遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。

不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

今回は、不動産投資に新しい風を吹かすZIRITZ(ジリッツ:東京・千代田区)の島﨑怜平社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

ZIRITZ・島﨑怜平社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―提供されているサービスについて教えてください。

2019年11月から「StockFormer」というサービスを提供しています。これは、投資家と投資用物件を扱う不動産会社をマッチングするプラットフォームです。

登録いただいた投資家は5つの機能を利用することができます。

1つ目は、スコアリングです。

投資家が自身の現金や有価証券、不動産、融資、給与や役員報酬、過去どのような不動産投資をしてきたかなどを登録いただくことで、四半期ごとにバランスシートや損益計算書が自動的に作られ、350~990までの「資産レベル」と呼ばれるスコアを算出します。

「StockFormer」に登録している全投資家のスコア分布を見ることができ、そのなかで自分はどの位置にいるか、金融機関等からの信用力などを把握することができます。

また、先述した「資産レベル」を通じて、他の投資家がどういった不動産投資をしているのか、どの金融機関を利用してきたかなどを知ることができます。自分と同じスコアで絞り、同じような属性の投資家が、どの金融機関から借り入れているのか、金利情報も確認することができます。これが2つ目のシェアリング機能です。

3つ目は、投資家が希望する物件の買いニーズを登録することで、不動産会社から提案を受けることができるマッチングの機能です。売却の依頼も可能です。

不動産会社は、投資家の資産スコアを閲覧し、提案する不動産を購入できるのか、どういった収益不動産会社に投資してきたかなど、投資家ごとの傾向を把握・分析し提案します。

4つ目はバリュエーションです。保有している不動産の価値を、需要と供給のバランスから把握することができます。

投資家所有する不動産の、売りたい価格を設定します。すると、「StockFormer」内の他の投資家が登録している「買いニーズ」とマッチングさせることで、買いたいと思っている投資家の人数を表示させることができます。

人数が多いほど需要が高くなり、売り時を判断することができます。不動産会社に向けて公開することで、売却の提案を受けることも可能です。

5つ目は、売買時の手数料10%をキャッシュバックする機能です。

「StockFormer」 画像提供=ZIRITZ

―投資家が自身の資産レベルを把握し、不動産会社も資産レベルにあわせて提案することができるようになるのですね。

「StockFormer」は、不動産会社の担当者ベースで登録いただいている点も特徴です。「StockFormer」で取引が成約すれば、投資家に不動産会社の担当者を評価してもらい、こちらもスコア化します。

投資家は、この担当者のスコアを参考にして、提案を受けるかどうかを判断することができます。

―現在登録されている投資家・不動産会社の数を教えてください。

投資家の登録は、約700名です。月200人ペースでご登録いただいております。

経営者や東証一部の役員、外銀やコンサルファームの人が多いですね。平均年収2,000万円、平均純資産5,000万円といったところです。

不動産会社は60社以上に登録いただいています。

大手企業や海外企業からも引き合いが多く、担当者ベースでは約80名に登録いただいています。

―投資家のニーズはどのくらいあるのでしょうか。

私自身のこれまでのキャリアは証券会社で新銀行の立上げやPTS(私設取引所)の立上げに携わり、その後は戦略コンサルタントとして様々な業界の戦略立案、特に新規事業戦略、DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略に携わってきました。その一方で10年近く不動産投資を行っています。これまで延べ10億円ほど不動産の売り買いをして、資産を形成してきたのですが、なかなか不動産会社とのお付き合いの幅が広がりませんでした。

良い不動産会社をたくさん見つけたいけれども見つからない。どのように探して良いかも分からなかった。

それならば、投資家から「資産があるよ」とアピールして、それにマッチした提案をたくさん受けられるようにして、そのなかから良い不動産会社を見つけた方が良い、という発想からスコアリングの仕組みを作りました。

ZIRITZ・島﨑怜平社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―投資用不動産については、「ごり押しの営業を受ける」といったマイナスのイメージを持つ人も少なくありません。

先ほど紹介したように、投資家から担当者の評価がつき、それが他の投資家も参考にしているという仕組みなので、ごり押し営業はあまりないようですね。

評価が抑止力になっているのではないでしょうか。

ただ、一般的に投資家は、たくさんの不動産情報を求めています。もっと送って欲しいと思っているはずです。それが電話やメールでの提案ならば嫌だと感じる人は多いかもしれません。「StockFormer」という目的のあるサービスのなかで完結するのであれば、投資家は拒まないでしょう。

―投資家と不動産会社をマッチングさせるうえで、注意していることはあるのでしょうか。

投資家は情報を欲しがっています。

そこで、多くの投資家は、購入したい物件ニーズを幅広い条件で設定していることが多い。厳しい条件にしてしまうと、物件提案がないからです。不動産会社も、この物件ニーズを鵜呑みにしてしまうと、あらゆる物件を提案しなければなりません。

しかし、提案する前に、その投資家が過去行ってきた投資履歴を確認することで、本当に求めている物件のニーズを把握することできます。マッチング効率を上げる仕組みです。

―「StockFormer」の競合するサービスや、意識しているサービスはありますか。

不動産業界のサービスではありませんが、人材業界のビズリーチを参考にしています。

ビズリーチには、ヘッドハンターと転職者をマッチングさせています。ヘッドハンターはランク分けされており、転職者は過去の職歴を登録して提案を待ちます。ヘッドハンターが求人情報を提案し、成約するとヘッドハンターが評価される。「StockFormer」のマッチングの仕組みと似ています。

当社のZIRITZという社名は「自立して自分の生き方を作っていきましょう」というポリシーを表しています。

最近では、転職や副業などが当たり前になり、職業キャリアを通じて自立できるプラットフォームが生まれています。しかし、不動産投資をはじめとした資産形成で自立できるようなプラットフォームはありませんでした。

それは、不動産業界にある情報の非対称性が一因だと思っています。

成約情報や物件情報などがオープンにされておらず、投資家は自立することができなかった。

「StockFormer」は、マーケット情報や不動産会社の善し悪しの情報、成約の情報など、投資家が自立するための情報を全て集めています。これまで、不動産会社から言われたとおりの投資をすることが当たり前でした。しかし、「StockFormer」によって不動産リテラシーを持つことで、自立して資産形成することができるようにしたいと思っています。

―投資家を自立させるために、不動産投資の非対称性を解消したいわけですね。

ヘッドハンターの人材業界も、長くは非対称性のビジネスでした。

どういったポジションや求人があるのかは、ヘッドハンター同士で回しているだけで、求職者には分からなかった。

しかし、求職者のキャリアをオープンにし、案件やヘッドハンターのランクをオープンにしたことで、市場は大きくなり、転職が当たり前になりました。

同じようなことが不動産業界にも起こせると思っています。

今までは、不動産投資は怪しいと思われて、限られた人しかやらなかった。情報がオープンになることで、皆が当たり前に不動産投資をできるようになります。

「資産形成しなくてはいけない」というニーズは、年金の減少や老後2,000万円問題などで、これからも必ず高まっていきます。


ZIRITZ・島﨑怜平社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―様々な人が不動産投資をやるようになると考えているのですね。

これまでは、マイホームを持つことがステータスになっていました。

しかし、今の若い人にとってマイホームはステータスではありません。会社近くのマンションを借りている。そもそも将来に結婚や子どもが生まれるかも分からない。ライフステージがどうなるか決まっていません。そのため金融機関の住宅ローン取引は減少していますよね(※)。

※注=平成29年度の住宅ローン新規貸出件数は76万9,976件だった。平成28年度の75万8,926件と比べると僅かに増えているが、平成27年度79万8,761件、平成26年度83万9,668件を見れば、減少傾向であることが分かる。(国交省「平成30年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」より)

一方で、見方を変えれば「ローンを借りられる余力」があるということです。借りられるのに借りないのはもったいない。だったら不動産投資のイメージを払拭して、皆が不動産投資をするようになれば良いでしょう。

―島﨑社長自身が不動産投資家として、感じていた問題点はどういったところだったのでしょうか。

個人投資家は、不動産会社や担当者の善し悪しが分からないことですね。

どういった会社が良いのかの判断基準もありません。だから提案を受けても乗りづらかった。

「StockFormer」によって、投資家からの評価を見れば善し悪しが判断できます。資産スコアが高い投資家が「良い」と言っている不動産会社は信頼しやすい。

―将来の展望はありますか。

「StockFormer」によって当たり前に不動産投資ができるようにしたいと考えています。

そのためには、まだピースが足りない部分があります。それは融資です。

「StockFormer」のなかで、融資をスムーズにできるようになれば、不動産投資の流動性が高まります。

今までは、金融機関は積算評価や担保評価で融資を判断していました。

しかし、投資家の属性や物件のポテンシャルデータが溜まっていけば、事業性やマーケット評価、リスク評価によって融資が可能になるでしょう。

融資判断になるような情報、金融機関にも活用してもらえるようなデータを集めいていきたいと考えています。

 
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