味がない。

 

第三者の目線で様々なデータを分析しなければ、本当に優秀なエージェントは見つからないと感じています。

 

TERASS・江口亮介社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

 

 

―現在どれほどのエージェント登録があるのでしょうか。

 

リリース前ですが、2020年3月時点で50社以上に登録いただいています。

1社で18人のエージェント登録をいただいているケースもありますね。

 

 

―「Agently」は一法人で登録するエージェント数に限りはあるのでしょうか。

 

制限はありませんが、宅建免許を持っている人に限っています。

 

 

―複数のエージェントからアプローチが届く。なかには、しつこい営業もあるかもしれません。

 

1カ月で、新規にアプローチする顧客数は上限30件にしています。30件しかないので、吟味してアプローチいただくことがポイントです。「Agently」に登録したエージェントには力を入れたメールを送って欲しいと思っています。

 

ただ、たくさん提案が来るという点に関しては、顧客のマインドセットを変えたい思惑もあります。バンバン提案が来ることを嬉しいと思って欲しい。「Agently」を見ておけば良い提案がたくさん来ると思っていただければ、不動産会社にとっても良いでしょう。

 

 

―日本でエージェント系のサービスが難しいと思うのは、一般消費者の文化醸成も必要だという点です。物件ありきではなくエージェントを入り口とした家探しは、理解されるのでしょうか。

 

難しいと思っています。

 

いきなりエージェントを探せと言われても、顧客は物件情報が欲しいと思っていますから。

 

「Agently」も、まずは人探しというよりは、「未公開物件に出会える」といった切り口で認知させていきたい。エージェントを探すことは、まだまだ浸透しないと思っています。探そうにも、AさんとBさんどちらが良いかは分かりません。ある程度データを溜めながら徐々に作り上げる必要がありますね。

 

 

―江口社長自身も不動産売買の経験があるそうですね。

 

「Agently」には私の体験も反映しています。

 

26歳のとき、最初に購入した物件は、まさしく未公開物件でした。4カ月ほどずっと築浅の物件を探していたのですが、理想の物件はありませんでした。

 

そういったなかで、たまたま良い担当者と出会い「良い物件がありますよ」と提案されたのが築47年のマンションでした。築浅を希望していたのにも関わらずです。しかし、担当者の提案を聞くなかで「確かに築古の物件でもリノベーションすれば悪くないな」と考えを変えて、結果的に購入しました。

 

そのマンションには2年間住み、売却時には購入金額+リノベーション費用よりも高く売却することができました。本当に良い買い物でした。この担当者に出会えて良かったと心から感じましたね。

 

 

―江口社長が考える優秀なエージェントとは、具体的にはどういった人でしょうか。

 

提案の軸ずらしができる人です。

 

SUUMO時代に不動産営業について研究したときに感じたのは、良いエージェントは軸ずらしが上手い。希望条件の妥協点や折衷案をだし、たくさんある条件から本当に重要なポイントとそうではないものを分けていく。

 

軸ずらしができずに、ありもしない物件を探し続ける営業社員は優秀ではありません。逆を言えば、営業社員によって、同じ物件が良く見えるか、悪く見えるかは異なります。

 

それで腹落ちさせる。まさしく築浅の物件を探していた私もそうでしたから。今となっては軸をずらして提案してくれたことにすごく感謝しています。

 

 

―「Agently」は購入だけなのでしょうか。

 

売却もやっていきたいと思っているのですが、「この人に頼めば10%高く売れました」というデータを集めることは難しい。ただ、購入希望者のなかには買い替えもあるため、売却が得意なエージェントがアプローチしているケースはありますね。

 

また、不動産売却は、個人というよりも仕組みが重要だと思っています。

今後は、ホームステージングや瑕疵担保保証、ハウスクリーニングといったサービス合戦になっていくでしょう。個人が差別化するというよりかは、組織が重要になってくる。

 

購入は、顧客は買わないという選択肢もあるなかで、重要な意思決定を促す。ローンの知識なども必要で、

接客の難易度の種類が違うと考えています。

 


TERASS・江口亮介社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

 

 

―SUUMOの時代に感じていた業界の問題点はありますか。

 

同じ物件を複数の会社が掲載するという状況は問題だと感じていました。

 

カスタマーにとってはあまり意味がなく、生産性が低い。もちろん、複数会社が載せ合うという状況は、より詳細な情報や写真のクオリティを高めようというインセンティブが働くことがあるので良い部分もあります。

 

ただ、それでも同じ物件が一覧で並んでいる状況、そしてその物件情報を各々掲載しているというのは無駄が多いと今でも感じています。

 

 

―先物ばかり扱っている不動産事業者は難しくなってきますか。

 

それでも、提案力のある会社は生き残っていくと思います。

現状の努力だけで。自然に媒介も取れるでしょう。

だからといって、焼き畑農業的に売ったら終わり、フォローもしないといったものではダメです。

 

プロフェッショナルとして、資産形成のためにバリューを発揮できる人は残りますし、必要とされるでしょう。

 

 

―今後の展望はありますか。

 

2020年末までに、まず東京23区内でのエージェント登録数No.1にしたいと思っています。「Agently」を使っているエージェントの全員が活躍できるとは思っていません。プロフェッショナルな人が活躍できる場にしたい。

 

また、購入側の顧客への啓蒙や知識のインプットも重要だと思っています。少し先の話ですが、そういったソリューションを検討しています。

 

例えばカスタマー課金です。大きな買い物をするために良い物件情報や良い提案を受けられるのであれば、多少払っても良いと考えている人が一定数います。

 

払うぐらい真剣に考えている顧客が表されるので、エージェントにはやる気が伝わり最優先で接客したくなる顧客になるでしょう。

 

本気で家を探している人、購入したい熱意を伝えるためにもカスタマー課金は有効だと思います。「Agently」経由で契約したらキャッシュバックしても良い。

 

今の不動産取引をもっと円滑にできる仕組みを追求していきたいと思っています。

 
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