遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。

 

今回は、賃貸管理ビジネスのためにAIを活用したコミュニケーションサービス「PROPERTY CONCIERGE(プロパティコンシェルジュ)」を開発するPID(東京・港区)の嶋田史郎社長に聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

 

PID・嶋田史郎社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

 

―サービスの概要を教えてください。

 

当社が2019年12月から本格的に提供を開始した「PROPERTY CONCIERGE(プロパティコンシェルジュ)」は、賃貸管理業界向けのAIコミュニケーションサービスです。顧客管理を目的にオーナーや管理会社に導入いただいています。

 

入居者から「鍵をなくした」「更新時期について知りたい」といった問い合わせがあれば、多言語AIチャットボットが24時間365日、自動で対応します。営業時間外や定休日であっても問題ありません。ボタン一つで「ロボットモード」から「マニュアルモード」に切り替え、担当者が自ら入力して、マニュアルチャットで対応することもできます。

 

特徴は、日本語だけではなく英語や中国語など、10以上の外国語にも対応している点です。ボタン一つで「外国語」と「日本語」の切り替えが可能です。

 

例えば、中国人の入居者から中国語で問い合わせがあったときも、多言語AIチャットボットは中国語で問い合わせを対応しますが、管理者は日本語でロボットと入居者のやり取りをリアルタイムで把握することが出来ます。

また、1:nのような一括送信機能が付いており、言語にあわせて自動翻訳対応機能があるので、マニュアルチャット時も、リアルタイムで中国語・英語に翻訳されて送信されるので、言語を気にせずに入居者対応することができます。

 

 

「PROPERTY CONCIERGE(プロパティコンシェルジュ)」

 

 

―現在何社が利用しているのでしょうか。

 

検討段階の企業も含めると15社ほどですね。

合計の管理戸数は数万戸単位になります。最初は中小の管理会社をターゲットにしていたのですが、大手からの引き合いが多いですね。

 

 

―「PROPERTY CONCIERGE」のような、入居者とのコミュニケーションツールを業界で浸透させるためにはいくつかの課題があるという指摘があります。例えば、管理会社の多くは、クレームを受けたくないため、入居者と積極的にコミュニケーションを取りたがっていないといったイメージがあります。

 

なるべくコミュニケーションしたくないという会社はありますが、入居者へのサービスを向上させることによって解約率を低下させるべき、と考える会社もあります。

 

「PROPERTY CONCIERGE」を導入いただくきっかけとして、大手は外国人入居者への対応、多言語機能のニーズです。

 

中小規模の管理会社からは「入居者へ付加価値サービスを提供したい」という狙いの問い合わせが多いですね。24時間の自動対応などへのニーズです。ITやテクノロジーに明るく、管理物件数が毎年20~30%伸びている管理会社などは、前向きに考えていただいていますね。

 

 

―既に数千戸単位で管理物件を持っている管理会社はどうでしょうか。危機感のない会社もあるのではないでしょうか。

 

「PROPERTY CONCIERGE」を導入することで業務が減るかもしれない、だけど、入居者から取り合わせが増えてやぶ蛇になるからやりたくない、といった会社は一定数あります。

 

また「PROPERTY CONCIERGE」を導入いただくケースとして、分譲マンションのマンション管理会社や入居者の利用も増えています。

 

賃貸物件の場合、オーナーが嫌がれば外国人の入居を拒否することができます。しかし、分譲マンションは外国人も購入することができる。

 

一部の分譲マンションでは、外国人居住者の割合が高まり、マナー問題や管理組合の不参加といった問題が発生しています。マンション管理会社からしても、英語や中国語に対応できるスタッフが少ないため困っていたようです。

 

PID・嶋田史郎社長=撮影=リビンマガジンBiz編集部

 

 

―東京の湾岸エリアやタワーマンションでも、外国人所有者の割合が高いことでのトラブルが増えて、社会問題化してきています。

 

一部の管理組合では外国人への入居を抑制したいと思っている一方で、政府方針ではさらなる在留外国人の受け入れを始めるなど、認識の矛盾が生まれています。

 

今後もトラブルは増えるはず。では、なぜトラブルを解決できないのか。

その大部分は相互の共通認識の問題であり、多言語コミュニケーションの問題と言い換えられます。

 

特に日本人は語学が苦手な人が多い。解決する1つの方法が「PROPERTY CONCIERGE」です。

 

分譲マンションや賃貸業界において、管理の効率化はこれからの課題です。そのなかには、これから増えていく外国人居住者との言語問題の解決も含まれています。

 

 

―これから空室が増えていくなかでは、外国人の受け入れ体制が重要になってくる。

 

なぜ一昔前は、特に賃貸物件で外国人が受け入れられなかったのでしょうか。それは、外国人が入居することによって空室率が高まると言われていたからです。外国人が入居すると、他の入居者が出て行ってしまう。

 

しかし、これは本当なのでしょうか。「外国人が入居したから空室が増えた」という決定的な証拠はありません。

 

私が住んでいるマンションにも外国人が住んでいますが、挨拶をしますし、むしろ無愛想な日本人よりも周りに迷惑をかけない。管理組合でも外国人を理由にした苦情は全く出ていません。結局、外国人が問題になっているわけではないのではないでしょうか。

 

外国人入居者への対応が十分にできないことが問題だったのです。

 

 

―税理士・公認会計士の資格を持つ嶋田社長が、不動産業界に向けたサービスを提供しようと考えたきっかけはあったのでしょうか。

 

大手会計事務所を辞めて、MBA取得のためにアメリカへ留学したことがきっかけです。

 

日本人向けではない地元の管理会社に直接交渉し、賃貸物件を契約したのですが、そこでトラブルが発生しました。

 

私が契約したのは、新築でファニッシュド アパートメント“furnished apartment”と呼ばれる家具付きの物件でした。1カ月後に入居する段階で、洗濯機と乾燥機が設置されるという説明を受けたのですが、いざ入居すると、洗濯機と乾燥機が設置工事の途中で放置されていた。

 

管理会社に連絡すると、「管理会社では分からないのでデベロッパーに連絡して欲しい」、デベロッパーに連絡すると「メーカーが設置しているからメーカーに連絡して欲しい」と、たらい回しの対応でした。

 

留学したばかりで、あまり英語が話せないなかで、コミュニケーションにも非常に苦労しました。結局、業者が設置してくれたのですが、1カ月半ほどかかり、寒い季節でのコインランドリー生活も学校行きながらのトラブル対応をし続けるのも辛かった。こんなトラブルを経験しなければ、賃貸管理に疑問を持つことも無かったのですが…スムーズに行かなかったときのしんどさが分かりました。

 

転じれば、これから外国人が増えていく日本でも同じようなトラブルがあるかもしれない、と考えたことがそもそものきっかけですね。

 

 

―嶋田社長自身の苦労した経験から構想が生まれたわけですね。

 

その後に決定的なことがありました。

あるスタートアップ企業のCTOである中国人の方と話していた際「日本で住むことはしんどい」という言葉が出てきた。

 

何がしんどいのかと聞くと、「言葉が分からないことがしんどい」。私のアメリカでの経験を伝えると、困っている事象は違うけれど、真因は同じなんですよね。

 

 

―具体的にはどういったことでしょうか。

 

代表的なものでは、ゴミ捨ての問題ですね。まず、ゴミの分別という概念が外国人には分からない。ゴミをゴミ捨て場に捨てたら怒られる。外国人には意味が分からないですよね。

 

カタカナで「プラ」と書いてあって、「プラスチック」だと分かる外国人はいません。日本語の文章を読んで、ゴミを分別することには、とても高度な理解が必要なのです。

 

 

―外国人入居者がもっと住みやすい環境を作っていかなければならない。

 

アメリカに住んでいる外国人や日本に住んでいる外国人にヒアリングを行うなかで、外国人入居者の問題は、日本だけではなくグローバルで起きていることも分かりました。

 

「PROPERTY CONCIERGE」が日本でソリューションを提供することができれば、カスタマイズすることで他の国にも展開することができそうだと強く感じました。

 

「PROPERTY CONCIERGE」は最初から海外展開をイメージして作り込んでいます。

 

PID・嶋田史郎社長 画像=リビンマガジンBiz編集部

 

―「入居者への価値提供」や「管理の効率化」といった文化を、賃貸業界に根付かせるためには何が必要でしょうか。

 

業界で「チャットを使う」という行動パターンや文化を作ることだと思っています。

 

昔は、女性に告白するのであれば面と向かって言葉で伝えないとダメでしたが、今ではLINEで告白するのが当たり前の時代です。つまり、チャットで人間関係の構築をすることが当然の時代に突入しています。ほとんどの人がスマートフォンに慣れたことで、人間の行動パターンは変わっていきます。

 

「PROPERTY CONCIERGE」は、今はまだアーリーアダプターの人たちにしか使われません。しかし、行動パターンが変わり「不動産業界は非効率だから変えていこう」という考えに対して、徐々に管理会社やオーナーの理解が生まれ、浸透していくと思っています。

 

 

―将来の展望や目指しているものはありますか。

 

日本のマーケットで便利なサービスを提供して、かつ日本発で世界の不動産テックを目指したいと思っています。2020年のうちに、まずは東南アジアにオフショアの拠点を作り開発と同時に、現地でもサービスを提供していきたいと思っています。

 

また、現状の「PROPERTY CONCIERGE」は、鍵を受けてから鍵を返すまでの、入居中をカバーしていますが、さらにサービスの枠を広げていきたいと思っています。

 

例えば、原状回復や工事業者とのスケジュール管理ができる機能などによって、さらに管理会社への利便性が高まる。また、これまで管理会社が提供していた管理の幅も広げて行きたいと思っています。

 

 

―管理の幅とはどういったものでしょうか。

 

部屋の単位は1戸です。1戸という単位が集まれば階数という単位になります。階数が集まれば1棟です。その次の単位は地域です。

 

通常の管理会社がカバーしているのは1棟までです。

「PROPERTY CONCIERGE」が周辺の情報を集めることで、管理会社が「お祭りやっているみたいですね」といったアナウンスできるような機能があれば、管理会社の幅は地域まで広がります。

 

周辺の情報を管理会社が発信することで、住民と管理者会社のコミュニケーションが柔らかくなり住環境の雰囲気も良くなる。そういった地域そのものをIT化することで、不動産テックではなく、造語になりますが都市テックになれるかと思っています。出来るだけ、日本のスマートシティーの発展に貢献できるようなサービスにしたいと思っています。

 
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