遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。

 

今回は、管理コスト削減と入居者満足の向上が期待できるサービス「app-me!Cloud(アップミー!クラウド)」を開発しているゴールドキー(愛知県名古屋市)木全雅仁社長に聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

 

 

ゴールドキー・木全雅仁社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

 

―サービスについて教えてください。

 

「app-me!Cloud(アップミー!クラウド)」というサービスを開発・提供しています。これは、管理コスト削減と入居者満足の向上を目的としたもので、入居者と管理会社を繋ぐコミュニケーションサービスです。

 

入居者への契約更新案内やトラブル対応といった賃貸管理業務を効率化します。

 

 

「app-me!Cloud」

 

 

入居者に専用のアプリを入れていただくことで、チャット機能を使った問い合わせや契約内容の確認をはじめ、様々なサービスが利用できるようになります。

 

「app-me!Cloud」は、何時何分に誰がどういった機能を使ったのかのデータを管理しています。入居者に向けた「お知らせ」をアプリのプッシュ通知で送ったときも、何人に送って何人が読んだのかといったことも、すぐに把握することが可能です。

 

また、保険の更新などもアプリ内で完結するため、郵送の手間やコストが発生しません。

 

 

―最近では、様々な企業が「入居者管理」や「入居者コミュニケーション」を目的としたサービスを提供しています。「app-me!Cloud」の差別化ポイントはどういった部分ですか。

 

入居者にアプリを使ってもらう工夫が他社サービスと大きく異なっている部分です。

 

他社では、管理会社にとって便利なツールでも、入居者にとってはあまり意味のないものが多い。入居者がアプリを開く必要性を感じていないということです。

 

「app-me!Cloud!」は、チャットや契約情報の確認といった基本的な機能以外に、入居者にとって便利な機能を充実させています。

 

例えば「ごみカレンダー」機能です。入居している地域のごみ出しの曜日情報を掲載しています。物件の所在地から、対応した市区町村のごみ出し情報を自動でクロール(収集)し、常に最新の最新の情報を掲載しています。

 

そのほかにも、公共施設や飲食店・美容室といった周辺情報も、物件から半径10キロメートル以内で近い順に50店舗ずつ自動で生成して掲載しています。

 

また、全国に3,600店舗を展開する便利屋のフランチャイズと提携しており、家具の組み立てからハウスクリーニング、害虫駆除やペット葬儀まで、物件所在地に一番近い店舗からスタッフが30分以内に駆けつけるサービスもあります。

 

 

―入居者にとって便利なサービスや機能が充実しているのですね。

 

入居者にとってダウンロードする意味や、アプリを使う利便性を感じてもらうことが重要です。

 

オプションサービスですが、ソフトバンク社が100%出資しているビューン社と提携しており、入居者向けに雑誌・漫画読み放題サービスも提供しており、入居者は無料で雑誌14誌と漫画1万冊を読むことができます。転じれば、「このマンションに住めば、無料でそういったサービスが受けられる」という不動産会社にとってもアピールポイントになりますね。

 

「app-me!Cloud」は、不動産・物件の中で生活している人のプラットフォームを目指しています。不動産会社や管理会社も守りつつ、入居者を便利にしていくことが重要です。

 

 

―何社が利用していますか。

 

大家や管理会社、250社以上に利用いただいています。

入居者のアプリダウンロード数は39万を超えました。

最近では分譲マンションや一軒家、建売住宅で利用したいという問い合わせも来ていますね。

 

 

 

ゴールドキー・木全雅仁社長 画像=リビンマガジンBiz編集部

 

―「app-me!Cloud」を提供するきっかけは、木全社長自身の経験があったとうかがいました。

 

現在も、祖父の代から続く木全商店(愛知県・名古屋市)という会社を経営しています。

 

昭和27年(1952年)、満州から帰ってきた祖父が名古屋で呉服屋として木全商店を始め、昭和47年(1972年)に不動産賃貸業に変わりました。私が年少の頃です。

 

私は明治生命保険相互会社(現:明治安田生命)に勤めていましたが、2004年に木全商店を受け継ぎました。当時は1人で120戸の管理を行っていましたね。すると、元々金融業界にいたからか、不動産業界の風習にとても不安を感じたことを覚えています。

 

例えば、契約申込書の送付にファックスを使っている。当然、誤送信も多い。私のところにもよく届きました。不動産会社に間違っていることを伝えると、「捨てといてください」で終わりです。個人情報の観点から見ても改善余地が多々ありました。

また、大家も、管理会社に任せっきりで、極力入居者とはかかわりたくない方が多かったのです。

祖父からは、「不動産賃貸業の基本は、玄関を掃除して毎日入居者に声をかけることだ」と言われていました。入居者は大家にとってのお客様なのでも、コミュニケーションが大切だということです。私もその考えを重んじていました。

 

 

―不動産賃貸業の基本には、入居者とのコミュニケーションがある。

 

しかし、木全商店も物件数が増えていき、今ではマンション12棟、店舗が24店舗、そのほかにもサブリース物件なども含めると、日本全国に物件があり、全ての入居者と密なコミュニケーションを取ることが難しくなってきました。

 

そこで、入居者とのコミュニケーションサービスを提供するために、2012年GoldKeyを立ち上げました。

 

 

―すぐに「app-me!Cloud」が生まれたわけではないようですね。

 

最初の取り組みが、マンションのエントランスにデジタルサイネージを設置することでした。遠隔から、サイネージにコンテンツを発信できるサービスです。

 

しかし、使えませんでした。入居者に全く見てもらえなかったのです。

 

次に、全ての部屋にタブレットを配りました。

独自にシステムを構築し、出前サービスや掲示板機能なども入れました。しかし、これも全く使われなくなってしまいました。結局、設備としてタブレットを配っても風化してしまったのです。

 

こちらの思惑で、入居者の生活に関係ないものを渡したところで、見てもらえないし、手に取ってももらえないことが分かりました。

 

そして、2014年に「app-me!Cloud」の前身であるアプリをリリースしました。入居者本人の携帯電話にアプリとして潜り込ませるためです。

 

すると、ようやく入居者とのキャッチボールができるようになり、リアルな情報が入ってくるようになりました。

 

「自分の駐車場に違法駐車がある」

「台風のあとで、ものすごくゴミ置き場が散らかっている」

 

といった情報などもリアルタイムで写真を撮って入居者が送ってくれるようになりました。

 

 

―サイネージやタブレットなど、試行錯誤の末に生まれたサービスが「app-me!Cloud」だったわけですね。しかし、管理会社には入居者とのコミュニケーションを取りたがらない会社も多い。

 

2~3年前までは、そういう管理会社がほとんどでした。

 

しかし、全国の大家や管理会社と話をするなかで「やっと変わりつつあるな」と肌で感じています。2018年頃から、「入居者もっと密接にと繋がらなければいけない」と考える会社が増えてきました。

 

 

―潮目の変化は何が要因だと思いますか。

 

2020年4月の民法改正です。

そのなかでも「賃貸部分の一部損失による賃料の減額」が大きいでしょう。

 

改正以降は、風呂が利用できない、エアコンが故障しているといったことで、契約通りの機能がないとされ、家賃が減額されてしまう可能性がある。

 

賃料の減額は、管理会社や大家への負担の可能性が高くなります。そうなれば、現場ではクレームや混乱が起きてしまうでしょう。でも、そういった情報は、入居者と繋がらなければ把握できないことです。そこで、管理会社も入居者と繋がろう、証拠を残そう、写真を撮ろう、といったことを前向きに考え始めています。

 

大家自身も「管理会社に任せているだけでは入居が決まらない」「自分たちも何かしなければならない」という気持ちが生まれています。

 

大家も管理会社も入居者と繋がることで、サービスを向上させる方法を探し始めています。

 

ゴールドキー・木全雅仁社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―39万以上のダウンロードがあるアプリという点で、データの活用は考えているのでしょうか。 

 

将来的には様々なデータ活用ができると思っています。

 

例えば、同じ条件でマンションが2棟あるとします。

満室ならそれぞれ5億円の価値がある。

 

しかし、同じ満室でも家賃延滞のない住人ばかりのマンションと、延滞が発生する住人が住むマンションでは、資産価値は同じですが、実際は異なります。建物の劣化も、綺麗に使ってくる属性が分かれば、長持ちするはずです。

 

属性データや情報を集めることは途方もなく大変です。しかし、不動産会社がこういった仕事を行っています。入居者の属性データが集まれば、様々な形で新しいサービスを提供できるのではないでしょうか。

 

 

―マンションや建物ごとの入居者属性が分かれば、物件の提案にも活用できますね。

 

仲介事業者の物件提案に役立つと思います。

記入してもらったアンケート情報からレコメンドされた条件の情報が出せる。これまでと少し違った仲介の方法です。不動産会社のレベルアップにも繋がります。

 

 

―今後の不動産業界について伺いたい。どういった会社が生き残り、不動産テックが提供できる価値とは何でしょうか。

 

これからの不動産業界には効率化が求められます。

2030年には30%にまで達する空き家問題、2050年には人口が1億人を下回ります。明らかに居住空間が余る。

 

管理会社ならば遠隔対応や少人数で高品質なサービスが求められるでしょう。また、入居者も変化する。今以上に「このマンションに入ってやるよ」というスタンスになる。

 

 

―借り手市場になる。

 

日本の変なところですが、江戸時代から「大家」と「店子」という言葉がありますね。

 

「大きい家」と「お店の子」、大家にしてみれば入居者は子どものような力関係でした。

 

しかし、それも地域によって、変化の兆しがあります。中国・四国地方では大家と入居者のバランスが崩れていきます。店子の方が強くなっている。これはAD料として顕著に反映されています。

 

中国地方ではAD3がスタンダードになっている地域があり、地方都市の一部ではAD6といった数字もあります。そして入居者は手数料ゼロです。これを一部の現象とみるのか、それとも先行した未来だと思うかで、対応は変わってくる。

 

これからは、入居者が強くても、選んでもらえるだけのサービスを提供できる会社しか生き残れないのではないかと思います。もう、更新料を1カ月分取っていけるのは入居者に困らない都内の一部の人気物件だけになってしまうと思います。

 

 

―大家と入居者のバランスが変わってくる。

 

私が大家の先輩として、若い大家さんに伝えているのは「これから大家は儲からない商売だから、絶対にあぐらをかいてはいけない」「大家業を事業として捉えなければ、茹でガエルになって死んでしまう」ということです。

 

管理会社や仲介会社は、自分たちを守るために必死です。

大家がぼーっとして、他人に任してしていては、茹でガエルになってしまいます。

 

賃貸業界には大家を頂点にしたヒエラルキーがありますが、大家は気分を改める必要があります。本当に未だに入居者をお客様だと思っていない人がかなりいますから。

 

大家が基本的な考え方を変えなければ、管理会社も仲介会社も変わらない。

 

大家が今後の不動産業界の未来を理解して、管理会社も大家に沿ったサービスを考え、やっと生き残れる業界になるのではと思っています。そういったことを後押しするようなサービスを目指したいと思っています。

 

 

―将来の展望はありますか。

 

当社の企業理念は「住人の快適な生活のために高品質、高付加価値なサービスを提供し、生活文化の向上に貢献します。」です。

 

最初から不動産テック企業を目指していたわけではない。高品質・高付加価値なサービスを幅広く面で捉えようと思ったら、テックになった。

 

そのなかで、まずは管理の効率化を徹底します。

現在開発中ですが、家財保険や家賃保証、新電力や生活インフラの切り替えが、アプリで完結するようにする。同時に、サービスや機能を拡充し入居者の満足度を高めていく。

 

そして、アプリの利用頻度が上がれば、IoTデバイスとの連携やスペース活用といった分野にも展開することができると思っています。

 

また、「app-me!Cloud」を海外にも広げて行きたいとも考えています。

東南アジア諸国だけでも15~6億人の人口があり、今後インフラや住宅、ビル建設が活況になってくる。成長していくタイミングで、最初から入居者とのコミュニケーションを取るというサービスや文化を作ることができれば良いと思っています。

 
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