遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。

今回は、個人で相続税申告ができるサービス「better相続」を提供するbetter(東京・中央区)の安東容杜社長に展望を聞く。(リビンマガジンBiz編集部)

better・安東容杜社長 撮影=リビンマガジンBiz編集

―サービスについて教えてください。相続は足が長く、マネタイズポイントも生みにくいというところで苦慮している事業者も多いと聞きます。

当社が提供している「better相続」は、専門家のサポートのもと、個人で相続税申告ができるサービスです。

相続について、税理士に依頼すると遺産総額に連動した報酬を支払うことが多く、遺産総額の0.5~1%の費用が発生します。1億円の資産があると、50万円~100万円ほどの報酬です。

2015年に相続税の法改正で、遺産総額が多くない方でも相続税申告が必要になりました。それくらいの資産規模の方は、相続が発生するまで税理士に報酬を払う機会がなく、「こんな費用がかかるのか!」と驚かれるケースが多い。

「better相続」であれば、税理士による遠隔のサポートを受けながら自身の力で申告ができます。費用も定額69,000円、現在はキャンペーン価格で提供しています。

―相続税制が改正されたことで、税理士に頼まず個人で相続税申告をやろうとする人は増えているのでしょうか。

確実に多くなっています。

平成26年度(2014年度)、税理士を使わずに申告された方は、相続申告全体の10.3%で約5,500件(被相続人数ベース)でした。直近で公開されている平成29年度(2017年度)は、約22,000件と申告全体の15%を占めています。

多くの方が、まず税理士に相談して「報酬が高すぎる」と感じ、自分で申告書を作成しているのだと思います。

―通常、個人で相続税の申告をする場合、どのような事務作業が必要なのでしょうか。

残高証明書など申告書の作成に必要な資料の収集、不動産などの財産評価及び申告書及び遺産分割協議書の作成です。

個人で行う場合、多くの皆さんはまず本を買い、それを基に国税庁のHPを紙に打ち出して、申告書を手書きする方が多いようです。

分からない部分は税務署に行って質問し、少しずつ申告書を作成していきます。でも、手間がかかるので、結果的に税理士に駆け込むケースも多いようですね。

―「better相続」を使えば、どういったメリットがありますか。

個人で相続税申告していて、まず初めに悩むのは「何を見て作れば良いのか分からない」「何が相続財産の対象になるのかがわからない」ということです。

「better相続」では、まず質問形式で相続税の対象になる資産を洗い出します。それを基に、その人にあった必要資料を自動でリストアップします。必要資料が揃えば、入力していただき申告書を完成させます。流れを分解し、ステップごとに質問形式で答えていけば、どなたでも進められるように設計しています。

「better相続」の仕組み

こういったやり取りの中で間違いが起きないように、税理士がサポートします。

財産評価も含め分からないことや個別具体的な相談があれば、いつでも相談できる体勢です。

―税理士は何名いるのでしょうか

当社では税理士法人も運営しており、そちらに3名の税理士が所属しています。また相続税に強い税理士法人も数社提携させて頂いているのと、その他に資産税課出身の国税OBの方にもお手伝い頂いております。

―「better相続」を利用されるボリュームゾーンやターゲットはどういった方々でしょうか。

一概には言えませんが、資産額的には1億5,000万円以下の方です。

例えば、自宅不動産1件と現預金が1,000~2,000万円、株式が1,000~2,000万円あり、合計で8,000万円といった方が「better相続」のターゲットユーザーになっていますし、実際にそういった方の利用が多いですね。

被相続人の手元にキャッシュがあり、所有している不動産で基礎控除額から足が出てしまう非富裕層です。一般のご家庭ですね。

資産額が1億5,000万円以上の方は、非上場株式や個人事業をやられている場合が多く、個人で懇意にされている税理士もいる。生前に相続税対策をやっている方も多いです。そういった方々は「better相続」のターゲットではありません。

また、財産となる不動産が海外にある場合などの特殊な場合も、「better相続」を使うべきではありません。そういった方々には、税理士を使って欲しいと判定するようになっています。

better・安東容杜社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―2020年の1月に正式リリースした「better相続」ですが、利用はどれぐらいあるのでしょうか。

お陰様でリリースから徐々に利用者数は増えてきています。

ユーザー層としては、50代~60代が多い。80代の方が亡くなって、相続される方の年齢です。

30代の若い方もいらっしゃいます。これは、相続人は自身の親ですが、相続申告が分からないから代理で行っているようなケースです。

―安東社長自身が税理士ですね。「better相続」を始めるきっかけは何だったのでしょうか。

もともと公認会計士として監査法人で株式上場の支援や会計監査を行っていましたので、相続については全く関係ありませんでした。

きっかけは友人から相続税申告について相談されたことです。

確定申告や所得税計算のやり方については国税庁が確定申告書等作成コーナーなどを公開しています。また、マネーフォワードなどのサービスもたくさんあり、税法知識がなくても申告できるようにうなっています。しかし、相続税に関してはそういったサービスがありませんでした。

友人からの相談に対しても「税理士に頼むしかないのかな…」と、答えるしかなかった。

このとき、相続税に関するサービスについて問題意識が生まれました。

また私自身も相続税や争族について考える機会があり、アナログだった業界がITやテクノロジー化していくなかで、相続税に対しては誰がやるのかと考えたときに、我々がやりたいと感じました。

―税理士業界や相続税での旧態依然とした部分とはどういったものだったのでしょうか。

1番は報酬の部分ですね。

現在の遺産相続連動報酬という税理士への報酬体型は、IT化が進んでおらず労働集約な業務を行っているからだと感じています。

極端な話ですが、相続資産が現金の1億円の場合と、不動産・株式・保険・現預金あわせて1億円だった場合は税理士の作業量には雲泥の差があります。現預金だけなら業務量は少ないですが、どちらも報酬は変わらない。

これは不動産業界でも同じだと思いますが、労働集約的な部分はIT化して顧客に還元する。

逆に海外不動産などのような評価が難しい遺産がある場合やや生前に複雑な節税スキームを提案することは、税理士のバリューが生まれる業務です。なかなかIT化できません。こういうテクニカルな業務、税理士本来のバリューが出せる部分に注力することが、今後のあるべき姿だと思います。

―「相続」という分野では、関わっているのは税理士だけではありません。不動産事業者も関与しています。相続をテーマに様々な事業者が様々なアプローチをかけている。相続をビジネスチャンスだと思っている事業者は多いです。

相続市場は、年間50兆円ほどあると言われています。

その大半は現預金と不動産です。相続市場に事業者が群がっていくのは必然でしょう。

不動産プレイヤーが土地活用などの提案をすることは良いと思います。ただその反面、やることが局所的になってしまっているのではないか、と感じています。財産の全体を俯瞰的に見て、不動産事業者や保険、証券会社などが連携してプランを立てるべきだと考えています。

―土地があるなら、とりあえず土地活用を提案しているのではないか?ということですね。あくまでその人にあった提案が必要なのは間違いありません。

「better相続」の強みの1つになりますが、相続税申告が終わった後のユーザーに、終活コンサルを提案しています。相続人の方も、いずれは被相続人になる。受け取った財産でどういったライフプランをとるのかを提案しています。

そのなかで、不動産を売った方が良い場合や、投資用不動産の購入などの場合は、不動産会社に送客しています。様々な事業者を総合的にとりまとめる存在として、「better」があると思っています。


better・安東容杜社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―不動産事業者とは何社提携しているのでしょうか。

具体的には申し上げられませんが、買取専門の事業者やリースバック専門、仲介に強い会社など、どんな案件にも最適なご提案ができるような体制をとっております。

―不動産業界に対して感じている課題はありますか。

不動産仲介会社の間で、各社の強みや違いがユーザーに分かりづらいというのは感じます。

―不動産仲介業において、どう差別化を図れるのかは大きな課題です。

ユーザーが不動産事業者に求めるニーズは、2つに集約されています。

「早く売りたい」か「高く売りたい」かです。

早さを追求するなら買取業者がありますね。問題は高く売りたいケースです。同じ仲介をやっている企業がたくさんあるなかでどこが良いのか。

業務で差別化がないから、広告費をかけてくれそうな大手に流れてしまうことも多い。

―「囲い込み」といった悪習慣もありますね。エンド顧客の利益に背反する事業者も多い。

また、「better相続」のユーザーに限らず相続案件として多いのは、既に不動産事業者に売却を依頼しているなかで、担当者から「○○の税制特例が受けられます」と提案されたのに、実際には特例が受けられなかったというケースですね。

税理士以外の方が個別に税務のアドバイスをしているので税理士法にも抵触してしまうし、誤った知識で顧客をミスリードしてしまっている。こういった問題も、上手くとりまとめていかなければいけないと感じています。

―今後の展望はありますか。

当社のミッションは「相続問題のない社会を実現する」です。相続問題とは、「相続税」のことだけでなく、「争族」や「老後資金の確保」など様々なものがあります。

「better相続」はあくまで1つの問題に対するソリューションでしかなく、

多くの課題を抱えているこの分野でテクノロジーを活かしたサービス開発を加速させ、相続問題のない社会を実現していきたいと考えています。

 
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